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道化な僕とギャルな君  作者: 月うさぎ
第三章 決闘開始
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閑話 安曇総司の独白

 今目の前で起こっていることが、夢だったらどれほどよかっただろう。

 創造神様ティアマト様から始まり、ロキ様、アーニャ様が順番に降臨された。


 これだけでも、驚きなのに厄災級の中でもトップクラスのミカエル様とリオン様まで一条蒼くんサイドについたのだ。


「……源次郎くん。あれはレプリカというわけではないな?」


「嘘でも私にはそのようなことは言えません。異界での出来事だというのに、私のアウラや他の魔術師たちが萎縮してしまっている。要は、姿を見ただけでこれだけの影響があるのです」


「これは……世界が荒れるな」


「それだけで済めば良いですがね。よく深い者たちは既に動き始めています。私も先ほど軍部の方に各世界に隠蔽工作を行うように指示しました。それでもどれだけの意味があるか……」


 軍の総帥である八幡源次郎を持ってしても、今回の件は手に余るようだ。

 まぁそれもそうだろう。

 目の前で広がる惨状を見て、安心できるのは彼の友人くらいだろう。


 そもそも、今回の決闘は加藤の完全勝利で終わるシナリオだったはずだ。

 あの一条の顔に泥をぬれるならと、多くの没落した名家や軍、政府などが動いたのだ。


 私からすれば、どうでも良い話ではあるが、今回の思惑に参加している者の中には政府の中でも重要なポジションにいるものもいたので、あまり強く出れないのだ。


 しかし、こんなことなら無理にでも止めておくべきだった。


 今や、加藤家に勝機などない。


 むしろ、あの方たちの逆鱗に触れないことを最優先に私たちは動くべきだ。


「一条蒼……彼は一体何者なんだ」


「普通の名家の子息というわけではなさそうですね。特に一条蒼くんに関してはあまり良い噂は聞かなかったが……これのためか」


「彼の友人たちも厄災級アウラとの契約に成功しているようだ。全く、予想外のところに大きな爆弾を抱えていたようだ」


 厄災級アウラとの契約者は、できるだけ軍に所属してもらい国のために戦って欲しいというのが私たちの本音である。

 ただし、それを強制することはできず、そのためにこの魔法学園を設立したのだが、名家の出と言われてしまえばそれも無意味となってしまう。


 一条、水無瀬、北小路……この三つを筆頭に今年の一年生は粒ぞろいのようだ。


「無理矢理にでもこちら側に引き込みますか?」


「一つ聞くが、あれを相手に無理矢理何かできるか?」


「……無理でしょうね。最悪、ティアマト様一人で今の日本を沈めることができるでしょう。いや、日本だけで済むと良いですね」


「私もそう思う。あれは……私たちがどうにかできる限度を超えている。御伽噺の中にしか出てこないと思っていたよ。まさか、実在するとはね」


 ティアマト様たちは、始祖の神とも言われている。

 私たちが生きるこの世界の他に幾千幾万もの世界を統括し、その頂点に君臨するお方たちだ。


 本来、姿を見れただけでも幸せのはずなのに、今私たちの胸は晴れないでいた。


「柊木くん。君なら、彼を止めることができるか?」


 私は後ろで護衛をしてくれているS級魔法師に声をかけた。

 彼は既に獅子王学園の講師として働いているようだが、今回ばかりは私たちの元に来てもらった。


「僕ですか? 勘弁して欲しいですわ。あんなんと戦う気になりませんって」


「やはりか……」


「まぁでも僕が見るに、一条くんは優しい子やと思いますけどね。今回みたいに汚い手を使って彼を引っ張ろうとするから悪いんですわ。正面からお願いしたら、案外話聞いてくれるかもしれませんよ?」


「柊木、それは私たちが彼に頭を下げろと?」


「えぇ、それが一番だと僕は思いますね。今の大人たちは頭が硬い上に、変なプライドばっかりで面白くないと思いません? なんで僕が軍を辞めて講師になったか、わかりますよね?」


「柊木! それ以上はっ!」


「いい。柊木くんのいう通りかもしれないな。私の頭ひとつでこの日本が救われるならばお安い御用だ」


 むしろ、それで一条くんが協力してくれるならお釣りがくる。

 今もロキ様が暴れているようだが、不思議な花を咲かせた瞬間に周囲のアウラが即死しているようだった。


 今回、加藤家には多くの厄災級アウラや、それに準ずるアウラを提供しているはずだ。


 それが、まるで赤子のように捻られているのだからもう笑うしかないだろう。


 私はこの光景を見て一つだけ確信した。

 あれは、逆らって良いような存在ではない。

 初めて姿を見れた事による嬉しさもあるが、それ以上にあれは絶対に刺激してはいけないものだ。


 きっと、これから彼の周囲にはさまざまな欲望が取り巻くだろう。


 総理大臣という立場から、彼のことを支えることはできないが、それでも彼の逆鱗に触れるものがいないように、私たちも策を練る必要がある。

 柊木くんの言葉が事実なら……いや、その言葉を信じるまでもなく、今目の前で起きている光景が全てだ。

 一条くんは、一人の少女のために自らを犠牲にしているのだ。


「本当に、彼のような若者が出てきてくれてよかったよ。次世代は有望株が多そうだ」


「ですね。僕もそれはずーっと思ってます。今はまだ僕たちが彼らを守る立場ですけど、そう長くない間にその関係も逆転しそうですよ」


 現S級魔法師である柊木くんですらそう思っているということは、一条くんだけでなく彼を取り巻く仲間たちも並々ならぬ実力の持ち主なのだろう。


 そんなことを考えているうちに、勝負は終わっていた。

 結果は言うまでもないが、一条くんの圧勝だ。

 いや、逆にティアマト様たちを相手に傷をつけることができる相手がいるなら、教えて欲しいくらいだ。


「柊木くん、私と源次郎くんは彼に挨拶をしてくるよ」


「わかりました。でも、彼の前で変に欲かかんでくださいよ。そう言うのに聡い子が近くにたくさんいますからね?」


「あぁ、十分気をつけよう」


 こうして、私と源次郎くんは一条くんならびにティアマト様たちに挨拶にいったのだが、結果は少しだけ上手くいったのだろうか?

 最初は少し不穏な空気が流れていたが、最後には少しだけ彼と良い関係を築けたと思う。

 私と彼は全く立場は異なるが、今後も彼やその周りには少しだけ注目していこう。


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