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第Ⅳ話『闇夜の出会い』前編

一日降り続いた雨もその日の夜深くには止み、町にはうっすらと霧が広がっていた。


街灯が足元を照らしている、だが霧に覆われた大通りの視界は悪い。静まり返る町を東へと少年は進むのであった。


 東へと広がる港は祭りの後の休息か未だ静かに、ただ波の音だけが響き渡る。所々に備え付けられたベンチは昨日の雨の装いを残し、濡れたベンチを街灯が照らしていた。そのベンチの水滴を払い腰掛けた少年は、日も登らない真っ暗な海を見ながら考え込むのであった。



「・・・・・・・ミーナ」



夕方遅くに館へと戻ったエルは傘も差さずにびしょ濡れであった。

家人の一人から渡されたタオルを、頭にかぶり自室へと戻ったのである。



クンパッパの店主に断られた後も、他のケーキ屋や料理屋にも足を運んでいたのだが、結果は同じ。その夜、寝室に入るも眠ることは出来ずに館を抜けだしたのだった。




「俺に何が出来る・・・・・・なぜ、誰もミーナを助けてくれないんだ・・・・・・」

「辺境伯の息子が聞いて呆れる・・・・・・・。何も出来ないじゃないか・・・・・・」



 頼る手立てを失った少年の心にざわめく感情は、少年を暗く・・・暗く落ちていく。

 晴れることのない霧のように、心に纏った靄は消えず、考えをまとめることが出来ないのであった。




そんな時である。


「あんた、いつまでいるんだよ!!!!!!」


波の音以外聞こえる事のなかった港に、怒号が響き渡った。

声のした方へと、慌ててエルは振り向いた。



バンッ――――――


勢いよく開かれた扉から出てきたのは、180を超える身長に鍛え抜かれた筋肉が一目でわかるほどにしっかりとした体躯の女性であった。

飛び出してきた女性の片腕には軽々と持ち上げられた荷物っ・・・・・・・いや人であった。


「おらぁぁぁ!」


掛け声と共に片手に持っていたそれを港へと投げ捨てたのである。

何とも野蛮・・・剛腕な女性に驚き、エルは声も上げられずにただ見守るだけであった。


投げ捨てられた人はどこを強打したのか、痛みに悶え奇妙な態勢で奇声をあげるのであった。


中に戻った女性がまた戻ってきた、今度は大きな荷物を持って。

先ほど自分が投げ捨て未だに痛がる人へ向けて見事なオーバースロー。

それが見事に的中し、悶えた人の動きは静かに止まった。


「フンッ!」


バタンッ――――――ベキッ。



勢いよく閉まった扉は、その勢いに耐え切れなかった。

片方の金具が壊れたのか、扉は不思議な隙間を開けて静止している。

「アァ――――――――ッ!」

「また、やっちゃったよ~あんた~ごめんよ~」


怒号からの叫び声、その後に続く猫なで声はコントのごとく、酒場に客がいれば爆笑必死であろう。

だが、明け方目前の港には二人の姿しかない。

一人はその活動を停止し、もう片方は驚き固まるのであった。



終始見守ってたエルは、動かなくなった人なる者に恐る恐る近づいていく。

「大丈夫だよな?・・・・・・死んでるとかないよな?・・・・・・」



「あのー・・・・・・生きてますか?」


「・・・・・・・うぅっ」

反応が返って来たことに、エルは安堵した。

「・・・・・・大丈夫ですか?」


「あぁー・・・・・・なんとかね。イテテテ・・・・・・」


完全に停止していた、その人はゆっくりと動きだし、その場に仰向けに寝転んだのだった。

少し離れた所で小さくしゃがみ込むエルへと向けて話しかけた。


「いやーひどい目にあったよ・・・・・・・」

「なにも、投げ捨てなくてもいいじゃないか・・・・・・なぁ?」

「大切な荷物まで・・・・・・海に落ちなかっただけマシか?」

所々で尋ねられるも現状を把握出来ないエルは、反応に困るのであった。


「・・・・・・おじさん、何かしたんですか?」

「その・・・・・・支払い踏み倒したりとか・・・・・・?」

ジト目で見るもお互いに顔までは確認できない程、暗闇は広がっていた。



「いやいや!そんなことしていないよ!」

「むしろ、夜通し飲み食いして十分売り上げに貢献したよ?」

「なんなら二日間?二日半も食べて、飲んで、ちょっと寝てただけだから!」


「・・・・・・おじさんが全く悪くないわけじゃなさそうですね」

二日間も滞在するとは飲食店を宿泊施設とでも思っているのだろうか。祝願祭中ならまだ飲み通すのも頷ける。だが、祭りは一日前に終わっている。

そこからさらに一日も飲み続けられては、店も困るというものであった。

「なぜだ!なぜ俺が責められている~?あれだけ支払っているのに!」

釈然としないおじさんを他所にエルは続けた。


「でも、大丈夫そうでよかったです、おじさん」

「少年よ!心配してくれてありがとう!」

「だがしかーし、まだおじさんと呼ばれる歳ではないので、お兄さんでお願いするよ!」

右手を高らかにあげ、自称お兄さんを宣誓。


街灯から離れ、照らしていない場所で倒れていた事で顔はうっすらとしか見えず、声だけで判断していたのだった。


「ごめんなさい・・・・・・顔まで見えなかったので、声でおじさんかなって」

「いや、少年からしたらおじさんか?いやいや、まだお兄さんで通るはずだ」

小声で何かつぶやく自称お兄さん。そして。


「俺はまだ26歳だ!どうだ!おじさんじゃないだろ?」

自信満々に年齢を宣言したのだった。


「イテテテ・・・・・・・よっ・・・・・・と」


ゆっくりと起き上がり、投げ捨てられた荷物へと歩み寄る。街灯に照らされた荷物を手にかけたその時、エルは自称お兄さんの正体を見るのであった。




「・・・・・・・・・夢人・・・!」



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