第1話
俺達の住む村はナーチェラと呼ばれている。ゲームでも重要な村とされていて、主人公が初めて訪れる村でもある。村の祠には水嶺精霊……上位の精霊が祀られていて、年に一度水嶺祭なる祭りが開かれる。その祭りで主人公が水嶺精霊と契約した事から物語が始まる。
すなわち、俺が主人公に出会う可能性があるのは水嶺祭の前後だ。今年の水嶺祭は過ぎているから早くても来年、俺の予想だと再来年に出会う事になる。そう考えると残されている時間も少ない。
「今日は、森の方にでも行ってみるか?この辺りなら始まりの村みたいな物だし、魔獣のレベルも低いし」
魔獣とは、魔王の因子によって凶暴化した野生動物で、ほとんどが猪だったり鹿である。確かに、前世のような生身では野生動物すら危険だったが、この世界だとスキルの存在によって危険性は下がっている。まぁ、危険な事には変わりは無いのだけれど。
「思い立ったら吉日とも言うし行ってみるか」
探索用の服に着替え、訓練用ではない剣をたずさえ山の方に向かう。ヤバいと思ったら逃げれば良いだけだし、魔獣と言えど斬り続ければ倒せるだろう。
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少しでも力を付けようと山に着いた。けど、魔獣と呼ばれる存在は見当たらなかった。見つけられるのは普通の動物だけで、存在しないのはおかしい。少なくともゲームの中では無限湧きだったから、序盤のレベリングはここでやるし。
一つの世界となったから、無限湧きという概念が無くなった?動物が魔王の因子で凶暴化するに至ってないって事か?ゲームだとポンポン出てくるから気にもしてなかった。
「さて………どうしたものか」
ゲームと違って魔獣の湧きに時間がかかるって事なら安易に狩り続けてレベルを上げるってのは辞めた方が良いのかもしれない。そもそもこの世界にレベルはあるのか?スキルは水嶺精霊の祠で精霊から加護みたいな感じで受け取れるってのはゲームと同じだった。あれ?やっぱり、漫画とかにあるような
「ステータスオープン!」
しかし、何も起こらなかった。
鳥の囀り声が聞こえ、自然豊かな光景が見えるだけだ。まだだ、諦める訳には行かない。
「オープン!ステータス!」
「ゲートオープン!ステータス!」
「メニュー画面!」
思い付いたセリフを言ってみるが何も起きない。アレか?スキルは貰えるけど、レベルは不明でやれってか?Lv1縛りか?もう、どうしたらっ…………
ザック……ザック……
そう何かを踏み潰すように歩く音が聞こえた。咄嗟に貰ったばかりの隠密スキルを使って隠れる。覗いた先には
「竜の騎兵かよ………最序盤のボスじゃねぇか」
竜の騎兵。かつて竜に跨り魔王の尖兵として猛威を振るったとされる騎兵だ。竜は死にただの騎兵となったが、十分な力を持っている。まぁ説明だけ聞くと強そうだが、攻撃パターンがわかりやすいから序盤のボスとしては最適とも言える。
「序盤のボスって言ったって、今の俺じゃ無理だし、そもそもボスエリアじゃ無くてこんな場所に………村に近付いてくるかもしれない。早く他の人に」
逃げようとした所で枝を踏んでしまい、音が響く。そして、騎兵に見つかる。隠密スキルを使っているとは言え、ボスの見つかってしまえば隠密スキルを使っても発見状態は消せない。こう言う時には一つの技がある。良い事にボスエリアじゃないから一定エリアから出れなくなる訳じゃ無い。つまり、
「逃げるんだよォォォォォォ」
アイツは遠距離攻撃が無いから距離を保てば攻撃は絶対に当たらない。アイツは……竜の騎兵はRTAだと回避だけでも倒されてるボスだ。終盤に比べれば優し
【逃げろ】
スキルが働き咄嗟に横にズレると、先にあった木にハルバートが突き刺さる。あれは、竜の騎兵の武器だ。ゲームではあんな攻撃パターン無かった。本格的にゲーム知識を頼るのをやめた方が良いかもしれない。さらに、安全に逃げる方法を考えながら走っていた時、思いっきり転んだ。
胸を強く打ち、肺にあった空気が一気に抜けた感覚がする。肺を少しでも楽にしようと仰向けになると、竜の騎兵が佇んでいた。
「あー……クッソ。これでおしまいかよ」
ゲームのモブキャラは死んだら、それで終わりだ。主人公パーティ見たいに、魔法で生き返る事も教会で目が覚める事も無い。たまに、モブキャラで好きになるキャラが死ぬイベントは辛かったなぁ………そもそも、襲撃事件前に死ぬってゲーム通りには行かないんだな
振り下ろされるハルバートを静かに受け入れるようとしていた時
「どぉぉりゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
その声と共にグレートソードが騎兵を吹き飛ばす。そこには
「おいおいおい…………どういう事だよ………」
そこには、このゲームで女主人公を選択した時に使う事になる、ラティ・アクレオが居た。
飛ばされた騎兵は動かず、恐らく倒されたのだろう
「大丈夫?」
「ありがとう。助かったよ」
倒れてから一瞬の事だったが、息を整える事も出来た。何よりも主人公と会った事が大きい。何もかもがゲーム通りには行かないらしい
「助けられて良かった………あ!ここら辺に精霊を祀ってる祠とかある?」
「あぁ、それなら僕達の村だから案内す…」
さっきまで倒れていた騎兵が起き上がり、ハルバートを持ち上げラティに降りかかる。それにスキルで気付いた俺は主人公を……ラティ・アクレオを突き飛ばす。ゲームの中の俺だって人助けで死んだんだ。なら俺も主人公助けて死ぬってのが綺麗だろう。降りかかる凶刃に目を瞑る。ドンッ!とした衝撃が来る……………が痛みを感じない。
「アルスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」
自分の名を呼ぶ声がし目を開けると、目の前に居た竜の騎兵は鎧に大きな穴を開け倒れていた。穴の空いた鎧の上に、朱色の槍を持つ少女が立っている。そして、別の意味でヤバいと理解出来た。シフィからは、1人で山に行くなとキツく言われていた事を今し方思い出した。
「アルス……私言ったよね?1人で山に行くなって」
10人に聞けば10人が美しいと答えるえがおで聞かれる。だが、その笑顔の奥には怖いものが
「いや………山って言っても麓だし……」
「言い訳はわたしの家で聞こっか?」
家に連れていかれたら何されるか分からない。得体の知れない物を食べさせられる。
「で、この娘は誰?知り合い?」
シフィが指す先には、助けようと突き飛ばしたラティがいる。突き飛ばしたときに擦りむいたであろう傷が見えてるくらいだし良かったとも思うが、俺もシフィに助けて貰った様なものだし複雑に思ってると
「いや、さっき助けて貰っただけ」
「じぁ、無関係って事ね」
「あぁ……うん、たぶんそうなる」
無関係と言えば無関係だけど、関係があると言えばある様な………
「あ!そうだ、さっきこの子が精霊を祀ってる祠が無いかって」
シフィの機嫌が悪そうだから、早く話題を切り替えないと
「………王子様?」
「へ?」
唐突にラティが王子様と言った。王子なら南に行った王都に住んで………え?
「王子様!」
そうラティが言うと俺に抱き着いて来た。
「あ?」
シフィが女の子のしちゃいけない様な目付きになり、ラティの柔らかな感触が全身に伝わ………
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
オレの叫び声が森に響き渡った。
遅れてしまいましたが、投稿出来ました。
物語の主軸となるキャラが揃い始めたので、本当の本編が始まります。
次は早めに投稿出来るよう精進したいです。