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稲森探偵事務所〜ぐうたら探偵とおせっかい女将の事件簿〜  作者: 伊佐谷 希
第1話 猫は殺人事件の真相を暴けるか
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 通報を受け警察が集まる。事件のあった家では、倒れていた男以外の家族は帰ってこず、玄関のドアなど鍵がかかっていたため、やむを得ず警察は窓からリビングに入り込むが倒れていた男は既に絶命していた。警察の現場検証が始まる。


 「で、通報者はどこ?」


 現場を仕切るスーツ姿の刑事が部下の男性刑事に話しかけている。顎のラインで切り揃えたボブヘアが似合う千葉県警察本部捜査第一課の三神みかみ奈緒なお警部補だ。南城市一帯の凶悪犯罪の捜査を担当している三神は今年で三十歳を迎える麗しき独身女性である。

 部下の刑事に案内され、現場近くでパトカーの中に待機させられていた通報者、つまり稲森と赤池に引き合わされる。


 「連絡をくれたのは、あなた達?」


 「そうです」


 「私は捜査第一課の三神です。申し訳ないんですけど、決まりですので一人ずつお話を聞かせてください。まずは、あなたからお願いできますか?」


 「わかりました」


 稲森はパトカーから出ると、別のワゴンタイプの警察車両に案内され、三神と共に後部座席に座った。


 「お名前から教えてください」


 「稲森圭一です」


 「遺体発見の状況を教えてくれますか?」


 「実は俺、探偵をしてまして…」


 稲森はその時の状況を説明した。稲森は警察へ通報する際に家の中に入り、倒れていた人物に触りその生死を確かめていた。その事も隠さず話す。しかし、通報後に探偵の血が騒ぎ、室内の物に触れないようにあたりを見回し、スマートフォンで現場の写真を撮影していたが、そのことは伏せておいた。三神はひと通りメモを取り、顎に手を当て少し考えているようにする。その後は、「わかりました」と言って、稲森と共に赤池の待つパトカーへ戻った。次は赤池が呼ばれ同様に事情聴取を受ける。

 もともとの依頼であった白猫については、遺体発見で二人が気が動転させ、バタバタしているうちにいつのまにかいなくなってしまっていた。


 程なくして、稲森と赤池は解放された。何かあれば連絡するからと言われ三神には連絡先を渡している。


 「帰るか….」


 「うん…」


 稲森は結局、赤池には遺体を見せなかった。しかし遺体発見から解放まで二人は約二時間拘束され、時刻はまだ午後八時過ぎであったが、二人は疲れ切っていた。ひとまず今日は真っ直ぐに家に戻る。


   ◇  ◆  ◇


〜翌日 月曜日〜

 稲森が目を覚ますと、すでに太陽は空高く登っていた。(しまった!)、と思ったが探偵事務所に客が来た形跡はなく、いつもどおりの一日が始まっていた。


 「昨日あんな事があったなんて嘘みたいだな…。なんだが現実感がわかないっていうか…」


 言いながらも、その表情は強張っている。


 ——昨日はどうかしていた…。


 稲森は昨夕の自身の行動をそうも思った。殺人の現場に立ち会ったことは初めてだった。頭部から血を流している遺体を発見した時は、驚き、恐怖でいっぱいだったが、同時に頭の許容範囲を超えてしまったのか、その遺体が作り物のような現実感の無いものに思え、また、その現場を無造作に写真に撮るなんて行動に出てしまっていた。一夜明け、冷静になった今考えると、とても恐ろしいことをしていたと思う。あるいは、あの時のあの行動も恐怖の紛らわすための行動だったのかもしれない。何にしても、普段の稲森は朝起きてから、暇な一日、動画アプリや漫画アプリを見て時間を潰していたが、今日だけはスマートフォンを見る気になれなかった。

 しかし何もしないでいると、すぐに昨夕の光景が脳裏に浮かんできてしまうので稲森は洗面台で顔を洗うと、両手で二回、自分の頬をパンパンっと叩き、外出の準備をする。


 「真美さんの依頼をこなさないとな」


 稲森は脳裏につきまとう、あの光景を振り払うように、車を走らせ、市境の住宅街へと向かった。


   ◇  ◆  ◇


 住宅街に到着すると、稲森は最初に真美の住む中村邸へ向かった。

 家の前まで辿り着くと、その玄関先には見知った人影が見えた。


 「あれは…確か三神警部補。なんでこんなところに?」


 稲森は思わず身を隠してその様子を窺っていた。どうやらちょうど用件が終わったようで、三神ともう一人の男性刑事が中村邸を後にするところだった。刑事達がいなくなったところを見計らって稲森は中村邸のインターホンを押した。


 「あ、稲森さん。モモちゃんは見つかりましたか?」


 真美が家から出てきた。真美は平然と振る舞っていたが、どこかしら元気がなさそうであった。


 ——真美さんは、何か事件に関係しているのだろうか?


 気になった稲森は昨日の報告に織り交ぜて探りを入れてみた。


 「すみません。昨日似ている猫を見つけはしたんですが、猫が入り込んだ家で何かあったようで警察の人がいっぱいいて…。結局逃してしまいました」


 「警察…?」


 真美がわずかに反応した。


 「ええ、どうやら殺人事件みたいで…。そういえば、さっきその家にいた刑事さんとすれ違いました」


 その言葉に真美はまたしても、ピクッと反応を示した。そして——。


 「その刑事さん達なら、私のところに来ていた人たちかもしれません」


 「何かあったんですか?」


 「いえ、その亡くなられた方が知り合いだったんで、少し話を聞かれただけです。なんでもありません」


 「そうでしたか」


 「それでは、今日もよろしくお願いします」


 真美は少し慌てたような口調で話を切り上げると稲森に別れを促す。稲森もそれ以上は何も聞けずに、「失礼します」と頭を下げて、今日の白猫捜索を開始した。


 「あら、あなたは?」


 白猫を探して、あてもなく歩いていると稲森は本当に三神達とすれ違った。


 「確か探偵さんだっけ?こんなところでどうしたの?」


 「いや。まだ猫が見つかってないんで…」


 「あ、そうだったわね。写真はある?もし見かけたら連絡するよ」


 「あ、お願いします。…昨日の事件って、その後はどうなったんですか?」


 「それはいくら探偵でも民間人のあなたには教えられません」


 「はあ」


 「それじゃ猫が見つかったら連絡するから。これ、昨日渡してなかったから。普段はあんまり渡さないんだけどね」


 そう言って三神は稲森に自分の名刺を渡すとその場を去っていった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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