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道化な僕とギャルな君  作者: 月うさぎ
第二章 初めての試験
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第三十九話 試験開始6

ー柊木叶視点ー


「これは……」


 四葉学園長と一条くんが戦ってるのを見て、僕は自然と声が漏れた。

 四葉学園長はわかる。

 あの人は稀代の天才言われとるから、このくらいできるのは知ってた。


 でも、それについていけてる……いや、四葉学園長が割と本気で戦ってるっちゅーのに一条くんはまだ余裕がありそうな感じや。

 一応は僕もS級魔法師やから、他国の魔法師とかを見る機会もあるけど、一条くんの歳でここまで戦える魔法師を僕は見たことないわ。


 そりゃ魔法国や異世界に行けばいるんやろうけど、四葉学園長ですら一条くんの底が見えへんっていうのは、はっきりいって異常や。


 北小路くんや水無瀬さんも確かにすごい。

 経験が伴えば、僕や四葉学園長なんて簡単に追い越されるやろう。

 まぁ、彼らもアウラの力をもっと使えば、今ですら僕たちに勝ち目はないんやろうけど、それでもまだ術者本人の器量では負ける気はしない。


 でも、一条くんは別や。


 前から少し気にはしとったけど、経験とかそんあのお構いなしに勝てる気がしないわ。


「なぁ、北小路くん。ちょっとええか?」


「はい。どうしました?」


「君たちでも今の一条くんを見るのは珍しいんか? なんか、水無瀬さん達険しい顔してるけど」


「まぁそうですね……あいつ、普段戦う時は絶対に手を抜いて僕たちに華を持たせますから。今みたいなのは結構珍しいです」


「蒼の場合まずミカエルさんにあそこまで力を解放させることがないもんね」


「まぁ彼の性格からして、おちゃらけてるんやろうけど……」


 僕がそういった瞬間、北小路くんや水無瀬さんだけじゃない、他の子らからも殺気に近いものが僕に向かって放たれた。

 急な出来事に、葛木くんや他の先生方も焦ってるけど……僕は何か地雷を踏んだみたいやな。


「ごめんなさい。蒼のやつ昔ちょっと事件というか、悲しいことがあってあまり戦うのが好きじゃないんですよ。それで、普段はテキトーに流してるんですけど、今日は流石に負けられませんからね」


「ちょっと踏み込みすぎたな。ごめんな」


「いえ、僕たちの方こそごめんなさい。少し熱くなりすぎました」


「君たち、仲間思いやな」


「まぁ、蒼は普段はちゃらんぽらんですけど、意外と優しいんですよ。だからなんだかんだ、みんな蒼のことが好きなんです」


 北小路くんは目の前で繰り広げられている戦いに目を向けながらそう言った。

 その言葉に、他の子達も頷いてるし、ほんまに一条くんはみんなから愛されてるんやろう。


 一条くんに何が起こったのかは知らんけど、積極的に戦うのは嫌なんか……


「柊木先生が懸念されていることは僕たちも理解しています。だから、あいつが戦わないといけない事態になる前に、僕たちでなんとか解決していくつもりです」


「蒼も戦ったら死ぬってわけじゃないからね。殺し合いとかにならない限りはそこまで問題ないと思います」


「そうか。ならよかったんや。十傑ってなると戦う場面が多いからなぁ」


 確かに、戦うことだけが全てではないけど、この魔法社会において力の強いものは自らでそれを示さないとダメやけど、彼らならうまく立ち回るやろう。

 もともと僕たちはそれをサポートするためにいるんやしな。


「いやでもほんまに一条くんすごいな。四葉学園長だけじゃなくて、ゼウスの攻撃も防いでるやん」


「悔しいですけど、僕たちの中だと蒼が一番強いですからね。アウラも僕たちの中だと一番強いですよ」


「ちょっと待って。北小路くんよりも強いアウラってどういう……」


 そこまで聞いて、北小路くんが無言で笑みを浮かべているのを見てこれ以上は突っ込んでは行けないことを悟った。

 なるほどなるほど。

 現アウラランキング1位のアーサーと契約している北小路くんよりも強いアウラ……ってまさかな。


 今でも御伽噺としては十分やのに、これ以上非現実な話は勘弁やで……


 なんて考えてると、突然姫宮さんが叫んだ。


「まずいわ! みんな目を瞑って!」


 突然叫ばれて僕は反射的に目を瞑ったけど、何人かの先生は反応が遅れたみたいやった。

 そして、なんで今姫宮さんがそんなことを言ったのか最初はわからへんかったけど、すぐに言葉の意味を理解した。


「叶、もう大丈夫だ」


「それってどういう……」


「前を見たらわかるさ」


 安倍晴明に促されるまま前を見ると、そこには天使の翼を生やしたミカエルさんと、ぐったりとその場に倒れている四葉学園長とゼウスの姿があった。

 

 そこでようやく、姫宮さんの言いたいことがわかったけど、流石に理解できひんかったわ。


「な、なんやあれ……」


「あれが本当のミカエルの姿なんだよ。そして、あれは厄災級じゃない」


「厄災級を超えた存在か……直視するだけで魅了されるのは反則やろ」


 いつものミカエルさんは綺麗な女の人やなぁ程度の認識やったけど、今のミカエルさんは『美』そのものや。

 大天使という名に恥じないくらい美しいそれは僕たちを魅了するには十分すぎるわけや。


 魅惑や誘惑のスペシャリストの姫宮さんのおかげで助かったけど、あれをいきなり出された四葉学園長とゼウスはひとたまりもなかったみたいや。

 僕も戦場であれをされるとどうしようもないわ。


 しかも何がタチ悪いって、ミカエルさんはまだ戦ってすらない。ただ本来の姿に戻っただけや。

 それでここまで絶大な破壊力を持つってことは、あのまま暴れられたら……


「あれは洒落にならんで……」


「言ったでしょう? 蒼は特別なんですよ」


「僕からしたら君たちも十分特別やけど……確かに一条くんは異常かもしれへんな」


 一条くんを見てるから、北小路くん達が少し霞んでるけど、彼らも十分特別な人間や。

 間違いなくこれからの日本を、世界を背負っていく側の人間やねんけど、一条くんの場合その域を超えとるからなぁ……


 多分歴代で見ても一条くん以上の人間はおらんやろうな……

 まさかミカエルさんがあそこまで力を隠しとったとは、僕も予想してなかったわ。


 しかも何が怖いって、さっきの北小路くん達の話……


ーー久しぶりに本当のミカエルさんを見たけど、カレンちゃん達あれに勝てる?


ーー多分無理。一度本気で戦ったことがあるけど、絶対に勝てないって思ったよ。


ーー僕も、一度アーニャ様と会ったことがあるけどそもそも存在の次元が違うからね。


ーーロキ様なんて昔は冥界で暴れに暴れてたからなぁ。正直、蒼くんには感謝してもしきれないよね。


 ティアマト、アーニャ、ロキといえば神話の中の存在である。

 始祖の神や王として、今でもそれぞれの宗教があるくらいやけど、蒼くんその三人とも契約してるってもう笑うしかないわ。


 聞き耳立ててると、あの厄災級第一位のリオンとも契約してるらしいし、もう何が何かわからへんわ……

 これ以上話を広めていいものじゃないのはわかってるし口外は厳禁、ついでに北小路くん達の周りに音を遮断する魔法もかけておいたけど、葛木くんあたりは気づいてそうやな。


 最初は興味本位で突っ込んだ首やけど、思っている以上にやばい子らやわ……


「試合は終了ですね。葛木先生、毬乃さんを運ぶのでついてきてください」


「わかった。他のみんなも今日は解散しよう。一応先生方に言っておきますが、今日起きたことは全て口外禁止です。もし、外部に漏らしでもすれば、非常に厳しい処分を下します」


「北小路くんたちは大丈夫やと思うけど、他の子も今日のは内緒で頼むで。一条くんのも確かにやばいけど、北小路くんたちのが外にバレただけで大変なことになるからな」


 とりあえず、みんなにそれだけ伝えた後、一条くんについていって四葉学園長の容態を見にいくことになった。

 北小路くんたちも一緒についてくるみたいやから、一旦この子らと話をしとかなあかんな……


 はぁ、全く……今日は忙しくなりそうやで。

 

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