第三十二話 閻魔召喚1
これから頑張って土日は一日二話更新頑張ろうと思います!
「よし、じゃあやるね」
透はそういうと、一度深呼吸をしてアウラの召喚を始めた。
まだ慣れていないせいか、俺たちよりも少し時間がかかっていたが、一瞬のタイミングで透の側から強大な力を感じられた。
「んー! この空気も久しぶりだね〜。魔界もいいけど、現世はもっといい!」
出てきたのは見た目10歳の少年だ。
俺と同じで白髪で一見可愛い男の子という感じだが、その内側から溢れ出ている圧力で自然と場がピリついていた。
これが厄災級3位の力だ。
というか、厄災級は基本的にこんな感じだ。他のアウラたちはその辺りを配慮してわざと外に出さないように気をつけているが、閻魔は全く力を抑える素振りを見せない。
俺たちは全く問題ないけど、透が若干しんどそうなので是非ともなんとかして欲しいところだ。
「お久しぶりですね。閻魔。あなたの契約者が苦しんでいるでしょう。さっさとその力を抑えてください」
「ミカエルじゃん! んーわかったよ。これでいい?」
「えぇ、それにしても珍しいですね。あなたが大人しくいうことを聞くなんて」
ミカエルは少しだけ驚いた表情をしてそう言った。
確かに俺のイメージでも閻魔ってもっと悪戯っぽいというか、鬼神、龍神と並んで破天荒の部類に入ると思っていたのだが、意外と話がわかるやつなのかもしれない。
「僕にも戦いたくない相手はいるからね〜。蒼くんがいるところで調子に乗るとロキ様に殺されるからね」
「いい心がけですね」
「それに僕も透とはいい関係を築いていきたいと思ってるしね。これから長い付き合いになるだろうし」
「そう思っているのであればもっと契約者と向き合うべきでは?」
「そうしたいけど僕も厄災級だからね。そう簡単に力を貸すわけにはいかないよ。透がちゃんと僕を喰らうことができたら考えてあげるよ」
まぁ閻魔の言いたいこともわかる。
アウラだって人間に無償で力を貸してくれるわけではない。基本的には魔力を代償にしたり他にも寿命を対価に力を借りることだってあり得る。
俺は特別だけど、宗一郎たちだって簡単にここまで関係を築いてきたわけではない。それ相応の努力があり、アウラたちがそれを認めたからこそ今ではこうして無償で力を貸してくれるのである。
閻魔がそれを要求するのはなんらおかしなことではないし、透は閻魔を受け入れて認められるように頑張るしかない。
友人のコミュニケーションでもそうだが、まずは相手を受け入れなければ歩み寄ることなどできないのだ。
そこを透はクリアしていないので、なんとかして親睦を深める必要がある。
ちなみに俺は以前も話したことがあると思うけど、ミカエルやティアたちとはいつの間にか普通に生活するようになっていた。
ちょうど父さんと母さんが死んだあたりからよく話すようになった。
この話をすると空気が重くなるから死んでもしないんだけどね。
とまぁとりあえず透は閻魔のことを受け入れることが大切なのである。
「それより、愉快なメンツが揃ってるね。誰か僕と戦ってくれないかな」
「それなら妾が相手をしよう。琴葉と妾対透と閻魔でどうじゃ?」
「僕は賛成ー!」
「うん。面白いと思う。何かあったら俺とミカエルが助けるから頑張ってこい」
「わかった。蒼を信じるね」
そういうと透は琴葉、酒呑童子と戦うために位置についた。
俺たちは戦いの邪魔になってはいけないので、審判である俺とミカエル以外は観戦席に移動してもらった。
珍しくみんなが素直なのは閻魔がどれだけ戦えるのかを確認したいのだろう。
ここにいるメンツが全力で結界を張れば、閻魔や酒呑童子がいくら本気で戦おうが外に影響を及ぼすことはないと思うので、四人には全力で戦ってもらうようにお願いした。
まぁ、透以外はもともとそのつもりだったみたいだけどね。
今回の模擬戦の方式は原則としてアウラは人間に攻撃してはいけないというルールを設けたので実質的には琴葉対透、酒呑童子対閻魔ということになる。
そのうち、どちらかが戦闘不能になった時点で負けということにする。
ただし、これは具現化の場合に限り適応されるルールなのでアウラを憑依させたり武器にさせたりした場合は関係ない話だ。
なので不意をつくためにどこかのタイミングで具現化をといて自分自身に憑依させてそのまま相手を倒す……というのはルール上問題ない。
本当の戦争とか、今度行う試験なんかではそもそもルールが設定されていないのでアウラは主人を守りながら戦わないといけないのだが、今それをしても閻魔の負担が増えるだけでフェアではないため制限を設けたというわけだ。
これなら多少は閻魔も普通に戦えるはずだ。
「それじゃあ始めよう。俺の魔法で、音がなったらスタートね」
俺はそう言って、空に向かって音だけが鳴る魔法を放った。
ドン!
「閻魔よ。久方ぶりの戦いを楽しもう」
「うん! いっくよー!」
「透、私も手加減しないわよ」
「もちろん。私も容赦しない」
開戦の音が鳴ると、各々が行動を始めた。
その中でも酒呑童子と閻魔の攻防は激しく、見ているこちら側もワクワクしてきた。
きちんと二人とも透と琴葉に余波がいかないように調節しているようだが、それでもかなり壮絶な戦いを繰り広げていた。
ちなみに俺に対する配慮みたいなものは全くないので全てミカエルが弾いてくれている。
私生活だけでなくこんな時にもお世話になってしまうのだから、俺はミカエルに頭が上がらないよ……
「ありがとう。助かってるよ」
「いえ、このくらいは当然です。私がいる限り、蒼さまには指一本触れさせません」
「頼もしいよ。俺は透と琴葉が危なくなったら助けに行くから、ミカエルは閻魔と酒呑童子のことを頼むよ」
「かしこまりました」
厄災級の順位的には閻魔よりミカエルの方が低いが、本気を出せばミカエルの方が強いことを知っているので俺は安心して任せられる。
まぁそもそもあの順位って割と適当なところがあるから、参考程度にしかならない。
アウラ同士にも相性みたいなものもあるので、順位が高いからといって油断してると簡単に負けてしまうこともある。
それが証明されるかのように、今目の前で繰り広げられている戦いでは酒呑童子が優勢のようである。
閻魔は、透と同じように魔眼や魔法系に利があるのだが、そもそものポテンシャルが高い酒呑童子相手にはどれも有効な攻撃手段となり得ないようだ。
それに加え、閻魔がいくら酒呑童子にデバフをかけようとも、そっちの分野で優れているのは酒呑童子の方なのですぐに解除されてしまっていた。
「ん〜、なかなか厄介だね」
「呪術は妾の専売特許じゃしな。そう簡単にやられんわ」
「みたいだね。これじゃ埒が開かないから、ちょっと攻め方を変えてみるよ」
「ふむ。それは楽しみじゃな。妾の元で踊るが良い」
こうして、二人の戦いはさらに熾烈を極めるのであった。




