第7章67 ラボ
「————今やギアの技術が向上して大人と子供の操縦技術の差は無くなりましたァ。頭の柔軟性や思い切りの良さで言えば、子供の方が優れていることさえありますゥ。私はァ今まで散々言ってきましたがァ、やはり最後に勝敗を分けるのはァ乗る人間の生物としての力ってわけですよォ」ザガンが言った。
————五百年前のアマンに設けられたラボと呼ばれる実験村では区画を七つに分け、大きく七種類の研究が行われていた。それぞれの区画には実験台として三十人前後の人間が収容されている。実験体たちは、日々、投薬やナノマシンによる身体の改造、触覚等の五感や第六感のトレーニングを受け、第七区画ではあらゆる動物と人間の融合や動物同士の融合と通して、より強い生物を生み出す研究がされてきた。————また、実験体たちは例外なくナノマシンをうめ込まれ精神操作がおこなれわれていた。ザガンを含め研究者たちに逆らえないように、自発的には何も行動できないようにリミッターがかけられていた。
その中で、亜人や亜獣は早くに研究の成果が現れた。獣の遺伝子により強靭で俊敏な肉体を獲得し、人間よりも優れた聴力や嗅覚、サーモグラフィーのような視力を持った者たちが次々に実践に投入された。しかし、獣と交わり動物の本能が理性を凌駕してしまうことがあったのか、強い個体ほど精神のリミッターがかかりづらく、駒としては扱いづらいものであった。第七区画では、強い個体同士を繁殖させたのも悪かった。亜人や亜獣たちは次第に独自の進化を遂げ、多様化し、研究者たちの手にも負えないものになっていった。
第一区から第六区までは人間の能力を強化する研究が行われていたが、他の動物を混ぜる第七区の研究と比べ、なかなか成果が出ないまま時だけが過ぎていった。
やがて、大戦が終結し、七天たちは国を捨て空に上がることになった。ザガンはこの時、手を持て余していたラボを放棄し、そのまま地上に捨て置くことを決定した。
ナノマシンによるリミッターをかけられた実験体たちは、それだけで生きていくことができないはずだった。自発的な行動ができず、食事すらも自らの意思で摂ることができない。アマンの研究者たちは、ザガンも含めて、誰もラボの者たちが地上に残され、自分たちの力で生き延びていくことができるはずがないと思っていた。
しかし、現実はそうはいかなかった様だった。
まず、第七区の亜人や亜獣たちは、すでにリミッターの力が弱まっていたので、自らの意思でラボを抜け出し、荒廃した地上で新たな部族として生き延びてきた。そして、狐の亜人であるヤオフーや色々な動物の遺伝子があわさり、鬼のような姿を持ったアクラのような亜人たちが生まれていった。
第一区から第五区、触覚、嗅覚、味覚、聴覚、視覚の実験村の実験体たちはアマンの研究者たちの予想通り、研究者たちがいなくなると無気力になり食事も取れないまま朽ち果てていった。
しかし、直感を、脳の機能そのものをいじられた第六区の実験体たちは他の実験体たちと同じように死んでいきはしなかった。研究を受けていた頃は、決して裕福ではなく、むしろ苦痛だらけの生活であったが、定期的に食事を与えられ、研究者たちからの世話を受け、生命の危機を感じることはなかった。しかし、ラボが放棄され食事が与えられなくなり生命の危機を感じた結果、生物としての力、生き延びるという本能が目覚めた。脳機能の強化のため、脳をいじくりまわされた第六区の実験体たちは、本能の露見に、これまで芽が出なかった研究の成果が初めて目覚めていた。強化された脳は、ナノマシンによるリミッターを解除し、封印されていた自我を取り戻した。意思を取り戻した第六区の人々は自らの意思で食事をとり生活を始めた。直感は経験に基づいて発言する。そのため、第六区の実験体たちは様々な知識を詰め込まれていた。実験村をそのまま自分たちの住居とし、畑を作り、借りをして、ここで生活をしていった。埋め込まれたナノマシンはリミッターの役割は失われ、脳機能の強化のシステムだけが生き続ける。第六区の実験体たちは世代を重ねるごとにその能力を強化していっていた。
————ザガンを憎み、いつか復讐する事を誓った第六区、第七区の人間たちもその想いは長くは続かない。七天たちはディフューザーを作りあげ、地上に住む人々に定期的に大量のナノマシンを散布した。そして、実験体たちを含め地上に残された人々は肉体を弱体化され、エリュシオンに関する記憶をなくしていった。
エリナはかつてのアマン実験村の出身者だった。村は当時のままラボと呼ばれていた。ラボには六本腕をもつ巨人の神話が語り継がれていた。巨人はラボの創造主であり、かつては村の民たちをその六つの腕で守り、生活を支えてきたが、それを当たり前とし、堕落した人々に試練を与えたとされている。いずれ村は試練を乗り越え、神の国に迎えられると信じていた。
エリナは幼い頃からこの神話を信じて真面目に生きてきた。狭い村は決して裕福ではなかったが、豊かな自然の中で、他の村人と支え合い、何不自由ない生活が続いていた。村の外れには神を象った守り神として、グレイブを改造し六つの腕が取り付けられたギアが御神体として祀られていた。村人たちは良いこと悪いことがあると御神体の元を訪れ、神に感謝や相談を告げていた。
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