第四十一話 透の覚悟1
蒼たちと別れてから一時間くらい後、私は無事実力を出し切って上級生相手に白星を獲得した。
上級生に勝ったのは私とあと数人らしい。
まぁ、入学して一ヶ月の私たちが上級生に勝つなんて普通は無理な話だから、負けた子もそこまで悔しがってはいなかった。
とりあえず、これで私はAクラスはほぼ確定だ。
アウラこそ出さなかったけど、贈り物は最大限利用して上級生に圧勝したし、逆にこれでAクラスに上がれなかったらちょっと凹むかも……
せっかく蒼たちと仲良くなれたんだし、このままみんなと学園生活を送りたい。
今のクラスにも仲良い子はいるけど、みんなどこか私を特別視するからあまり居心地が良くない。
その点、蒼たちのグループはみんな特別だから、そう言った目で見ることはないし、普通に悪いことをした時は怒ってくれるからすごく居心地がいい。
だから、もうほとんどAクラスが確定した今私は結構機嫌がいいと思うじゃん?
残念。今はちょっとだけナイーブ。
と、言うのも……
「なぁ、出雲……いや、透でいいよな。透、俺と遊びに行こうぜ。透もこれからAクラスなんだし、俺と仲良くしておけばかなり有利だと思うぜ?」
「えーっと……あはは……」
そう。さっきからずっと声をかけてくる男の子。
確か名前は……野口光田くんだったはず。私が蒼と出会ったきっかけでもある男の子なんだけど、たまたま試験会場の場所が同じになったせいですごく積極的に声をかけられている。
蒼たちがいるときはここまで積極的に声をかけてくるような男の子ではないはずなんだけど……
まぁ蒼もそうだけど、あのグループの男の子はみんな超絶イケメンだから、仕方ないっていえば仕方ないのかもしれないけど、ちょっとだけセコイよね。
もし、蒼たちの前でも同じ態度で来るんだったら、私も少しは対応をちゃんとしようと思うけど、現状はあまりいいイメージを持てない男の子だ。
周りの子も注意しようとしてくれてるんだけど、野口くんのアウラが強いのは本当でみんな野口くんに対して強く言えないみたい。
確かに野口くんも上級生を相手に勝ってた。
見た感じ闇の精霊かな?
強そうだったけど、普段ミカエルさんを見ているせいで全く怖くなかった。
でも他の子達からすれば、闇の精霊でも十分な脅威のはずだ。
むしろ他の子にヘイトが向かないのであれば、この役を引き受けるのもやぶさかではないのかもしれない。
できれば早く解放して欲しいけどね。
それから私は連絡先とか仲良くなろうとか系の話はそれとなく断って、それ以外は適当に返事をすることにした。
これで興味ないですよーって感じ取ってくれれば助かるんだけど、野口くんは自信満々に自分のアウラの話とか、中学の時にどれだけモテてたとかの話をしてきた。
正直一ミリも興味ないけど、ここで角を立てると後々面倒だから、今だけ我慢しなきゃ……
「ねぇ、この後俺と遊びに行こうよ」
「ごめんね。この後は蒼たちと予定があるんだ。だから君とは遊びに行けないかな」
「君じゃなくて光田って呼んでよ。それと、またあいつなんだ……そんなに一条がいいの?」
急にわざとらしくショックを受けたリアクションしてるけど、男の子がそれをやって許されるのはイケメンだけだ。
蒼とか宗一郎とか湊なら許されるかもしれないけど、野口くんがやっても引かれるだけだと思う。
ちなみに龍之介がやったら多分手が出ちゃうね。
私が何も答えないでいると、野口くんは顔を俯けて肩を震わせ始めた。
まずい、他のことを考えすぎたせいで会話が適当になりすぎた……
これも全部龍之介のせいだ。
後で一発殴っとかないとね。
「し、仕方ないんだ。俺がここまで誘っても靡かないんだから……だったら、無理やりするしかないよね?」
「光田くん。どういう……」
「デモン、暴れていいよ。俺に逆らう奴は全員殺しちゃえ」
「あぁ、あぁ、初めて暴れられる。私は闇の上級精霊デモン。主人の命令だ。光田の欲望に逆らう人間は全員死んでしまえ」
まずいっ!
今は休憩時間で先生たちは誰もいない。
それに加えて、上級生たちもほとんど訓練場の外で休憩をとっているため、ここに残っているのは一年生ばっかりだ。
しかも、さっきの様子を見るにみんな野口くんよりも実力は下……
このままあのデモンに暴れられると、本当に死者が出てもおかしくない。
「クッ、動けないっ!」
「お前は光田の女にしてやる予定だ。殺しはしないが今のうちに自殺した方が楽かもな」
デモンはニヤニヤと笑みを浮かべながらそう言っている。
最悪私はどうなってもいいけど、他の子たちに危害を加えられるのはまずいっ!
でも、この魔法……上級精霊の魔法のせいで全く解けない。
どうしよう。
このままだとみんながっ!
「死ね。そして我が供物となれ」
「「「キャァ!!!」」」
「やめてっ!」
私が叫んだ瞬間、上空から眩しいほどの光を纏った天使が舞い降りてきた。
「ふむ……やはり蒼さまの言っていたことは正しかったですね。初めまして。私、一条蒼様のアウラであるミカエルと申します」
「「「「っ⁉︎」」」」
ミカエルさんの自己紹介に、デモンだけじゃなくてそれを聞いていた他のみんなまで驚愕の表情を浮かべていた。
それは光田くんも同じで、ミカエルと聞いて全身を震わせていた。
普段はいつも蒼のそばでお世話をしているけど、よく考えるとミカエルさんは御伽噺に出てくるような存在だ。
そんな人が目の前に出てきたことによって、デモンが暴れ始めた時よりもみんな動揺している。
「安心してください。今回、あなたが戦うべき相手は私ではなく透様です」
「はっ、この程度の小娘など相手にならん……」
「それを決めるのはあなたではありません。それと、私の前であまり調子に乗っていると……」
「チッ!」
ミカエルさんが少し睨んだだけで、デモンは身動きを取れなくなってしまった。
そのおかげで、私の拘束も解けたみたいだ。
「透様、大丈夫でしたか?」
「うん。助かったよ」
「なら良かったです。これは蒼さまからの伝言ですが……『閻魔と共に戦え』だそうです」
「無理だよ。今回はミカエルさんは手伝ってくれないんでしょ? もし暴走すれば……」
間違いなく犠牲者が出る。
しかも、デモンが暴れるよりももっと残酷に……
まだ閻魔とうまく付き合いきれていないせいで、いつ暴走するかがわからない。
もし、閻魔の機嫌がよくて一緒に戦うことができればなんとかなると思うけど、もしそうじゃなかったら……
そう考えた瞬間、お腹から気持ちの悪いものが込み上げてきた。
「うっ……ごめん。ミカエルさん。私はやっぱり弱いみたい」
「ふむ……ここまで蒼さまの予想通りだと逆に怖いですね」
「……どういうこと?」
「いえ、こちらの話です。それより、こんな時のために蒼さまは透様宛の手紙を用意していられます。それがこちらです」
そう言ってミカエルさんは一通の手紙を私に渡してくれた。
今読んでもいいものかわからなかったけど、ミカエルさんが頷いてくれたので大人しく読み進めることにした。
私が読み終えるまでは、ミカエルさんが周囲を牽制してくれているみたいで、誰一人として動こうとはしなかった。
突然現れた静寂。
その中で私は……




