初秋の異世界召喚
深夜、さっき覚めたばかりの目を擦りながら同人誌を抱え、ゲーム売り場に入る。
大抵ソフトを買う時は店に行って買う。
実体の無いものに金を払うのは何か抵抗があるのだ。
懐かしさを感じさせるタイトルがまだぼやけている目の中に飛び込んで来た。
店のすみに山積みにされた中古ゲームの前に立ち止まる。
「グリフィアファンタジー」
「友達とよく遊んだっけ」
今思えばゲームの内容は小学生がやる様なものではなく、そこそこ重い展開もあり、
ステータスも攻撃、防御、MP特化の3種類から選択できない仕様だった。
一つで三つの味が楽しめるという、手抜きの典型とも感じられるる内容だ。
自分は一番弱いとされていた防御特化の主人公をいつも選択していた。
意地でも弱いキャラで相手を負かして一矢報いたいと、そんな頑固だったじぶんの過去を振り返りながら、山積みの中からそのタイトルを引っ張り出し、同人誌と共にレジへ直行する。
衝動買いというやつだ。
店員とは最低限の会話に抑えて
颯爽と支払いを済ませ、店を出る。
自動ドアが開くと共にと涼しい風に打たれて思わず上を見上げる。
空には鱗雲の隙間から天の川が垣間見えた。
「そういやもうこんな季節か」
そう、呟き終わる頃、空の星々が歪み心地よい秋風もピタッと止まり、木々のざわめきもなくなった。
自分の住み慣れた街の様子が明らかにおかしかった。
人の気配もなく、不安が込み上げる。
即座に家へ走って帰るとやっぱり家族の気配も無かった。
そして
「誰かいないかー!?」
そう、叫ぶと
返事があった。
「私は...ここ」
女の呻き声に近い様な、本当に生を授かったものが発しているのか疑いたくなる様なか細い声が背後から聴こえた。
「...!」
そして背後に振り向くと
「おい、兄ちゃんどきな!」
自分より一回り大きな獣人の肩にぶつかる
...獣人?
「ちゃんと前見てあるけ!」
そう去り際におっかない顔で告げられる。
そして、先程まで真っ暗で誰もいなかったという事実を上書きする様に、雑踏と太陽の輝きが自分を現実へと導く。
「これって...」
「異世界召喚..だよな?」
自分にまだ受け入れがたい事実を再確認する。