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腹黒薬師の八つ当たり  作者: くろう
3/6

薬師の青年③

 衛士とのやりとりが終わると、一行はレオの家に向かう。


 道中、今度はアレンの方から問いかけた。


「衛士さんと仲良いんですね。ハヤテ君も懐いてるみたいですし」


「小さい村だしな。大体の奴とは顔見知りだよ」


 振り返らずに答えたレオの後ろで、アレンは一瞬怪しい笑みを浮かべ、


「うん、予想通り」


と呟いた。しかしレオにその声は届かない。


 アレンはすぐに表情を笑顔に切り替え、あらためてレオに返す。


「そんなお顔の広ーいレオさんに、ひとつお願いがあります」


 今度こそ振り返ったレオは、しかし森の中とは違い特に警戒せずに答えた。


「なんだまたか。まぁ小猪運ぶの手伝ってもらってるしな、俺にできることなら手伝うぜ」


「そう言って貰えると助かります。実は、明日の一〇時から広場で薬の販売をしようと思うんです。ただ、旅人の薬を無警戒で買う人はあまりいないでしょう? なので宣伝役というか、呼び込みとしてお手伝い頂ければ、と」


「あー、確かにそうかもなぁ。いいぜ、やってやる」


 レオはアレンの依頼を快諾した。と同時に自宅に到着したようだ。


「さ、着いたぜ。そうだ、どうせだから飯でも食ってけよ。うちの嫁さんの飯は美味いぜぇ」


 食事に誘われたアレンだったが、


「いえ、すぐに宿に戻って薬の調合をしないと。それに、突然お邪魔してもご迷惑だと思いますし、奥さんがよろしければ明日のお昼にでも」


と、すぐに断った。


「おぅ、そうか。ならそう伝えとくぜ。また明日な!」


「はい、また明日」


 挨拶を済ませたアレンは宿へ足を向けた。



 アレンがうさぎ亭に戻ると、丁度女性が出てきたところだった。


「お疲れ様です。カーラさん」


 カーラと呼ばれた女性は、アレンの姿を確認すると笑顔で答えた。


「あらアレン君、お疲れ様。どう? 薬草採集はうまく行ったかしら?」


「はい、おかげさまでいい感じです。籠、すぐにお返ししますね」


「ゆっくりでいいわよ。開店準備もあるし」


 アレンの泊まっているうさぎ亭は、村唯一の宿屋であると同時に、唯一の酒場でもあった。


 カーラはそこの女店主で、十三歳になる娘と二人で切り盛りしている。


 身長は女性にしては比較的高め、肩ほどまである薄緑色の長髪を後頭部の高い位置で纏めており、力強く主張する豊満な胸は、垂れ気味の目尻と相まって否応なく母性を感じさせる。


 今は夜の部に向けての準備時間であった。


「ありがとうございます」


「昨日も言ったと思うけど、夕ご飯は酒場の営業時間までに食べに来てね」


「了解です」


 そんなやりとりをして、アレンは宿部屋のある2階へと上がっていった。


「さて、今日の収穫はっと」


 部屋に戻ったアレンは、背負っていた籠を下ろし中身の仕分けを開始した。


 植物類、キノコ類、木の実類に大別し、その後に同じ種類を小分けにしていく。


 ものの数分で、ごちゃ混ぜだった籠の中身は10種類に分けられた。


「ふむ、これなら傷薬、睡眠薬……あとは洗髪剤が2種類と消毒液、調味料ってとこか」


 薬草の内訳で出来る薬品とその量に当たりをつけると、口元に当て布をして調合作業に入った。


 始めに、活性効果のあるタケキノコを刻み、水と一緒に耐熱容器に入れて火にかけて出汁をとる。


 十分に出汁が出たら、刻んだヒーリン草と一緒にすり鉢に入れ、すり潰してから鍋へ。


 これを何度か繰り返し、全てのヒーリン草に同様の処理を行う。


 次に、催眠効果のあるネチャイ草と鎮静効果のあるシズメダケを刻み、水と一緒に蒸留器に入れて湯気が漏れないよう弱火で蒸留、その間にアルコの実を搾り、蒸留が終わった溶液にその果汁を少量混ぜ、気化しないように密閉する。


 残った果汁の大部分は別の容器に移して同じく密閉、一部は霧吹き容器に入れた。


 続いて、油分豊富なオリブの実の搾り油を二つの容器へ分ける。


 香り高いノノバラの花はすり潰し、柑橘類のモレンの実は剥いた皮のみを絞ってそれぞれのエキスを抽出、先程分けた搾り油に塩と一緒に混ぜ、香りを移してゆく。


 モレンの実の果実部分は、果汁を絞りアルコの実の果汁と混ぜ合わせる。


 最後に、辛味成分を持つチョウカラ草を細かく刻み、同様に細かく刻んだシビレダケを痺れがでない程度の分量だけ混ぜる。


 その混合物を弱火で炒めて加熱乾燥させた後、さらにすり鉢ですり潰した。


 完成した薬品は、それぞれ販売用の容器に移して品名の書かれたラベルを貼ってゆく。


「ふぅ、ようやくひと段落かな」


 ひたすら無言で作業をしていたアレンが、数時間ぶりに口を開いた。


「後はコレを煮込むだけだし、先にご飯にしよう」


 アレンはヒーリン草の入った鍋を一瞥して部屋を出る。階下からは飲み屋を兼ねた食堂の賑やかな声が届いていた。



 階下に降りたアレンはカウンター席に腰掛け、カーラに声をかける。


「お疲れ様です、カーラさん。今日も盛況ですね」


 カーラは料理の手を止めずに返す。


「あらアレン君、お疲れ様。ご飯にする?」


「はい。『うさぎ肉の香草焼きセット』をお願いします」


 アレンは昨日と同じく最安値のセットを注文した。


「あら、今日もそれなのね。もしかして薬屋さんって余裕ないの?」


 カーラは少しからかうような表情で尋ねる。


「正直あまり。販売用の容器は都度まとめ買いなので、それが結構痛いですねぇ」


「あら、ごめんなさいね。悪気はないのよ?」


 アレンの素直な肯定に申し訳なさを感じたのか、カーラは直ぐに謝罪した。


「分かってますよ。お気になさらず」


「そう? ならよかった。うさぎの香草焼きね、ちょっと待ってて」


 そう言ってカーラは料理に集中する。


 同様に、アレンは周囲の声に意識を集中させた。


 そして一つ、気になる話題を捉えた。

お読みいただきありがとうございます。

今回は更新はここまでです。次の更新でヒロイン登場までは進める予定です。しばしお待ちください。


本作品は不定期更新です。遅筆な上、数話分溜まったら纏めて更新する予定なので、更新頻度は少なめです。予めご了承ください。


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