第四十話 ちょっと張り切った後はしんどい
えー、流石にやりすぎました。
毬乃さんが後半戦もなかなか折れてくれなかったから、少しだけミカエルに力を解放してもらったんだけど、多分やりすぎたね。
まだ厄災級をちょっと超えてるかなーってくらいだったから問題ないと思ってたんだけど、想像以上に影響はデカかったみたいだ。
そもそもその前から柊木先生たちには注目されてたみたいだけど、ミカエルの力を少し解放させたのは流石にまずかったみたい。
でも一つ言い訳させて欲しい。
あのまま戦っててもいつか毬乃さんを怪我させてしまってた可能性がある。それならパパッと解決できる方法を選んだだけで悪意はなかったんだ。
ただ、宗一郎と朱音にはすっごい怒られたけど。
もともとあんまり戦うのは好きじゃないことを宗一郎たちは知ってくれてるから心配してくれてるんだろう。
「もうほとんど克服したから、気にしなくていいのに」
「うっさい。あんたは私たちに守られてればいいのよ」
「今日は珍しく優しいじゃん。どした? 変なものでも食べた?」
「……心配して損したわ」
まぁ確かに幼い頃は戦う時はいつも吐いてたけど、今はティアたちにしっかり鍛えてもらってるから大丈夫だ。
すっごい情けないけど、殺し合いってなるとまた再発するかもだけど、こうして模擬戦とか試験とかで戦う分には全然問題ない。
むしろ、今日の戦いは自分の成長に気づけて楽しかった。
「おっと、ごめん琴葉」
「いいのよ。あんたも少し休みなさい。ほら」
「……膝枕?」
「それ以外に何があるの? 早くしなさい」
少し言葉に棘があるけど、珍しく今日はみんな甘やかしてくれる。
このままいつもみたいに茶化してやろうかとも考えたけど、流石にいろんな技を出して俺もちょっと疲れた。
普段はティアの作ってくれた特殊な空間で鍛錬してるからあまり精神的な疲れはないんだけど、実戦となると色んなことを考えないといけないから余計なカロリーを使うのだ。
俺は大人しくソファーに座っている琴葉の太ももを借りて横になった。
「やばい……急に眠気が……」
「寝ていいよ。先生たちは私たちで対応しとく」
「蒼くんは頑張ったから寝てて」
「そっか。サンキュー」
朱音と佳奈の言葉に感謝すると、そのまま寝ることにした。
別室では宗一郎たちと葛木先生たちが四葉学園長のことを見てくれているらしいので、心配もいらないだろう。
朱音たちには葛木先生たちにはある程度まで話していいと言っておいて、後は任せることにした。
朱音たちも賢いのでどこまで話していいかなどは言わなくてもわかってくれるはずだ。
見た目はチャラいギャルみたいだけど、中身は可愛く真面目な女の子だ。
「ミカエル、透のことを頼む。あと……これ渡しといて」
「わかりました。蒼さまはゆっくりと休んでください」
あぁ……もうだめ。
伝えることは伝えたし、少しだけ眠らせてもらおう。
おやすみなさい……
ー水無瀬朱音視点ー
「寝ちゃったね」
「本人は心配しないように気を張ってたみたいだけど、やっぱりまだ戦うと負荷がすごいみたいね」
「蒼くん頑張ってたもんね」
私の太ももの上でスヤスヤと一定のリズムを刻んでいる蒼を見て、少しだけ安心する。
中学の時も何度か蒼が割と本気で戦ってたことがあったけど、その時は悪夢を見ているみたいにしんどそうだったから、今日はまだマシでよかった。
それでも、やっぱり極力蒼に戦わせたくないっていうのが私たちみんなの考え。
こいつはほっとくとすぐ調子に乗って無茶しちゃうから、私たちがしっかりと見ておかないとダメなんだ。
「宗一郎くんたちは大丈夫かな?」
「大丈夫でしょ。少なくとも、蒼よりかはしっかりしてるね」
「確かに。それに向こうには柊木先生たちもいるから大丈夫でしょ。しばらくはここでゆっくりしときましょ」
四葉学園長が目を覚ませば、宗一郎たちが知らせに来てくれるはずだし、それまではガールズトークでもしようということで、室内にあるお茶をいれて話を始める。
私は動けないから、今回は佳奈に入れてもらう。
いつも三人でローテーションしてるけど、佳奈が入れる紅茶が一番美味しい。
なんか作業が丁寧なんだよね。私や琴葉は人並みにはできるけど、佳奈みたいに美味しくは入れれない。
ちなみに、一番上手いのは蒼だ。
結局蒼って何でもそつなくこなせるんだよね。あの性格じゃなかったら、多分女子に結構モテてると思う。
いや、性格があれでもモテてるか……
最近よく他のクラスの女の子が蒼に手紙を渡したり、連絡先を聞いたりしにきているのをよく見る。
最初の方は宗一郎龍之介、湊の三人にアタックする子が大半だったけど、今では蒼も結構モテてる気がする。
「もともと蒼って顔はいいからね〜」
「それに器用だしね。蒼くん、この前寮の前に花壇作ってたよ」
「あー。あれ蒼だったんだ」
「そうそう。お花に向かって元気に育つんだぞっ!って叫んでたよ。それ見て、一年生の女の子が写真撮ってキャーキャー言ってた」
「ギャップ萌えってやつか……意外とあざといな」
蒼のくせに生意気だ。
こいつは性欲魔神だから他の女の子に手を出さないように私たちが見守っておかないといけない。
ほっとくとすぐおっぱいおっぱいとか言ってどっかに行っちゃうから……
「そういえば、みんなは誰が好きなの?」
「き、急にぶっ込んでくるわね。いきなりどうしたの?」
「別に。そういえば私たちで恋バナってあんまりしないじゃん? みんな気になってる人でもいるのかなーって」
佳奈はニコニコしながらそんなことを言ってるけど、好きな人か……
確かに私たちの間で恋バナとかはあまりしない。
というか、中学までは色恋沙汰にかまけている時間とか余裕がなかった。
おかげで彼氏がいたこともないし、そもそも好きっていう感情がなんなのかがわからない。
「ちなみに私は蒼くんだよ。中学の時からずっと片想い中」
「「っ!」」
佳奈が自分の意見をはっきり言うことは昔から知ってたけど、今このタイミングでそのカミングアウトはずるい。
私だって……私だって蒼のことはいいなーって思ってる。
でもそれが本当に恋なのか、それとも違う感情なのかわかんないよ。
「私も、多分蒼のことが好き……かも」
「私だって……でも、まだ好きが何かわかんないよ」
二人が蒼に好意を抱いているのは知ってる。
っていうか、多分私たち六人はみんなベクトルは違うと思うけど蒼のことを特別視しているのは間違いない。
それはアウラ云々とかじゃなくて、みんな一度は蒼に救われてるんだ。
だから、蒼が苦しんでいる時は絶対に私が助けになるって決めてる。それ以外にも、しっかりと蒼に対する感情があって……
ただそれを好きって言っていいのかはまだわからない。
この国は一夫多妻制だから、二人が蒼のことを好きでも構わない。
だけど、だからと言ってもたもたしていると肝心の蒼に好きになってもらえない……
そう思ってる時点で、気持ちは決まっているのかもしれないけど、私はまだこの感情に答えを出したくない。
それくらい、大切な人なんだ。
「ふふっ。ちょっと意地悪しちゃった。二人が蒼くんのことを好きなのはわかってるよ」
「もー! 男子には絶対に内緒ねっ!」
「わ、私はまだ好きかどうかも……」
「大丈夫だよ。朱音もゆっくり自分の感情に名前をつけていけばいいよ。それまでは、三人で……いや、四人かな。四人で悪い女の子に蒼くんが騙されないように注意しとかなきゃ」
「四人……そっか。透もだったね」
「うん。多分、透も蒼くんのことが好きだね」
「佳奈、意外と恋バナ好き?」
「うん! よく少女漫画とか読んできゅんきゅんしてるんだ〜。朱音にも貸してあげようか? いろいろ参考になるよ」
「……かしてください」
「私にもかしていただけると恐悦至極でございます佳奈様〜」
結局その後は、蒼が起きるまで三人でたくさん話したりした。
蒼の嘘寝はすぐにわかるから、もし話を盗み聞きされそうになったらわざとおっぱいを押し付けてやる。




