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【鎮魂の風】

※この作品は軽度のゴア表現があります。

※画面から離れて観てください。
















この世界はどうも魔法が当たり前に使われているようだ。

しかし、馬車の往来や建造物の触感から、おそらくそこまで文明レベルは高くない・・・



 


 この概念はいわゆる中世の様な世界らしかった。何故記憶がないのに文明についてある程度見識をもって比較出来たのかは謎だが、鳴いてる鳥のさえずりや虫達のノイズ等は違和感なく受け入れることが出来たし、言葉以外の雑踏には面倒そうだという感想を抱くこともあった。


 


 とりあえずこうして思考するのに不自由しないのであれば大した問題でもなさそうだ。


 


 道すがら様々な事を話した。

さっきまで居た暗い箱の中のことや、この世界のこと。



久しぶりに誰かと会話した感覚があった。きっと前世は孤独だったんだろう。


 


 「召喚魔法の発動には膨大な魔力が必要なの」


 


 「私1人では流石に難しかったから勿論、他の魔導師の方々にも手伝って貰ったわ。そして数年かけてようやく完成した」


 

 

「数年!?年単位なんて、召喚魔法とやらはそんなに時間が掛かるのか・・・」


 

 

「それはそうよ。世界の理を越えるためにはその位は必要だったし、貴方に代償を強いてしまったのは本当に申し訳ないとも思うわ。でも、それほど貴方...クロは私達の希望なの!」


 


 希望か・・・



 

 

「誰かに期待されるのは悪い気分じゃあない。こうやって大人に成るにつれて他人に期待される機会も徐々に減っていくんだ。それに代償のことは気にしなくていい」


 


 「まァそうだな・・・運命として受け入れることにするさ。見返りとしてはかなりのモノを用意させてもらうけどな。」


 少し意地が悪かったか?だが、この程度の皮肉で済むなら彼女の罪悪感も少しは和らぐというものだろう。どうせ記憶が無いんだからあまり深く考えても仕方がない。


 

 

 少しでも前世の思い出でも覚えていれば目が見えない事をハンデに感じたはずだが、気持ちとしては赤子と言うにはあまりに成熟し過ぎている。


青年のまま赤子と同じ状況に成ったという感じか。




 まァ彼女が言うには対価として相応しい能力を手に入れているはずらしい。それに期待するとしよう。


 

 

「うっ...何も言えないけど・・・でも本当に有難う。私達も出来るサポートはなんだってするわ!」


 

  

 リリィは貴族として幼い頃からよく教育されていた。何処からか漂ってくる気品の根源はそこだったのだ。


 

 生まれつき魔力がとても高く、若くして賢者の才があった彼女は家族達と世界を巡る旅で現在の世界平和と安寧を求める思想を獲得したらしい。勇者召喚はその延長線上にあったのだ。


 

 

 服装は失明の影響で想像することしか出来ないが、衣擦れの感じからして恐らく綿の服でバサバサしている。少しオーバーサイズ気味な印象だ。


しかし、脚はタイトな布で覆われているんだろう。

それに...良い香りもする。




これで美人じゃなかったら詐欺だ。



 

 「どうしたの「なんでもない」

 勿論被せるように跳ねた。



 


 「気を付けてね。もう少しで王都を出るわ。」


 



「この辺は魔王の身体から造られた魔物と呼ばれる生き物が生息しているの。まぁ私の魔法があれば何とかならないことも無いけど・・・」




「あっ、そういえば私は翻訳魔法を使っているけど貴方にも掛けておいた方がいいわね!この世界に慣れるためにも」


 


「あぁ、言われてみればそれもそうだ。有難う、それに君としか話せないというのは、無知な身としていささか不利だしな」


 


「じゃあいくわよ」



 

「魔深の根源たる神々、ポルセラム・ラクーン・ヴァルプ・カタスに告ぐ」



「我は御方々に仕える賢者リリーム・ディアヴォレス・ド・メンダーシュス....」


 


 彼女はとても流暢に呪文を詠唱している。

なるほどな。彼女に言語翻訳魔法が掛かっているから

話し言葉が他者にも通じるのか。


 

 つまり術者自身が言語を理解出来る魔法ではなく、あくまで他人に『伝える』魔法であるという訳だ。


 

 なおかつ術者自身もその言語が理解出来るようにまた別に言語魔法を掛ける。


インプット&アウトプットが別々に存在する魔法ってことだ。


 

 確かに言語翻訳魔法を2つに分けることで汎用性が高くなる。日常・戦闘・偵察等、状況を問わない使い分けによって物事を有利に立ち回る事も容易だ。



 

「万物と交わせ、リンガ・レイト!!」




 いつの間にか詠唱を終えて彼女が掛けてくれたこの魔法があれば、街の喧騒を少しでも好きになれたかもしれない。







 


 歩くだけで風が心地好い。春の陽気の緑豊かな草原が目の前に広がっているような気がする。




いや、きっとそうだ。肌に覚えはないが本能的に

『知っている』・・・




 

「1つ疑問がある。目も見えないのにどうして魔王を倒せると言うんだ?代償の代わりに得られる最高の力って一体何なんだ?」


 



 

「それは人それぞれ無作為なのよ。通常、異世界から召喚される際に自身の1番秀でた何かが差し出されるの。貴方にとってそれは眼(視力)だったのね。」


 




リリィはきっと俯きながら話しているのだろう。

誰より賢い彼女は、異世界から来た赤子の心の中で

フツフツと煮え立つ憤りやイバラの様な葛藤が生まれていることに責任を感じているのだ。




 有難い話ではあるが前世の記憶も、この世界の予備知識がない赤子同然の身にとってあまり関係の無い感情だった。



 


 「でも貴方のように五感を対価で差し出すことは滅多にない。過去の召喚者でも前例は・・・聞いたことがない」




 「きっとかなり強力な権能を授かっているわ。何か感じない?」




 「君の手の温もり以外に感じる事と言えば風の触感と・・・そうだな、何か空気がピリついているというか」


 



 「冗談が言えるなら十分よ。」

 



彼女はきっと少し苦く笑いながら真剣な顔付きで、

 「ここは『古戦場タージ・グラディオラム』王都の眼前、タージ平原の中心」

 




 「見えないかもしれないけど、ここには数多くの魔剣が刺さったままになっているの」





 「つまり魔剣の墓場・・・ってことか?」

 



 「空気がピリついているのはきっとその行き場を亡くした魔力のせいね。」


 




 「屋敷への近道・・・という訳ではなさそうだな」


 

街の喧騒もすっかり聞こえなくなっていた。

心做しか鳥のさえずりや虫の羽音さえ聞こえない気がした。

 


彼女はこの手を離して「手探りでいいから、この中から

1本選んで」と言った。

 



 「は?」

 



 

 「魔剣は今後必要になってくるわ。滅多なことでは錆びないし、別に呪われたりする訳じゃあない。いいから1本選んで!」




と言っても見えている訳でもない。

言われた通りに手探りで剣を漁った。



確かに沢山の剣が刺さっているようだ。

その中に妙に手触りの良い剣があった。




 そして勢いよくそれを引き抜いた!





ーーーーーキィィィインーーーーー




 


「意外と軽いな・・・!」




剣身の丈が2m前後と長く、幅が10cmを優に超えていた。





 軽く振ってみるとキィイと金属を擦り合わせた様な音がする。


 

 

「魔剣には大抵、色々な永級支援・保護魔法が掛けられているの。だから何百年も前の古戦場に平気な顔して朽ち果てずに突き刺さっていられるのよ」





 「確かにこれなら遠回りしてでも手に入れた価値はあるな!」




とても軽い。



 


 「それにしても見た感じ剣術についてはド・素人ね...ま、これから鍛えればいいわ。屋敷には剣術師もいるから」


 

 ムッ・・・

 


少し心外だが悪くない。

 脅威を討伐する為に彼女等は全力で協力してくれるということだろう。



リリィは再び手を取り歩き出した。



 


 ピュイっ!




 


 「それじゃあ行きましょう!クロ」



 

 きっと目が見えていたなら、彼女は数年...あるいはそれ以上の悲願を無事に成し遂げれられる可能性が生まれた喜びによって高揚して笑顔を隠せずにいただろう。



 


 ボンっ!!






 突然何かが目の前で弾け、同時に大量の生暖かい水を浴びた。



 それが赤い水だってことは匂いと顔に飛び散った

破片の味で気が付いた。




思わず両膝が地面と衝突した。








 「え・・・?」










 軽くなった彼女の手は血を滴らせながら、ボトりという音と共にタージ平原の中心へ落ちた。





 


 嗚呼、酷く耳鳴りがする。

 なんだこれは。


 






 「我が名はクヴィディタス!!第2魔王ロヴェムが臓器の1柱!グワーッハッハッハ!」






 

 正面10m程度から大柄そうな男の声。


 





え?どういうことだ。

何も整理がつかない。







こんなことは初めてだ。

動悸が激しい。





 

 どうする?

 たたかう?

 にげる?







 

浮かんできたどの選択肢も役に立たないクソなものばかりだった・・・最悪だ。

 






 「して、その女といた貴様が召喚者か?」

 「ム、それは魔剣?なんで貴様が...」





 う、





 「うわぁぁぁぁあ!!!」走った。







 


 ピュイっ!


 

 

 なんなんだ、どうすればいい!


 まだ殺さないでくれ。


 異世界に召喚されて数時間も経たないうちに殺されるなんて身勝手すぎる...それだけは許容できない!




 


 ボンっ!



 


 どこへ向かっているのかも分からずにただ真っ直ぐ走った。





 リリィの肉片や骨が全身に突き刺さっているのか全身が痛い。



 




 ってあれ?なんだ?







痛み以外に身体の感覚がない。








 頬だけが、さっきまで心地好いと感じた春の風を一身に受けていた。


 



 「四肢を失っても身体の感覚は”記憶”として残っているらしいな」




 


 「ん?お前・・・その眼」





 

 待ってくれ!視力を失った対価として強力な能力を得られるんじゃあなかったのか?

 





 こんなにあっさり死ぬなら、何の為に理不尽にも

呼び出されたんだ?







 疑問は生まれても、声が出ない。

 





 「これは大切な武器だろう?棄てるなよ」





 「それにしてもこんな雑魚共にどうにかできるほどの力なんてある訳がねぇのに、ロヴェム様は一体何を考えているんだ?」





 「ゴボゴボゴボッ」




 声を吐き出す代わりに僅かな体内に残っていた空気が血液を纏って放たれる。







 「全く惨めな野郎だなお前さんも。じゃあな、死ね」





ーーーーーーーピュイっ!





 

 


意識が遠のくのが分かる。





いきなり本番だなんて。








 

嗚呼、ダメだ。








何も出来なかった。

 







死ぬ。








 


 

 

ボンっ!!











……To be continued

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