第四十三話 透へのご褒美1
俺が寝ている間に、毬乃さんは意識を取り戻したようで、その後の事情説明やその他諸々は宗一郎たちがやってくれていたおかげで、俺は特に何もすることはなかった。
途中から寝たふりをして朱音の太ももの感触を楽しんでやろうとしたんだけど、その前に柔らかい胸を押し付けられてまた意識を失いかけた。
「何? もっとして欲しいの?」
「すっごい魅力的な提案だけど、全世界の男に殺されるから遠慮しておくよ」
うん。いくら皆が今日は優しいからと言って、甘えすぎるとバチが当たることは今までの経験則からもわかっていることだ。
人間は反省し、成長する生き物である。
ここは鋼の意志を持って……
「でも、もうちょっと……」
「蒼! 私やったよ! 閻魔と本契約できた!」
「うわっ!」
俺が何かを言う前に、いきなり部屋に入ってきた透が突撃してきた。
幸いソファーに座っていたので、危険はなかったけど、色々際どい体勢だからまずい。
「透は頑張ったよ。それは僕も保証するよ」
「閻魔か……ってことは本当に克服できたんだな」
「へへ〜、頑張った!」
やばい。
透自身アドレナリンが出ているせいか、いつにも増してふにゃふにゃしている。
普段クールめの女の子が、急に甘えてくるとかどんなギャップ萌えだっ!
きっとお酒で酔った時もこんな感じなんだろうな〜とか変なことを考えていると、透はムスッとして俺のほっぺたを摘んだ。
「私頑張ったんだよ?」
「知ってる。よく克服したな。まさか最初から閻魔が本当の姿になって戦うとは思ってなかった」
「それだけ透の思いが強かったってことだよ。柄にもなく僕も胸が熱くなった」
「っ! 閻魔、それ以上変なこと言ったら怒るよ」
「あははっ。わかってるわかってる」
透は顔を赤らめて閻魔のことを睨んでそんなことを言っている。
前まで、閻魔のことを怖がってまともに話すらできなかったのに、すごい進歩だ。
この一連のやり取りを見るだけで、透が本当に克服できたんだなと思う。
前にも言ったけど、アウラは階級が上がれば上がるほど本契約を結ぶのが難しくなる。力が強くなればなるほど、アウラ自身が求めるものも大きなものになるからだ。
そして、閻魔は厄災級第3位だ。
そんな彼が透のことを認めたと言うのは、透本人が思っている以上にすごいことだ。
これで、ようやく俺たちと同じところまで来れたわけだけど……
「ねぇねぇ蒼、あの手紙に書いてあった約束は守ってくれるよね?」
「……もちろん。俺は嘘をつかないで有名な男の子だっ!」
「だったら、今日は私と朱音たち四人を蒼の家に泊めてよ」
「「「「えっ?」」」」
いや確かに、透のモチベーションが上がればいいなぁと思ってなんでも言うことを聞くって言ったよ?
俺もそこそこお金は持ってるから、高級品をプレゼントしたり、ご飯をご馳走したりはしてもいいかなーって思ってた。
でも、まさか透の願いが朱音たち含めて全員で俺の部屋に泊まるって言うのはさすがに不味くないかな?
忘れてると思うけど、朱音たちはみんなお嬢様だ。
まだ婚約もしてないのに、男の部屋で同衾は色々と大変なことになると思うんだけど……
「私はいいよ! 蒼くんの部屋に泊まるのは初めてだね」
「私は……透がそういうならいいよ」
「私も別に問題ないけど、蒼はちゃんと責任とってね」
「ぜ、善処します」
「やった!」
透は嬉しそうに、朱音たちと抱き合っているけど、俺は今日どこで寝ればいい?
ギリギリ玄関フロアあたりで寝れば問題ないかな。
「蒼の部屋のベッドってサイズは?」
「キングサイズが二つとクイーンサイズが一つ繋がってるよ」
「……何でそんなに大きいの?」
「毎晩ティアやミカエルたちと一緒に寝てるからな。あ、言っとくけどやましいことはしてないよ?」
たまにみんなのおっぱいが当たったりしてるけど、自分から触ってないからセーフなはずだ。
「まぁいいや。じゃあ、今日はみんなで寝れるね」
「……さすがに俺は不味くない? 一応みんなお嬢様なわけだし、いくら友達って言っても外聞が……」
「朱音たちはダメ?」
「「「全く問題ないよ」」」
「君たち仲良いね……」
まぁ、常日頃から膝枕をしてもらってて、今更外聞も何もあった話じゃないのはわかってるけど、この人たちは俺が何か間違いを犯さないとでも思っているのだろうか?
いくら大切な仲間といっても、朱音たちはみんなめっちゃ可愛い。
もしかしたら万が一があるかも知れない。
「へー。蒼は約束破るんだ。仕方ない。じゃあ蒼が学校にえっちな本を持ってきてることみんなに……」
「ストップ! なんでそれ知ってるの⁉︎」
「いやちょっと待って。あんたそんなことしてんの?」
「ち、違う! この前龍之介と話してたグラビアの写真集が……」
「「「問答無用!」」」
「グハッ……」
ほらね。あまり調子に乗りすぎるとしっかりバチが当たる。
全く神様は俺に優しくないみたい。
結局、とりあえず寝る時のことはその時に考えるとして俺の部屋でお泊まり会をすること自体は決定した。
女性陣には準備があると言うことで、皆で一度買い物に行くらしいので、俺は一人で毬乃さんの元まで向かうことにした。
透がしっかりと本契約を結べたと言うことで、ほぼ十傑入りは確定したといっても過言ではないけど、まだ柊木先生たちは知らないと思うので、それを話すついでに宗一郎たちと合流しよう。
「よっ、サンキューな」
「蒼か。もう大丈夫なのか?」
「バッチリだよ。そもそも、戦闘中に受けたダメージはほとんどないからね」
「ほう、私でも一条くんにダメージを負わせることはできなかったか。それは残念だ」
「毬乃さんも本気じゃなかったでしょ。もし戦場で出会えば腕の一本は覚悟しないとダメかもですね」
実際、毬乃さんは最後俺の不意打ちのようなもので倒せはしたけど、まだまだお互い奥の手は用意しているはずだ。
あくまで今回のは俺たち学生の実力を測るのが目的だ。
殺し合いとなればあの程度で終わるはずがない。
考えたくない話だけどね。
「でもまさかミカエルがあそこまで圧倒的だとは思ってなかったよ。厄災級を超えた存在……僕も初めて見た」
「これが外の世界に広まれば、少なくとも一条くんは平穏な生活は送れないだろうね。いや、その点に関して言えば北小路くんたちも同じか」
「あ、それに加えてなんですけど、今日Cクラスの出雲透も正式に厄災級第3位の閻魔と本契約を交わせたので、十傑入りを検討していただけると助かります」
「っ……全く。君たちの世代は化け物ばっかりやな」
「この子達だけでも十分世界を揺るがす力を保有しているね。軍の連中が知れば全力で囲みに来るだろう」
「というか、もう手遅れだろうね。あの講師の中には軍と繋がっている人も多い。いくら口封じをしたところで無駄だろう」
「ま、僕たちは僕たちでなんとかするのでそこまで心配しなくても大丈夫ですよ。最悪蒼に囮になってもらいます」
「ひっでぇの」
しっかりとオチをつけてくれたおかげで、その後は特に追及されるようなことはなくその日は無事解散となったのであった。




