第二十八話 未練と魔の手
ー野口光田視点ー
最近、前よりも気分が悪い。
その理由は明確だ。
出雲透。彼女に声をかけたのがきっかけで……俺は恋に落ちてしまった。
「あー……ごめんね。私今そういうの興味ないんだ。他にも可愛い子いっぱいいるし、頑張って」
チッ、今は男に興味ないんじゃなかったのかよ。
なんで俺はダメで一条蒼は大丈夫なんだよ。俺とあいつのどこに差があるっていうんだ……
俺が出雲に声をかけて五日目が経った。最近はよく出雲もAクラスへときているけど、その度に一条たちと楽しそうに話している。
俺声をかけてくれてもいいはずなんだけど、出雲は俺のことを気にもしていない感じがして、吐き気がする。
今のAクラスは楽しくない。
なんで俺が主人公じゃないんだ。俺が、俺がこの学園では中心のはずだったのに。
ーー力が欲しいか?
俺がそんなことを考えていると、心の中から男の声が聞こえてきた。
力が欲しい? そんなの当たり前だ。一条にも負けないように、いやそれだけじゃ足りない。この学園で最強になれるように。俺は力が欲しい。
ーーならば、俺がお前に力を与えよう。俺の名前はデモン。闇の上級精霊だ。お前の欲望を全て叶えてやろう。
なるほど。面白いな。やっと俺にも運がついてきたわけだ。
下級精霊なんて雑魚ではない、正真正銘の上級精霊。これで、俺もようやくスタートラインに立てたんだ。
さて、じゃあ始めようか。
俺ハーレム物語を……
ー蒼視点ー
透と訓練を始めて五日目の朝、俺はいつものように朱音たちと教室へと向かっていた。
その間の話題はここにはいない透のことで盛り上がっている。
最近ことあるごとにAクラスに来ているので、流石に朱音たちも透のことを認識しており、すでに連絡先も交換しているらしく、今度女子会をするらしい。
仲良くなってくれてありがたい限りだが、透までそっちに行ってしまうと本格的に味方がいなくなってしまう。
蒼くん寂しぃ……
とまぁ冗談は置いておいて、透の成長速度は当初俺が予想していたものをはるかに上回っており、アウラがなくとも十傑入りできるのでは? と思わされるほどであった。
アウラの方も訓練は始めているものの、まだ上手くいっていない。
まぁ、焦らずともまだ時間はあるのでなんとかなるだろう。
「なんだか教室が騒がしいね」
「だなー。今日って何かあったっけ?」
佳奈と龍之介が前でそんな会話をしているが、確かに少し教室が騒がしかった。
全体的にざわざわしている。
ただ、なんとなくあまりいい空気ではないのは確かだ。
誰もが困惑している感じであった。
「おはよー。何かあったの?」
「あ、一条くん。おはよー。うん、それがねー……」
「おい一条!」
俺が近くの女子にこの騒がしい理由を聞こうとした瞬間、後ろの方から俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。
ふと声の方を見るとなんと俺の机の上に座っている男の子が……
「宗一郎、朱音たちを頼んだ」
「了解。蒼もよく面倒ごとに巻き込まれるね」
「お前ほどじゃないけどな。昨日も変な男に絡まれてただろ」
「人気者は大変だね」
「お互い様だな……」
声の主が近づいてくる間に、俺は今にもブチギレ寸前の朱音たちを宗一郎へと託し、気持ちの整理を済ませる。
朱音と琴葉はまだ感情が表に出てるからいいんだけど、佳奈はニコニコしながらも目が笑っていない。
周りの奴らにはわからないかもしれないけど、俺たちならわかる。あれは本当に殺る目である。
「えーっと、光田くんだよね。どうしたの?」
「ハッ、俺もようやく使えるアウラが手に入ったんだよ。聞いて驚け、闇の上級精霊だ。三級のアウラだぞ」
「へー。よかったじゃん。おめでとう」
それは素直にすごい。
精霊の中でも特定の属性に特化した精霊は強力で、さらに上級精霊となるとかなり強い部類のアウラになるはずだ。
このままその精霊と絆を深めていけば、将来最前線で活躍するのも夢じゃない。
ただ何故か褒めたのに光田くんの顔が険しい。
悔しがった方が良かったのかな?
「これでお前よりも俺の方が出雲さんに相応しい男になったんだ。だからさっさと一条は出雲さんから手を引いてくれ。正直、見ていて出雲さんがかわいそうだ」
「あー……なるほど」
そっちかぁ……
もちろん俺と透に恋愛関係はないし、今もただ透の自主練に付き合っているだけだ。決してやましいことはないし、だからこそ朱音や宗一郎たちも黙って見ていてくれている。
ただ光田くんはそれでも許せないみたいだ。
「俺と透に恋愛関係はないよ。だから安心して欲しいだけど……」
「それだよ。まずその透呼びが気に入らない。一条は出雲さんの連絡先知ってるんだろ? 俺にもくれよ」
こいつ、ちょっといいアウラと契約できたからって態度デカすぎないかな?
可愛い女の子に雑な扱いされるのはご褒美だけど、なんであまり知りもしない男にここまで言われないといけないんだよ。
それに光田くんは五日前のこともある。流石に透の連絡先は渡せない。
「透の連絡先は本人に直接もらってよ。多分お昼にはAクラスに顔出すと思うし」
「チッ、わかったよ。まぁこれでお前の時代も終わったな。これからは俺がこのクラスを仕切るからでしゃばんなよ」
「あはは……もともとそこまで俺偉そうじゃないんだけどなぁ……」
まぁ十傑の甘い汁を啜ってるのは確かだけど、ここまで天狗というわけではない。
そもそも俺が調子に乗るとすぐに宗一郎あたりが止めに入るから大人しく調子に乗らせてくれないのだ。
とりあえず今は光田くんの暴走を止めないとクラスメイトもそうだけど、何より宗一郎たちがそろそろ限界だ。
ただでさえ朱音たちが暴走寸前なのに、龍之介と湊も不機嫌になってきてるし……
ただまぁいつもなら俺があいつらを止めている側なので、今日くらいは許して欲しい。いつもどれだけ俺が苦労しているか、宗一郎もわかってくれるだろう。
「わかった。極力静かにしてるよ。光田くんの恋、応援してるね」
俺はそう言って自分の席に着いた。
まだ何か不満そうにしている光田くんだったが、俺はもうそっちに構っていられない。
「蒼、あいつ殺してきていい?」
「俺も久しぶりにムカついたぜ。ちょっと喧嘩してきてもいいか?」
「いいわけないだろ落ち着けお前ら」
琴葉、龍之介がまたはしゃぎ出しそうだったので、俺はそれを静止してホームルームが始まるまで7人で雑談することにした。
いつもなら各々適当に過ごしているけど、今はあまり光田くんを刺激させない方が良さそうだ。
結局その後も光田くんは色んなクラスメイトにちょっかいをかけてて、何度か危ない場面があったけど、幸い葛木先生たちがくるまで問題は起きなかった。




