第十六話 模擬戦2
模擬戦も順調に進んでいき、ついに残すは十傑同士のカードのみとなった。
ちなみに、賭けは朱音と龍之介が同着でビリになったので2人で割り勘ということになった。
こういった勝負では女だから免除という生やさしいシステムはうちには搭載されていないので、しっかりと今日の夕食代を払ってもらう。
今から夜ご飯が楽しみだな♪
十傑一試合目は第九席の女子と第十席の男子の戦いとなり、俺たちはみんな体を動かしてたのであまり見れていなかったが、かなり白熱していたようだ。
結果は序列通り第九席の女子が勝利したようで、女子でもここまでやれるんだぞというメッセージ的にもいい勝負だったみたいだ。
そして第二試合目、試合をするのは佳奈と龍之介であり、俺たちは一旦みんなアップを中断して2人の試合を応援することにした。
流石に友達の試合は見たいしね。
「龍之介ー! 佳奈ー! 2人とも頑張れー!」
俺たちは2人を応援するために、他の生徒たちとともにもう一度観客席に座り上から2人の戦いを見届けることにした。
すでに他のクラスメイトたちは先程の試合で盛り上がっており、これからまたさっきと同じ高レベルの戦いが見れるのではとざわざわしながら龍之介たちのことを見守っていた。
全力ではないとはいえ、十傑同士の戦いが見れるのはこのタイミングだけなのでみんな見逃したくないのだろう。
かくいう俺たちも龍之介と佳奈が1対1で戦うところはあまり見れないので結構楽しみである。
「ふふっ、龍之介くんと戦うなんて初めてだし、ちょっと楽しみかも」
「俺もだ。さっきはああいったけど、戦うってなったら本気で行くからな。怪我させたらごめんな」
「龍之介くんは……多分怪我してもすぐに治りそうだから心配しなくていいね」
「一応戦闘に関しては俺の方が一枚上手だと思うけど……佳奈がどんな戦い方を見せてくれるのか楽しみだぜ」
2人はいざ戦うとなると、手加減をする気はないようで両者ともに割と真剣な雰囲気を醸し出していた。
他のクラスメイトたちも2人のピリピリした雰囲気に気づいたようで、ざわざわしてたのもなくなって、静寂が訪れた。
「さて、お次は武田と橘か。十傑の名に恥じぬよう正々堂々闘うように。それでは……始め!」
「よっしゃ! 先手必勝っ……⁉︎」
「だめだよ龍之介くん。焦りすぎ」
模擬戦が始まったのにも関わらず、佳奈は手を後ろで組んでニコニコと笑っているままだった。
一方、龍之介の方も一歩踏み出したところから微動だにせずに佳奈のことを睨んでいる。
佳奈は余裕そうだが、龍之介は動きたくても動けないといった様子だ。
佳奈が何をしたのかというと簡単なことで、龍之介の足元にあらかじめ魔法陣を設置して、模擬戦が始まった瞬間それを龍之介が踏み抜いたというわけだ。
きっと魔法陣には拘束系の魔法が込められているんだろう。まだ龍之介はその解除に戸惑っているようだ。
その間に佳奈は龍之介に攻撃を仕掛けるのかと思いきや、その場から一歩も動かず、観戦しているクラスメイトたちはみんな戸惑っている様子だった。
ただ、俺たちは佳奈が何をしているのかわかっているので、戸惑うことはない。
まぁ、ちょっと引きはするけどね……
「佳奈が龍之介をいじめてる……」
「あそこまでトラップを仕掛けられたら龍之介はかなりやりにくいだろうな……やっぱり、佳奈を怒らせるのはやめとこう。俺の身が危ない」
宗一郎と俺は佳奈の方を見て絶対に佳奈を怒らせないようにしようと誓った。
うちの女性陣はいつもは割と戦いの面では控えめなくせに、いざ戦うと俺たちよりたちが悪かったりするので、本当に油断してはいけないなと思う。
龍之介も頭ではわかってはいたはずだが、どうしても女の子だからという理由で集中しきれていないのだろう。
もし、龍之介が初っ端から全力で戦いに挑んでいたら開始1秒の時点で佳奈との距離を詰めて模擬戦は終わっていたはずだ。
ただでさえ魔法系統が得意でない龍之介がここまで佳奈の術中にハマってしまうとかなりキツい戦いとなってしまう。
「まぁ、普通ならここで試合終了だよね」
「普通の格闘特化の相手ならね」
「ここから佳奈がどう龍之介の攻撃を捌けるかが勝負の鍵になるね」
朱音たちのいう通り、普通なら格闘特化である龍之介は魔法の罠にかかった時点で勝負が決まってしまう。
ただ、龍之介はその『普通』の相手ではなかった。
「よっし。魔力解放! 全力で行くぜ!」
「きた。ここからが勝負だよ! 龍之介くん!」
龍之介は一気に自身に魔力を纏わせ、自分自身を魔力体として無理やり佳奈の魔法陣を破った。
魔力を体に纏ったことにより、通常よりも数段レベルの上がった動き方が可能となり、龍之介のパワーやスピードが格段に上がった。
多分、今の龍之介の動きが見えている人は全体の一割もいないと思う。
俺たちももう少し動きが早くなると目に魔力を纏わなければ捉えることが難しくなるだろう。
佳奈はそれをわかっていたため、さっきからその場から動かずに周囲に罠を張っていたのだ。
これがあるおかげで、龍之介も少しはやりにくくなっているはずだ。
ただ……
「流石に力でゴリ押されるとキツそうだね」
さっきまでの形勢が一気に代わり、今は龍之介が佳奈に一方的に攻撃を仕掛ける展開となっている。
佳奈はギリギリ攻撃を避けれているが、これ以上龍之介のスピードが上がるとそれも難しくなるだろう。
というか、現時点であの攻撃を素で喰らうと頭が弾けると思う。
何かしらの対策はしているとは思うが、アウラと贈り物を制限されてしまうと事故った時の対処が大変になってしまうのが俺たちの難点かもしれない。
まぁ龍之介も佳奈も馬鹿ではないのでその辺りはしっかりとしていると思う。
うん。2人とも怖い笑顔で戦ってるけど、理性だけは残っていると信じたいね。
「佳奈、そろそろ降参しないと死ぬぞ?」
「大丈夫。もう勝負が決まるから……『氷花』」
「っ……」
「ふぅ……楽しかった」
「試合終了。勝者、橘佳奈!」
「「「「おぉぉぉぉぉ!!!!」」」」
佳奈は龍之介の魔力の力が弱くなるその一瞬の隙に独自で編み出した魔法を使い龍之介を一気に凍らせ、佳奈の勝利となった。
この試合、最初からずっと佳奈の手の平で操られていた感じで、龍之介には素直にドンマイと言いたい。
全身凍らされて軽い火傷でもしているかと思いきや、佳奈が魔法を解くと悔しそうに「負けたー!」と叫んでいた。
無事でよかったけど、こいつも異常なんだよな……
他のクラスメイトたちはみんなハイレベルの攻防が見れて満足そうに拍手をして2人を称えた。
非公式な場ではあったけど、十傑の名に恥じないいい勝負だったと俺も思う。
少なくとも、これから控えている彼女たちよりも全然いい試合だったと思う。
さて、避難しますか……




