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l 〜火曜日〜
遺体発見から二日目。今日も稲森は一人で例の住宅街を訪れていた。相変わらず白猫は見つけられなかった。赤池は昨日はずっと部屋に引きこもって塞ぎ込んでいたと赤池の両親から聞いている。今日、稲森が出掛けに蕎麦屋を覗いてみると、そこには忙しく店を切り盛りしている赤池の姿があった。声はかけなかったが、稲森はその姿を見て安心した。
あたりが暗くなった頃、稲森は今日の捜索を終了すると、時間貸しの駐車場へ車を取りに向かっていた。その道すがら真美に経過を報告するつもりはなかったが、なんとなく中村邸へ足が向いたので行ってみると中村邸の前にはパトカーが止まっていた。
「今日も警察が来てる?」
稲森が訝しんでいると、家から刑事に前後を挟まれて真美が出てきた。前にいる刑事がまずパトカーの後部座席に入ると、その後に続き真美がパトカーに乗り込もうとする。頭を下げてドアを潜ろうとしている、その時——。
「真美さん!」
思わず稲森は呼び止めてしまった。
「稲森さん…?」
「何があったんですか?なんで真美さんがパトカーに…」
真美の後ろにいる刑事が稲森を睨み、早くパトカーに乗るように真美に言っている。
「私…違うの!助けて!」
真美はそれだけ言うとパトカーに乗せられ、そのまま連れて行かれてしまった。
——どうして?
稲森は訳がわからず、その場に立ち尽くす。「助けて!」と言う真美の言葉が頭の中で何度も響いていた。
「探偵になるんだ…」
稲森は目を瞑り右手を胸にあて、一言そう呟く。そして顔を上げると——。
「何が起きてるのかわからないけど、真美さんは俺に助けを求めてた。まずはお母さんに何があったのか聞いてみよう」
決意を胸に歩き出した。
◇ ◆ ◇
「お母さん、何があったんですか?」
「それが私にも何がなんだか…。一昨日見つかった亡くなった方の事で逮捕状が出てるって…。あの子はただの知り合いだって言ってただけのに…」
「お母さん、落ち着いてください。どういう知り合いだったか聞いていませんか?」
「——確か、同じ職場だとか」
「真美さんの職場はどこですか!?」
「西牧市にビルがある保険会社ですが…」
「わかりました!」
「稲森さん?」
「真美さんに助けてくれと言われました。何ができるかわからないけど、この事件、俺なりに調べてみたいと思います」
「そうですか…。でしたら、それは私から正式に依頼させてください」
「え?でも…」
「いいんです。子供を信じるのは親として当然のことですから。娘の無実をどうか証明してください」
「わかりました」
稲森は、パトカーが真美を乗せて去った後に中村邸のインターホンを鳴らした。母の由紀と話をしたが、結局何があったのかはわからなかった。稲森は独自にこの事件を調べることとした。
◇ ◆ ◇
「まず何から調べればいいんだ?面会とかもいつからできるのか全然わからないな…」
稲森は歩きながら、独り言を漏らしていた。深く考え込んだ時に、知らないうちに自分の口から考えが漏れてきてしまうのは彼の癖であった。しかし、言語化されることで考えがまとまっていくのも事実であった。
「やっぱり、まだ警察はいるか」
稲森が、まず訪れたのは、事件現場となった住宅であった。家の前には刑事が立っており、中では未だ何人かの刑事が操作を行なっているようだった。その刑事達の中に稲森は見知った人物を見つける。
「三神さん!」
稲森が見つけたのは、この事件の現場責任者を務めているボブヘアの似合う女性警部補だ。
「ん?ああ、探偵君か。どうしました?」
「さっき、俺の知り合いが逮捕されました。この事件で逮捕状が出てるとかで…」
「それで?」
「一体何があったんですか?真美さんがそんなことするなんて思えません!」
「申し訳ないけど、捜査情報は話せないわ」
「それでも…」
稲森が食い下がる。何を言えばいいのか、どう聞けばいいのか、稲森には判断できなかったが、だからといって何も収穫がないまま引き下がれなかった。やれやれという感じで三神が頭を掻きながら言った。
「捜査情報は話せないけど、何があったか知りたいなら本人に聞いてみなさい。二日もすれば面会できるようになるから」
三神はそれだけ言うと、立ち塞がっている稲森の前を強引に通り抜けていった。
「面会は二日後か…。それまでに調べられることは調べてみるか。まだ、事件のあった家には警察がいるし、もう時間も遅いな。明日朝イチで保険会社に行ってみるか」
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