第三十五話 試験開始2
実技試験第一回戦。
最初は佳奈と本来なら2年生のAクラスの担任の先生が試験を行う予定だったのだが、急遽2年生の試験の方で何かトラブルがあったらしく代打で1年C組の担任の先生が相手となった。
さっき、俺たちをみて一番睨んでいた先生だ。
個人的にはあまり良い印象はない先生になる。
「よろしくお願いします」
「あぁ、今年十傑には何故か四葉学園長が興味を示されているからな。せいぜい頑張ってくれたまえ」
「はい。勝たせていただきます」
「はっ、あまり調子に乗るなよ? 君なんて本気を出せばっ……」
Cクラスの担任の先生が言い終える前に、佳奈の纏っている雰囲気が変わった。
いつもの状態から戦闘状態へと変わったのだ。
「情けない……」
近くに座っていた毬乃さんがそう呟いていた。
まぁ気持ちもわかる。
本来なら先生の方から、空気を変えなければいけない場面だ。
それなのにも関わらず、俺たち学生相手に慢心しきって、挙げ句の果てに佳奈の空気に飲まれてしまっている。
この時点ですでに勝敗がついたと言っても過言ではない。
「……小娘風情がっ!」
佳奈を見て憎々しげにそう呟いたCクラスの先生は初手からアウラ戦に持ち込むらしく、アウラを召喚していた。
あれは……天使か。
ミカエルやティアたちの同胞の天使はグレード的にも二級相当らしい。
普通であれば十分脅威となりえるが、佳奈を相手にそれでは物足りない。
ただ、Cクラスの先生は武装化もして手に天使の弓を装備しているので、そこだけは少しだけ厄介になりえる要素である。
アウラは具現化、武装化、憑依化の3種類があるが、武装化は二番目に難しい技で、それを併用している点もあるので、腕は確からしい。
具現化、武装化、憑依化とあるが、この三つの中で一番難易度の高いのは憑依化である。ヘタをするとアウラに意識を持っていかれかねないので、かなりの練度を要求される。
ただその分、非常に高い効果が見込めるので、ぜひ習得したい技となる。
透にもいずれは習得してもらう予定だ。
ちなみに俺たちは全員三つを同時並行にできる。
これまた非常に大変だったが、今では良い思い出である。
「天使……ですか」
「あぁ、天使カタンだ。罪を司っている2級アウラだ」
「みたいですね。では、私もアウラを召喚しましょう。ソロモン、きて」
「「「っ⁉︎」」」
佳奈の言葉に応じるように、ソロモンは俺たちの前に姿を表した。
俺たちはもう見慣れた光景なのだが、他の十傑の人たちや先生たちは初見なのでかなり驚いているようだ。
厄災級のアウラを目の前にしているCクラスの先生もそれは同様だった。
「や、厄災級だとっ! なんで、お前みたいな小娘が……」
「あまり私の前で友のことを悪く言わないでほしいな」
まだ納得できていない様子のCクラスの先生を相手に、ソロモン笑みを浮かべながらそう言った。
顔は笑っているが、しっかりと殺気を放って天使相手に牽制しているあたり、宗一郎と似ていて俺としては複雑である。
戦う前からすでに佳奈が優勢なのは観客席にいる俺たち全員の総意だが、試験はそのまま進んでいく。
ようやく戦いが始まったが、初めから佳奈とソロモンの攻撃が目立った。
二人とも、頭脳派で緻密な作戦と魔法攻撃を得意とするので、戦闘が始まった時点でCクラスの先生に何か打開策がなければこのままコロッと負けてしまうだろう。
Cクラスの先生は天使をなんとか佳奈の元まで向かわせようとするが、それを佳奈本人が許さない。
以前龍之介と戦った時以上の魔法陣を周囲に散りばめているようで、なかなか天使カタンは距離を縮められない。
きっと、カタンが前衛でCクラスの先生が後方支援をする予定だったのだろうが、そもそも前衛が機能していないので意味がなかった。
「甘いですね。攻撃が安直ですよ」
「うるさい! まだだっ!」
「佳奈、僕も戦っていい?」
「いいよ。蒼くんたちとは違うからちゃんと手加減してあげてね?」
「もちろん」
「お前らぁぁぁぁぁぁ!!!!」
学園に入学したばかりの少女にここまで言われてしまい、Cクラスの先生は顔を真っ赤にしてさらに攻撃の手を増していくが、全てソロモンの防御壁に防がれる。
その間にしっかりと魔法を構築していた佳奈は、初めて明確にこの試合を終わらせる魔法をCクラスの先生とカタンに向けて放った。
「やばい! カタン!」
「クッ!」
佳奈の魔法は超級魔法を三つ同時に発動したもので、本来ならこれで試合が決まっていただろう。
それを辛うじてではあるが、防いだのはさすが天使と言わざるを得ない。
天使は魔法耐性が高いのでそれが功を成したね。
「んーもうちょっと強くても良かったかな?」
「まぁ、間違えて殺しちゃってもダメだし良いんじゃない?」
Cクラスの先生と天使が今にも倒れそうな様子なのに、佳奈たちは全然余裕な様子なことに俺たちは苦笑である。
一方で、講師陣は戦慄としていた。
今回はCクラスの先生だったけど、もし組み合わせが悪ければあそこであぁなっていたのは自分だったのだ。
いや、あと数十分後には自分があぁなっているかもしれない。
それを自覚した瞬間、体が自然と固まってしまっていた。
「……西園寺ちゃん、えらいアウラと契約しとんなぁ」
「あれは流石に僕も予想外だったよ。しかも、北小路くんたちの反応を見るあたり、やはり彼らはみんな厄災級と契約してるね。それも上位の……」
「これは僕もおもしろなってきたわ。張り切って行こか!」
ほとんどの先生が固くなっている中、唯一葛木先生と柊木先生だけが本気で楽しそうに笑っていた。
「改めて、友達が活躍してる姿を見ると嬉しいね」
「そうだね。先生たちは溜まったもんじゃないと思うけど」
「確かにな」
俺と宗一郎は笑いながらそんなことを話している。
その間に、佳奈とソロモンはそのまま特に危なげもなくCクラスの先生に勝利し、第一戦目は佳奈の圧勝という形で幕を閉じるのであった。




