第五十八話 混合戦3
「リン! 全力で逃げるぞ!」
「了解!」
ルシファーが出てきて思ったのが、あんなものと戦えばひとたまりもないということだ。
これは厄災級全般に言える話だが、一人間が戦いに挑んで勝てるほど優しい存在ではないのだ。
その名の通り、『厄災』をもたらす存在として君臨しているアウラ達なのである。
普段どれだけアーサーにしろ、酒呑童子にしろ俺たちのアウラが手を抜いてくれているのかが、ルシファーを相手にしているとよくわかる。
一撃一撃のレベルが、今までとは段違いであり、リンのサポートがなければ今頃死んでいてもおかしくないと思う。
「ふむ、伊織。彼らはなかなかやるようだぞ。私の攻撃も受け流しているようだ」
「言っておくが、絶対に殺すなよ」
「わかっている。だが、ただの人間であそこまで戦えるものは久しいな。少し興味が湧いてきた」
「ほどほどにしとけーー」
「「そこだっ!」」
「っ……まだちょっかいをかける余裕はあるようだな」
加藤先輩がルシファーと話すのに意識を割いているところに、俺とリンは爆弾を放り投げた。
物理的な武器も使用可能のルールなので、存分に使わせてもらった。
しかも、学園内での模擬戦などで使用した場合は経費として落ちるので、実質無料で使い放題だ。
魔法が普及して、こう言った武器が安くなってはいるものの、学生が使うにはまだまだ高いものなので、非常に助かる。
しかも、最近では魔法や贈り物に意識が行きがちなので、物理攻撃の対策を疎かにしている人は割と多いので、こう言った攻撃が意外に刺さることが多い。
例に漏れず、加藤先輩も少し負傷しているようだ。
まぁ、ゼロ距離から手榴弾を10発以上くらって軽傷で済んでる時点で異常なんだけどね。
「伊織、気を抜きすぎだ」
「悪い。まさか、あんな攻撃をしてくるとは思わなかった」
「彼は……なるほど。道化の血か……懐かしいな」
「道化の血? なんだそれは」
「いや、こちらの話だ。それより、この不毛な戦いをいつまで続けるつもりだ?」
「……時間か。こちらの2人の反応がないところを見るに、萌もどこかで観戦しているのか」
俺とリンが必死になってルシファーの攻撃を捌いていると、ある時を境にスッと攻撃の手が止まった。
どうやらタイムアップのようだ。
終始、倉木先輩からのサポートがなかったけど、まぁ姫宮さんと村井先輩を倒してくれているのでよしとしよう。
これで一応3対1ということで俺達のチームの勝ちだね。
「ご主人様。当初の目的は『目立たない』のはずだったのに、いいんですか?」
「……朱音達に怒られるかな?」
「恐らく……」
やってしまった……
そうじゃん。そもそもこんなに頑張らなくても最初の段階で負けとけばよかったんだ。
滅多にない、身内以外の格上相手に調子に乗ってしまったがために宗一郎達にあれほど言われたことを忘れてしまっていた。
やばい。
もしこのことがバレたら宗一郎と朱音に殺されるっ!
「一条」
「ひっ! ひゃぃ……」
「……何をそんなに怖がっているんだ?」
「あ、あの。今日の混合戦のことを宗一郎達には話さないでもらえると助かるんですけど……」
「あぁ、そんなことか。わかった。後で萌にも言っておくよ」
「ありがとうございます! 先輩!!!」
俺が全力で感謝の気持ちを伝えていると、加藤先輩は若干引き気味になったけど、そんなの関係ないね。
ありがたいことに、倉木先輩と長谷部先輩も今回の混合戦のことは黙ってくれるようだったので、多分俺の命は助かる。
少しだけ、加藤先輩と倉木先輩に興味を持たれた感じはあるけど、2人とも俺に固執しているような感じではなかったからきっと穏便にこの親睦会は終わるだろう。
「お疲れ一条くん。あなた、すごいのね。本当に伊織から逃げ切るとは思わなかったわ」
「ですです! とってもカッコよかったですよ!」
「いえいえ、逃げることしかできませんでしたよ。倉木先輩の方こそ、早めに決着ついてたみたいですね。せっかくなら助けてくれてもよかったのに」
「一条くんが楽しそうに戦ってるから、つい見入っちゃったのよ。随分面白い戦い方をしていたね」
「ありがとうございます。今度、先輩の戦っているところも見せてくださいね」
「えぇ、そのうち決闘祭もあるはずだし、クラン戦も近いから、その時にね」
「ん? クラン戦?」
「あら、そういえばまだ一年生は時期的に説明されてないか。ふふっ、今のは忘れて」
倉木先輩ははぐらかすように笑みを浮かべると、更衣室の方へと帰っていった。
誤魔化された感じが否めないけど、そのうち葛木先生から説明されると思うし、その時を楽しみに待っていよう。
決闘祭ってなると、今日以上の戦いを見ることもできるだろうし、今から楽しみだ。
俺たちが一番最初に十傑会議が行われていた会議室へと戻ると、すでに宗一郎達は全員揃っており、みんな楽しそうに談笑していた。
「ただいま〜」
「お疲れ。蒼、どうだった?」
「ま、まぁ上手く戦ってきたよ」
「そうか。ならよかったよ」
宗一郎の笑顔が怖い……
若干感づかれている気がしないでもないけど、確証のない今は安全のはずだ。
「みんなはどんな感じだったの?」
俺は話を逸らすように、他のみんなの模擬戦の形式を聞いていくと、普通に大将戦をやっているところや、魔法縛りで戦うといったルールで模擬戦をしたりと、みんなも楽しそうにやっていたみたいだ。
ただ、ここではあまり大きな声で言えないようだが、先輩の当たり外れは激しかったみたいだ。
軽く話を聞いていると、朱音、琴葉、佳奈、透、宗一郎の5人はハズレを引いたらしい。
まぁ倉木先輩と長谷部先輩の話を聞いている限り、大体どんな感じだったのかはわかるけど、本当にひどかったらしい。
逆に俺と龍之介、湊は楽しく模擬戦ができたらしく、2人は機嫌が良さそうだった。
結局、当たり外れが大きい親睦会とはなったものの、全員無事に十傑会議を乗り越えることができたみたいだった。




