ネガティブ公爵令嬢を教育したら予想以上の効果が…アレド皇太子の愛の物語。
アレド皇太子が初めて、マリーディア・レテリウス公爵令嬢に会ったのは、アレド皇太子14歳。マリーディアが12歳の時であった。
場所は皇宮の大広間である。
皇宮に両親と共に来たマリーディアに対しアレド皇太子が感じたのは栗色の髪のおとなしそうな表情も暗い令嬢というのが第一印象であった。着ているドレスも灰色のちょっとレースの飾りがついているシンプルで地味なドレスで。
レテリウス公爵夫妻はもう一人の令嬢を伴っていた。名はエレナ。金の髪に青い瞳の明るい眼差しの少女は10歳。マリーディアと違い、レースがふんだんにあしらわれた可愛らしいドレスを着ていた。
黒髪碧眼であり、それなりに美男なアレド皇太子を見るなり、走り寄って来て、
「素敵な皇子様っ。私は、エレナというの。」
レテリウス公爵が慌てて、エレナの手を引き、連れ戻して、
「申し訳ございません。無作法で。」
アレド皇太子は首を振り、
「構わぬ。まだ子供だ。作法を心得ていないのであろう。」
マリーディアの方は、アレド皇太子を見て、カーテシーをし、頭を下げる。
アレド皇太子はマリーディアに、
「そなたがレテリウス公爵家の長女、マリーディアか?」
「はい。マリーディア・レテリウスと申します。」
そこへ、カッテリア大帝国の皇帝、ルード皇帝と、アマリア皇妃が大広間に入って来た。
ルード皇帝は、マリーディアを見て、
「そちがマリーディアか?レテリウス公爵家の。」
マリーディアは同じくカーテシーをし、
「マリーディア・レテリウスと申します。」
はっきりとした口調で、にこやかに挨拶をする。
アマリア皇妃も頷いて、
「可愛らしい令嬢ですこと。我が息子の婚約者にふさわしいですわね。」
すると、レテリウス公爵夫人が、進み出て、
「発言をお許し下さいますか?皇帝陛下。」
「ああ、何だ?」
「マリーディアより、エレナの方を婚約者にするのは如何でしょう。御覧の通り、マリーディアは冴えない容貌、それに比べてエレナは金の髪に青い瞳、先行きさぞ美しくなるに違いありませんわ。ですから、エレナをアレド皇太子殿下の婚約者に。」
アレド皇太子はマリーディアの顔を観察していた。
落胆したような、そんな表情のマリーディア。
彼女は確かに地味な容姿をしている。
続いてエレナの顔を観察した。
ニコニコこちらを見ているエレナ。
成程、妹のエレナの方が派手な顔立ちで、先行き美しくなるであろう。
だが、調べはついていた。
エレナはレテリウス公爵夫人の連れ子であり、レテリウス公爵の血は引いてはいない。
マリーディアは亡くなった前妻との子で、公爵の血を引いているのだ。
二年前まで市井で暮らしていたレテリウス公爵夫人のルリーナ。
酒場で働いていたとも言われているが、娼婦のような事もしていたという。
エレナはだから誰の子か解らない。
そこを知らないとでも思っているのだろうか?
アレド皇太子は思う。
なんて浅はかな…我がカッテリア大帝国の皇族を馬鹿にしているのではないのか?
アレド皇太子はレテリウス公爵夫人に、
「私が婚約を望むのはマリーディアだ。妹のエレナなんて女に興味はない。」
レテリウス公爵夫人は、大きく目を見開いて、
「まぁ。エレナの方が可愛くて美人なのに?」
エレナは首を傾げてアルド皇太子の顔を見上げ、
「私、皇子様のお嫁さんになりたいの。」
アマリア皇妃が口元を扇で隠しながら、眉を寄せて、
「レテリウス公爵。どういう教育をしているのですか?」
真っ青になるレテリウス公爵。
「いえ、まだエレナは幼くてですね。」
「我が息子の言葉が聞こえなかったようですね。そもそも、エレナという女、貴方の子ではないのでしょう?そんな女の血を我が皇家へ入れろと?馬鹿にしているのではありませんか?」
「ですが、皇妃様。手続きを致しまして、エレナは我が娘と、私の養女と認められております。ですから…」
「だまらっしゃい。マリーディアを我が息子、アレドの婚約者にします。その汚らわしい娘をわたくしに見せないで頂戴。」
アレド皇太子は思った。
さすが、大帝国の女神と言われている母である。
アマリア皇妃は非常に優秀で、実家のミルディック公爵家も権力があり、政治も兄である宰相と共に中心になって取り仕切るやり手だ。
ちなみに父、ルード皇帝は優秀な皇妃がいるお陰で、何とか威厳を保っている、今一頼りない皇帝だ。
エレナはレテリウス公爵夫人に泣きついて、
「うわーーーん。あのおばさんが虐めるっ。」
アレド皇太子は頭が痛くなった。
気を取り直して、マリーディアに挨拶をする。
「婚約者になったアレドだ。よろしく頼む。マリーディア。」
「マリーディアです。よろしくお願い致します。」
容姿なんてどうでもよかった。優秀であればよい。
そうアレド皇太子は思っていたのだが…マリーディアがあんなにネガティブな女性だとはその時、思わなかった。
マリーディアの皇妃教育が始まった。毎日、皇宮に通って貰い、諸外国語から始まり、マナー、ダンス、この国の歴史と色々と勉強が始まったのだ。
アレド皇太子は思った。
時間の許す限り、マリーディアと交流しよう。
せっかく婚約者になったのだ。
今から仲を深めておくのもいいだろう。
自分も未来の皇帝になるのだ。皇帝教育がある。
その忙しい合間を縫って、マリーディアに会いに行った。
一緒に紅茶を飲み、焼き菓子を食べ、共に休憩する。
そんな時、マリーディアは暗い顔で言うのだ。
「わたくしは駄目な女なのです。勉学も難しくて…父上も母上も、お前みたいな駄目な女は未来の皇妃にふさわしくない。エレナのような可愛らしい天使のような子がふさわしいと、何度も何度も。エレナはとても綺麗なドレスを買って貰えて、皆に可愛がって貰えて。でも、わたくしのような地味な女は嫌われて当然だって。毎日のようにグチグチと言われるのです。わたくしなんの為に生きているのかしら…何を食べても美味しくないし…何をしても楽しくなくて…苦しいばかり。皇太子殿下。どうか、わたくしを婚約者から外してくれませんか。ああ、でも婚約者から外されたら、駄目な女として家を追い出されてしまいますね。追い出されたら修道院という所へ行かされるのでしょうか?修道院という所はどんな所なんです?わたくしみたいな女でも役に立つんでしょうか?」
12歳の少女が…マリーディアが真剣な眼差しで、聞いてくるのだ。
アレド皇太子はマリーディアの手を握り締めて、
「そんな事を言わないで欲しい。まだ皇妃教育も始まったばかりだ。君は非常によく頑張っているじゃないか。それじゃこうしよう。今度、ドレスをプレゼントしよう。化粧の上手い者に化粧して貰って、一緒に夜会に行ってみないか?」
「わたくし、ダンスが踊れません。それに夜会って大人が行くところでしょう?そんな所へ行って、笑われたくないですわ。」
「それならば、まずは、一緒に庭を散歩する所から始めようじゃないか。」
「散歩?」
「そうだ。散歩だ。我が皇宮の庭はとても綺麗な花が咲いているんだ。特に薔薇園は素晴らしいぞ。君に見せてあげたい。」
「薔薇なんて見たって…綺麗だって感じたこともありませんわ。いつも妹の部屋には、可愛い薔薇の花が飾ってあって。わたくしの部屋には何もなくて。母が言いますの。わたくしのような地味な女には薔薇なんて華やかな花は必要ない。エレナのような可愛らしい子こそ、美しくて華やかな薔薇が似合うって。」
アレド皇太子は思った。マリーディアの心は相当傷ついている。
何としても癒してあげたい。
「そんな事はない。君に似合う華やかな薔薇を私が選んであげるから。だから、一緒に薔薇を見に行こう。」
その日の皇帝皇妃教育は休みにして貰い、アレド皇太子はマリーディアと共に庭に出た。
薔薇は盛りの時期を迎えていて、色とりどりの薔薇が華やかに咲いている。
「マリーディア。ほら、見てごらん。庭園の薔薇はとても綺麗だろう?」
「いやっ…わたくしにはふさわしくないの。わたくしは日陰で咲いている花がふさわしいのよ。」
マリーディアがしゃがみ込んだ。
両手を覆って泣き出した。
返って傷つけてしまった。どうしたらよかったのだ?
アレド皇太子はどうする事も出来ずにため息をつくのであった。
更に困った事に、娘の様子を見るのだと、レテリウス公爵夫人がマリーディアだけでなくエレナを連れて、とある日やってきた。
皇妃教育の邪魔でしかない。
アレド皇太子の姿を見ると、エレナが突進してきた。
「皇子様ぁ、エレナとお茶しましょうっ。」
まだ10歳の子供である。
母であるアマリア皇妃は仕事で忙しく、こんな事を報告して手を煩わせたくなかった。
レテリウス公爵夫人はオホホホと笑って、
「まだ子供ですから。本当にエレナは可愛らしい。それに比べてマリーディアは。」
アレド皇太子はブチ切れた。
「近衛騎士。レテリウス公爵夫人とエレナ嬢を馬車に押し込んでくれ。」
「はっ。かしこまりました。」
近衛騎士達が強引にレテリウス公爵夫人とエレナを捕まえて、馬車へと連れていった。
「何するのよっーーー。」
「エレナ帰りたくないっ。」
あんなのと一緒に暮らしているから、マリーディアが暗い令嬢になってしまったのだ。
かといって、マリーディアはレテリウス公爵令嬢。家族と引き離すわけにもいかない。
せめて、自分がマリーディアの考え方をポジティブに、明るい方向へ導く事が出来ないだろうか。
アレド皇太子は決意した。
マリーディアを変えるのだ。丁度いい見本が近くにある。
母、アマリア皇妃である。
元々、彼女も公爵家の出で、勝気で凄く強い女性だ。
アレド皇太子は母のような強い公爵令嬢にマリーディアを教育する事にした。
皇妃教育の合間を縫って、アレド皇太子自ら、マリーディアの考え方を変えていくことにした。
「そもそもおかしくはないのか?エレナは公爵家の血を引いていない。君は引いているのだろう?だったら、もっと堂々としてればいい。」
「でも、父上も母上も…」
「言い訳は聞きたくない。いいか?あんなどこの馬の骨とも解らない妹に負けるな。気高い公爵家の血を引いているのはマリーディアだ。いずれ私の妻になり帝国の日の光となるのもマリーディアだ。自信を持て。」
「でも…」
「でもじゃない。地味な容姿だと言うが、そんなの化粧でいくらでも化ける事が出来る。母上を見るがいい。凄く濃い化粧をして、素顔は平たい顔だが、それはもう美人に変身しているぞ。女は化けるのだ。マリーディアだっていくらでも美しく化ける事が出来る。」
「そ、そうですの?」
「そうだ。それに皇妃教育を受けている君は他の令嬢達と比べて高みに登る機会がある。君は優秀だと教師が言っていたぞ。」
嘘である。マリーディアは飲み込みはいい方だが、際立って優秀という訳でもなかった。
まだ12歳。子供の部類である。
マリーディアの両肩に手を置いて。
「共にこの大帝国の為に。努力しよう。いいか?マリーディア。」
「解りましたわ。」
会うたびに、アレド皇太子はマリーディアに吹き込んだ。
君はこの国一番の最高の女性だ。背筋を伸ばして、もっと人を見下すように…
薔薇の花を沢山送ろう。君程、薔薇の花が似合う女性はいない。
そうだ。もっともっと、高みへ…君はカッテリア大帝国の光になるのだから。
ネガティブなマリーディアであったが、家で過ごす時間より皇妃教育で皇宮で過ごす時間が多かったおかげか、だんだんと性格が明るくなっていき、アマリア皇妃を見習って、お洒落の仕方も覚え、見違える程に美しい令嬢へと成長した。
4年の月日が経った。
アレド皇太子18歳。
マリーディア16歳。
「今日も庭園の薔薇が綺麗ですわ。アレド皇太子殿下。」
マリーディアが薔薇の庭園から手を振って、自分を呼んでいる。
美しいマリーディア。
アレド皇太子はマリーディアの傍に行って同意する。
「そうだね。何て綺麗なんだろう。」
綺麗なのはマリーディア。君の事だよ。よくぞここまで美しくなったものだ…
心の中でそっと呟く。恥ずかしくて恥ずかしくて面と向かって言えない。
薔薇の花を見ながらマリーディアは嬉しそうに、
「赤の薔薇の素敵ですけれども、桃色も可憐でいいですわね。」
薔薇の花よりも、何よりも…マリーディア、君が愛しくてたまらない。
でも…君は政略だけで傍にいるだけだろうに。
一度も愛しているって言って貰った事もなく、こちらも愛を囁いた事もない。
「マリーディア、結婚しよう。」
「え?」
「今度の夜会で発表しよう。私達は婚約して4年経つ。皇妃教育もほぼ終わっているだろう。頃合いだから…」
「そうですわね。よろしくお願い致しますわ。」
言えなかった。愛しているって言えなかった…
結婚を発表してから言おう。愛しているって…政略だけではないって…
そう強く心に決めるアレド皇太子であった。
そして数日後。アレド皇太子は皇宮の夜会で、マリーディアとの結婚を発表する日が来た。
ルード皇帝も、アマリア皇妃も出席し、大勢の貴族達が着飾って夜会を楽しんでいる。
そんな中、アレド皇太子は白を基調とした正装をし、同じく白の美しいドレスを着て、キラキラ輝くティアラを着けたマリーディアをエスコートする。そして夜会の会場へゆっくりと入った。
この4年間、マリーディアの性格を明るい方へ導くように努力した。
最近のマリーディアはよく笑い、とても明るくなったのだ。
皇妃教育もほぼ終わり自分に自信がついたのだろう。
アマリア皇妃とも仲良く一緒にお茶をしている姿も見かけるようになった。
そんな愛しいマリーディアとの結婚を今日、発表する。
何と嬉しい事であろうか。
アレド皇太子は広間に集まった貴族達を見渡して、声を張り上げる。
「皆の者、聞いてくれ。私、アレドは長き間、婚約をしていたマリーディア・レテリウス公爵令嬢とこの春、結婚する事となった。皆、祝ってくれ。」
その時、会場の中から、叫び声が聞えた。
「皇太子殿下っ。考えなおしてくれませんかっ。」
転がるように前に飛び出て来たのは、マリーディアの妹エレナだった。
胸元が開いたピンクのドレスを着て、涙ながらにエレナはアレド皇太子に訴える。
「私の方がふさわしいのです。姉より私の方がお父様お母様に可愛がられてきたのですわ。それにこんなに可愛らしくて美人でしょう。だから、私と結婚して下さいませんか?皇太子殿下。」
アレド皇太子は頭が痛くなった。
4年前に追い払って以来、夜会でよく見かけたが、いつも違う男性にしなだれかかり、愛想を振りまいていた。
どういうつもりだ?
せっかくの結婚発表の場に水を差して。
母であるアマリア皇妃を見れば、青筋を立ててエレナを睨みつけている。
父は空気だ。
すると、マリーディアが白のドレスを翻し、優雅にエレナの前に進み出た。
「エレナ。どういうつもりかしら。わたくしの結婚発表の場を台無しにして。」
「お姉様はふさわしくないのよ。美人の私こそふさわしいのよ。」
「おだまりなさい。」
マリーディアは扇を手に、にこやかに笑いながら、
「わたくしはこのカッテリア大帝国にふさわしい皇妃教育を受けているのです。それに、血筋もレテリウス公爵家の正当な高貴な血を引いているのですわ。わたくしこそ至高。わたくしこそ帝国の太陽です。そのわたくしと帝国の輝ける神であるアレド皇太子殿下とのめでたい結婚発表を邪魔するとは。不敬極まりない。わたくし知っておりますのよ。貴方が色々な貴族令息達と身体の関係を持っているという事を。下賤な女。」
そう言うと、扇でバシっとエレナの頬を引っ張いた。
床に転がるエレナ。
その頬をヒールのかかとで踏みつける。
「お姉様ぁ…許してぇ…」
青くなってレテリウス公爵と公爵夫人が転がり出て、
「エレナに何をするっ?」
「そうよ。可愛いエレナの顔がっ。」
ぎろりとマリーディアが二人を睨みつける。
「わたくしに逆らう気?大帝国の太陽。そして、未来の皇妃に?投獄してやろうかしら。投獄がふさわしいわね。」
アレド皇太子は焦った。
ちょっと違う方向へ教育してしまった?
ちらりとアマリア皇妃をみれば、満足そうに微笑んでいる。
母上だな???母上があのような行動を取れと吹き込んだ?
アマリア皇妃はレテリウス公爵夫妻の前に進み出て、
「下賤な。もう我慢出来ぬ。エレナという娘。二度と皇宮への出入りを禁じる。鞭で百叩きの上、外へ叩き出すように。」
エレナは叫んだ。
「私は悪くないっーーー。私は美人なのぉーーー。私は皇太子殿下にふさわしいのよぉーー。」
レテリウス公爵はがっくりと項垂れ、レテリウス公爵夫人は真っ青になって…
マリーディアはアマリア皇妃に、
「鞭で100回も叩いたら死んでしまいますわ。やはり反省をする機会を与えないと。」
アマリア皇妃は頷いて、
「そうね。レテリウス公爵。エレナを修道院へ入れるがいい。鞭打ちは勘弁してやりましょう。この度の事に関して公爵家の責任は問わないとする。」
レテリウス公爵は床に頭を擦り付け、土下座し。
「有難うございますっ。」
レテリウス公爵夫人も同じく土下座をし、
「感謝します。」
アレド皇太子はそそっとマリーディアに近づくと。
「君こそ至高?帝国の太陽なのか?」
「オホホホ。まさか…皇妃様の許可を貰って発言していますわ。さんざんわたくしの事を馬鹿にしたエレナに言ってみたかっただけですの。今の帝国の太陽は、ルード皇帝陛下。未来の太陽は貴方様ですわ。」
そして、心から幸せそうにマリーディアは微笑みながら、
「本当に今のわたくしは幸せ。薔薇は美しく見えるし、何を食べても美味しいの。皇妃教育はほぼ終わっているけれども、まだまだ学びたい。学ぶ事は楽しいわ。ああ、これから先、この帝国の為にわたくしはどう役に立つ事が出来るかしら。有難う。貴方様のお陰よ。」
「そういう君は私の事を…その…」
そう、ずっと傍にいた…励まし続けた。
でも、愛しているって言ってもらった事がない。いや、こちらからも愛を囁いた事がない。
結婚をするのに心が解らない。政略なのが口惜しい。
ああ…でも、そうだった。結婚を申し込んだら愛しているって言おう。そう思っていたんだった。
マリーディアはまっすぐにこちらを見つめて、
「アレド皇太子殿下はどうなのです?わたくしの事は政略だけですの?」
愛しさが込み上げる。私は…マリーディアの事を…
「愛している。政略だけではない。頑張り屋なマリーディア…よくぞここまで明るくなってくれたね。これからもっともっと、互いを高めて。君は最高の女性だ。マリーディア。マリーディア。」
マリーディアを抱き締めて、その唇に口づけを落とす。
周りの貴族達が拍手をしてくれた。
アレド皇太子とマリーディアは結婚し、共にカッテリア大帝国の為に生涯尽くした。
カッテリア大帝国は更に発展し、最も優れた皇帝アレドとそれを支えた皇妃マリーディアとして名を残したという。