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道化な僕とギャルな君  作者: 月うさぎ
第三章 決闘開始
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閑話 水無瀬家の序列

ー朱音視点ー


「朱音、おかえり」


「はい。ただいま帰りました。お父様」


 私が家に帰ると、珍しく父も家にいた。

 大方、私がどこかに行かないかを監視してるんだろうけど、そんなのしなくても私がこの家を裏切るようなことはないから安心してほしい。


 ずっとそうだ。

 小さい時からずっと、この家は私の幸せを奪っていく。

 名家に生まれて、お金に不自由してこなかったのは、本当に感謝している。


 でも、それだけだ。


 他の家ではごく当たり前に注がれている愛がこの家にはないんだ。


「お前を加藤の御子息に嫁がせることになった。それに伴い、あの学園は辞めてもらう。いいな?」


「っ……はい」


「これはお前のためだ。今は苦しいかもしれないが、そのうちこれが最適だったとわかる時がくる」


 父はそう言って、電子端末を使用して何処かと連絡をとっている。

 もうすでに私には興味を失ったのか、それ以降何も話しかけてくることはなかった。


「なんでこうなるの……」


 私は自分の部屋に引きこもると、思わずそんな言葉が漏れていた。


 私はまだ結婚なんてしたくない。

 好きな人が誰なのかも分からないのに、結婚なんて絶対にしたくなかったし、それがあの加藤くんだって言われても、嫌だ。


 あの時は冗談だとしか思ってなかったけど、本当にここまでくるとは思わなかった。

 というより、加藤家にここまでの影響力があるとは思ってなかった。


 まして、あの父がこの婚約を許したことが、信じられなかった。


 そんなに私ってこの家でも価値のない人間なのかな……


 こんな時に、蒼が隣にいればどうしてくれただろうか?


 いつもみたいにくだらない冗談で私を笑わせてくれるのかな?


 まぁ、もうそれも叶わないんだけどね。

 今日から、彼らと一緒にいることはできなくなった。


「そんなの……嫌だよ」


 私も、今すぐこんな茶番を終わらせて、蒼たちの側でバカやって、いっぱいいっぱい楽しいことをしたい。

 でももう叶わない。

 明日からは、またあの時のように色のない世界で生きていかなくちゃいけないんだ。


 そう思った瞬間、目から勝手に涙が流れてくる。


「ん……泣いてても仕方ない。どうせ、家からは出れないんだから、一旦寝ようかな」


 せめて、夢の中でくらいは幸せなことが起きてほしい。

 私はそう願いながら、無駄に大きなベッドで眠った。




「朱音様。ご当主様がお呼びでございます」


「ありがとう。少し待って」


 せっかく、寝ていたのに家で雇っている使用人によって起こされてしまった。

 本当に今日は散々だ。

 落ち着いて眠れもしないなんて……


 ただ、ここで駄々をこねても、私が不利益を被るだけなのはよくわかっているので、最低限の身だしなみを整えて、使用人と一緒にお父様の部屋へと向かった。

 

 それにしても、なんの話なんだろ。

 婚約の話なら、別に今じゃなくてもいいし、他のどうでもいい用件で私を呼ぶことは絶対にないはず……


 そんなことを考えているうちに、目的地であるお父様の部屋の前までついた。

 使用人は入ることが許されていないため、ここからは一人だ。


「お父様、私です」


「入りなさい」


「はい」


 私たちは本当に親子なのかと言いたいほど簡素なやりとりをしながら、対面することになった。

 お父様は私の方を見て、うっすらと笑みをこぼしていた。


「緊急で話がある。加藤家の御子息が、一条の一人息子の決闘を受けたらしい」


「蒼がっ⁉︎ ……失礼しました」


 私は蒼が話題に出てきてつい食いついちゃったけど、本来ならここで叱られるところだ。

 でも、それを咎めるつもりはないらしく、お父様は私を無視してさらに説明を続けた。


「決闘の内容は、お前をかけたものらしい。一条家の息子が勝てば、お前は望み通り今まで通りあの学園に通うことができる。まぁ、負ければ一条家の息子は全てを失うわけだがな」


 一瞬、お父様の言葉が信じられなかった。

 確かに、蒼はいっつも仲間思いだ。

 でも、それは自分を犠牲にしていい理由にはならない。


 人一倍強いあいつは、人一倍戦うことを嫌っている。できれば、私はあいつに戦ってほしくない。


「お前は一条の圧勝で終わると考えているだろうが、そう簡単にはことは進まない」


「そ、それはどういう……」


「明日になればわかることだが、加藤家は現在大急ぎで軍や異世界から戦力を集めているところだ。私の予想では、第一級アウラが15、第二級から三級アウラが50。そして、厄災級のアウラを5体と言ったところか。全て、軍部機密品だろうが、人工物なので加藤家は容赦なく出してくるだろう」


 私はそれを聞いて、血の気が引いていくのがわかった。

 いくら、蒼がティアさんたちと契約していると言っても、そこまでの数がいると勝負もわからなくなってくる。


 もし、その数の人工アウラが蒼だけを目指して攻撃すれば、蒼が無事ではない確率が高い。


 それに、私のせいでティアさんたちのことが露見するのは避けたい。


「お父様、今すぐその決闘を取り消してください。私は大人しく、加藤家に嫁ぎます」


 さっきまで、死ぬほど嫌だったけど、これで蒼を守れるのならば別にいい。

 最後に一回くらい、蒼の顔が見たかったけど、まぁ仕方ない。


「それほどまでに、一条家の息子のことを好いているのか? 正直に言おう、私は一条はお前に相応しくないと思っているのだが……」


 お父様は本気でそう思っているのだろう。

 もしかしたら、今回の婚約も少しは私のことを思ってのことかもしれない。


 でも、それでも私にだって許せないことはある。


「お父様、私の前で蒼の侮辱はやめていただけますか? いくらお父様でも、次に同じ発言をすれば……この家を燃やしますよ?」


「ほう、娘が父親に反抗か……」


 お父様は、すごい圧力で私を睨んでくるが、私も同じで殺気をこめてお父様を睨んだ。

 お父様も、同じ厄災級のアウラと契約しているから、私たちが戦えば家が潰れるから極力避けてきたけど、さっきの発言を許すつもりはない。


 私にだって、許せないことはある。


 婿入り前に、最後の炎をお父様にぶつけてやるのも悪くない。


「……わかった。先程の発言は謝罪しよう。しかし、もう決闘は取り消せない。とりあえず、明日はお前も学園についてきてもらう」


 お父様は、私を興味深そうに見ながらそういった。

 その時、もう一度だけ蒼に会えることに胸がとくんとした。


 ……心臓が変だ。

 

「わかりました。私も申し訳ありませんでした」


 私はお父様に一礼して、部屋から退出した。

 最後には、お父様は私に興味を無くしたようで、机の上に整理されている紙に視線を向けていた。


「はぁ……蒼、無茶しちゃダメだよ」


 私は、自然と小さい声でそう呟いた。

 私たちの親友が、傷つかないように、私は切にそう願うのであった。

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