第2話4
大豆生田陽子の浮気写真を撮影した日から二日後。報告書を作成し終えた真美は依頼人である大豆生田宏行の携帯電話に電話した。三コール程で通話が繋がる————
「——もしもぉし、どちら様ですかぁ?」
しかし電話に出た声は五十歳男性のものではなく可愛らしい女性の声だった。真美はびっくしり、間違えましたと言って電話を切ろうとするが————
「待って!間違ってないですよぉ。これは大豆生田宏行の電話ですぅ。宏行に用があったんですかぁ?」
「あ、あのー、あなたは?」
「妻の陽子ですぅ。そちらこそ、どちら様ですかぁ?」
——小声で、どうしようと言って真美は稲森の顔を見た。しかし稲森は俺に振るなよと首を横にブンブン振っている。その様子に真美は落胆のため息をついて再び電話に向かう。すると陽子の側から——
「もしかしてぇ、宏行が雇った探偵さんですかぁ?」
「はっ?えっ?ち、違います!」
「隠さなくても、この携帯にそうゆう風に登録されてますからわかりますよぉ」
——なら聞くなよと真美は思った。電話の向こうの陽子が言う。
「私の浮気写真でも撮れましたぁ?お金払うからその写真くださぁい」
「依頼内容をお伝えするわけにはいきません。宏行さんはいらっしゃらないんですか?」
「そのことなんですけどぉ、実はぁ————」
そう言って陽子が語ったことは真美を驚かせるのに十分だった。メモを取りながら話を聞くと、また電話すると言って通話を終了した。そして稲森に報告する。その内容とは————
「————大豆生田さんが亡くなった!?」
「うん。詳しいことは教えてくれなかったんだけど、大豆生田さんが正式に依頼したことだからお金は払うって言ってて……」
「直接会って話を聞いてみるか」
◇ ◆ ◇
これから行くと電話で伝え、二人は早速車を走らせた。大豆生田陽子とは大豆生田邸からほど近い喫茶店で会うこととなった。車を三十分程走らせ喫茶店に到着すると、中では既に大豆生田陽子が奥まった位置にある人目につかない席で紅茶を飲みながら二人を待っていた。店に入ると二人は真っ直ぐにその席へ向かいコーヒーを二つ注文する。コーヒーが運ばれるのを待って稲森が話を切り出した。
「この度はご愁傷様です。早速ですが、宏行氏が亡くなられたと言うのは本当ですか?五日ほど前にお会いした時はお元気そうでしたが」
稲森の言葉を聞いて宏行の妻である陽子は手で涙を拭うように目を覆い俯いた。陽子は宏行とは干支が一回り違い今年で三十八歳になるというが、シミのなく張りのある肌を彼女を年齢よりも若く見せた。手指も荒れたところもなく細くしなやかだ。
「実はぁ身内の恥を晒すようでぇあれですけどぉ、宏行は自死しましてぇ——」
「えっ?それってどういうことですか?」
「すみません。これ以上は……。とにかくぅ、お金は払いますのでぇ、もうこれでぇ」
陽子は甘えたような口振りではあるが、有無を言わさぬ声音で一方的に話を打ち切ると稲森に金を渡し写真を受け取って店から出て行った。
稲森と真美は、陽子の態度に困惑し二人揃って首を傾げていた。
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