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第2話6

 「探偵君、いるよね?」


 大豆生田陽子の遺体発見の翌日午前十時。南城署が誇る三神警部補と佐伯刑事の二人は再び稲森探偵事務所を訪れた。しかし、三上の言葉に誰の反応もなく入口扉に設置されたドアベルだけがガランガランと間抜けな音を立てている。

 三神はズンズンと探偵事務所の中に入っていくと、応接セットのソファで居眠りしている稲森を見つけて、「探偵君!」と声をかけた。しかし稲森は、「グガッ!」といびきで返事をするだけで一向に起きる気配がない。連日の捜査でろくに眠れずイライラしていた三神は稲森が寝ていたソファを思いっきり蹴飛ばした。


 「うわぁっ!!??」


 びっくりした稲森が飛び起きた。あまりに驚きすぎて椅子から数センチほど身体が浮き上がる。勢いよく跳ね上がってきた額は目の前で稲森の顔を覗き込んでいた三神の顎を下から突き上げた。


 「イッテェ!!」「ギャン!!」


 額を抑えながらイテェ…と言ってせっかく起き上がったソファに再び倒れてのたうち回る探偵とその横で往年の近接戦闘特化型モビルスーツの名前のような叫び声をあげて床に倒れた女刑事。この二人何やってるんだ?と佐伯は呆れた様子でその光景を見ていた。————あ、警部補のパンツが見えた。


 「ほら、二人ともしっかりしてください」


 佐伯は二人を助け起こすと顎を強打し未だ立ち直れない上司に代わり、今日の来所の用件を話し始めた。


 「大豆生田夫婦が亡くなったのは話しましたよね。稲森さんと大豆生田さんの関係を詳しく教えてくれませんか?」


 「——依頼人と探偵。それ以上のことは言えませんね」


 「探偵君、今回の件は事件性が高いの。もったいぶらないで話して」


 痛みから立ち直った三神が言った。稲森が答える。


 「別にもったいぶってるわけじゃありません。故人にだって名誉がある。簡単に依頼内容を他人に話すことはできません。こっちだって信用が第一の商売ですからね」


 三神は、はぁーーっと深いため息を漏らす。稲森は応接セットの二人がけソファに刑事二人を座らせると、自分は向かいの肘掛け付きの一人がけソファに腰掛けた。三神は仕方ないと言って今回の事件の内容について話し始めた。


 「まずは宏行の変死から順を追って説明するからよく聞いてね。

 ——宏行の遺体が発見されたのは、あの大雨の日。あなたが陽子の浮気写真を撮影した日のことよ。第一発見者はフルーツパーラーの取引先営業社員の二人。営業部の長谷川はせがわと広報部のはたけ。二人とも男性よ。二人はその日の午後二時ごろ宏行から突然電子メールで午後四時に自宅に来て欲しいって呼び出されたの。用件は新商品の企画に関することだったらしいけどね。二人は別々の場所でメールを受け取って、急なことで戸惑ったそうだけど、お得意様だからとりあえず午後四時の数分前に家の前で落ち合ったの。

 そこで二人は午後四時になったのを確認して門のところのインターホンを押した。でも返事がない。もう一回押したけど一向に返事がなかった」


 「たまたま留守だったとか?その時間には帰れると思ったけど用事が長引いたとか?」


 稲森が口を挟む。しかし三神は違うと首を振ると——


 「それが門から玄関に向かう一対の足跡が庭にくっきりと残ってたの。あの日は昼過ぎまで雨が降ってたから地面がぬかるんでたのね。だから二人は宏行は中にいるはずだと思って、返事がないことに心配になって、家の脇まで行って窓から中の様子を覗いたの。その時の足跡も現場にはしっかり残ってたわ。

 でも結局外から家の中の様子はわからなかった。大声で呼んでもやっぱり返事がない。そこで畠がドアノブを回してみたら開いたの。やっぱり中にいるんだと思って玄関から家の中に声をかけてもうんともすんとも言わない。畠は心配でいてもたってもいられなくて中に入っていったそうだわ。そうしたら玄関を入って、通路に沿って左に曲がってすぐのリビングの扉のドアノブにネクタイをかけて首を吊っている宏行を発見した。畠の悲鳴を聞いて、すぐに長谷川も駆けつけて、二人はすぐに宏行の首からネクタイを外して救急車を呼んだけど結局宏行の死亡が確認されたわ」


 「——なるほど、それが最初の事件ですか。で、それと陽子の浮気写真はどう繋がるんですか?」


 稲森は三神の話を聞き終えると、しばらく考えるような仕草をしてから、昨日の探偵事務所での一場面を思い出して三神に問いかけた。現場だけ見ると自殺のようだが宏行の行動や昨日の三神の様子に違和感を覚えたからだ。三神は当然そうくるよねと苦い顔をすると、くれぐれも口外禁止だからねと念を押して話し始めた。


 「宏行が探偵君に浮気調査を頼んだぐらいだから、なんとなく予想はついてると思うんだけど、夫婦仲は相当悪かったらしいの。近所からはよく二人の怒鳴り合いが聞こえてたって話も出てるわ。だから警察では自殺と事件の両面で捜査をしてたってわけ。昨日のことも陽子のアリバイの裏を取るために確認したの」


 「——てことは死亡推定時刻は?」稲森が言った。


 「午後一時から三時の間。宏行からのメールの時間を考慮に入れるなら午後二時過ぎから三時までの一時間ね」三神が答える。


 「なるほどな。だから、陽子は宏行の依頼料を立て替えたのか」稲森はふむふむと顎に手を当てて納得の様子。逆に三神が「どういう事?」と聞いたので稲森はこっちの話も他言無用ですよと念を押してから、宏行が探偵事務所に訪れてから陽子と会って写真を渡した経緯を説明した。佐伯が必死にメモを取る。


 「——次は陽子の事件になるんだけど、こっちに関してはまだ詳しいことはなんとも。ただ、発見された遺体は河川敷に無造作に横たわってて首を絞められたような跡があったから他殺なのは間違いないわ」


 「まあ、昨日の今日だから仕方ないか……」と稲森は頷いた。

 三神たちは大した収穫はなかったかとため息を吐きソファから立ち上がろうとする。稲森は、「ちょっと待って」とその動きを静止すると質問を投げかけた。


 「その第一発見者の二人の特徴やその日の服装とかを教えてくれませんか?」


稲森の問い掛けに三神は素直に答えてくれた。


 「長谷川は大柄な男性ね。身長は百九十センチ近いわ。逆に畠は少し小柄で二人並ぶと凸凹コンビって呼ばれてたみたいね。当日の服装だけど二人ともスーツで長谷川は大きめなリュックサックを、畠はバッグとトートバッグを持ってたみたい。二人とも外回りが多いから普段から荷物が多くて、大きなバッグを持ち歩いているみたいよ」


 ——他には何かある?と聞いた三神に対し稲森はもう大丈夫と礼を言った。三神は「何かわかったら連絡してね」と言いソファを立った。佐伯刑事もそれに続き、二人は探偵事務所を後にした。

 入れ違うように真美が探偵事務所に戻ってきた。


 「稲森さん、刑事さんたち来てたんですか?」真美が言った。


 「真美さん、いいところに戻ってきた。大豆生田さんの浮気写真ってまだある?」稲森が真美の質問には答えず言う。


 「——?ちょっと待ってね。はい、これ」真美は不審がりながらも、所長である稲森の指示に従って、しまっておいた写真を稲森に渡した。写真はあとで確認できるように陽子に渡した物以外にもう一セット現像してあった。

 稲森は受け取った写真をパラパラと順番に眺めていく。そして——


 「なるほどね。真美さん、三神警部補に連絡とって!」


 真美は首を傾げながらも稲森の指示に従った————

ご高覧いただきありがとうございました。

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