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虹の橋を渡るまで  作者: 上野暢子
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5 その後の日々

 一年半後の十月。

【ラッキー(三歳)のつぶやき】

 今日、ママが机に向かって勉強している時、「にゃあ、にゃあ」と鳴いて遊びをねだってみた。

 ママは中学三年。中学に入学してからの二年半で手足がすらりと長くなり、背が随分高くなった。ママは言った。

「ラッキー、ごめんね。お願いだから静かにして」

そして、アタシを部屋から出してしまった。

「寂しいなあ、最近ママは以前と違って勉強ばかりして、アタシのことがもう可愛くなくなったんだろうか」

と思っていると、おばちゃんが言った。

「ラッキー、ママは高校受験の勉強で忙しいのよ。おばちゃんが遊んであげようね」

コウコウジュケン?何、それ?また訳の分からない言葉が出て来た。意味は分かんないけど、何か重要そうだ。アタシは良い子だから、ママに協力してあげようっと。

 それにおばちゃんが代わりに遊んでくれるって言ってる。お言葉に甘えて遊んでもらおう。でもね、でもね、でもね。このおばちゃん、遊ぶ代わりにちょっと面倒くさいことを要求してくるんだな。

「ラッキー。おばちゃんとツーショット撮ろう」

出たあ!恐怖のツーショット!なんでアタシがおばちゃんとツーショットをしないといけないわけ?

 そんなアタシの気持ちなどおかまいなしに、おばちゃんはアタシの顔に自分の顔を近づけ、腕を伸ばしてカメラを構え、カシャッカシャッと何枚も撮っていく。私は全部変な顔をしてやった。

「ラッキー、なんでこんな顔ばかりなの?もうちょっと可愛く写ってほしいのに」

とおばちゃんは嘆く。そんなの知らないよ。なんでツーショットなんて撮らないといけないの?


一年後。

【幸(高一)の日記】

 今日、ネットのあるページで見た。獣医さんの書いているページだ。そこにはこう書かれてあった。

「あなたにとってペットは、あなたの人生のほんの一部分かも知れません。でも、考えてみて下さい。ペットにとってはあなたがペットの人生のすべてなのです。だから、ペットが死んでいく時、そばにいてあげて下さい、ひとりぼっちにしないでください・・・・」

そうか、と私は思った。ラッキーは自分一人で楽しくやっているけど、私や母がすべてなんだな。今、ラッキーはまだ四歳で死ぬなんてまだまだ先のことだけど、その時が来たら、ずーっとそばにいてやろう。きちんとみとってやろう、お葬式もしてやろうと決心した。


一年後。

【幸(高二)の日記】

 今日、学校から帰ったら、誰もいなかった。ラッキーだけが「にゃあにゃあ」鳴いている。たぶん、鳴きたいから鳴いているんだろう。私は放っておくことにした。

 でも、しばらくたっても、鳴き声は止まない。一体いつまで鳴いているんだろうと思いながら、ラッキーのいる部屋に入った。

「ラッキー、どうした・・・!!」

ラッキーの足元を見て、私はびっくりした。片足が、なんとゴキブリホイホイにくっついてしまっているのだ。そして、どうしてよいか分からないラッキーは、ゴキブリホイホイごと、バッタンバッタン歩いている。

「ラッキー!あんた、アホか」

私はゴキブリホイホイを片手に、ラッキーの足をもう一方の手に取って、引っ剥がした。

「にゃああああああああん!」

ラッキーははがれる瞬間、ものすごい大声で鳴いた。はがれて晴れて自由の身になったラッキーだったが、ゴキブリホイホイの強力な粘着剤がラッキーの肉球にべっとりと付いてしまった。だから、ラッキーが歩くと、そこにあるゴミが全部ラッキーの足についてしまうようになった。ラッキー、上手にお掃除してね。


【ラッキー(五歳)のつぶやき】

 今日は、とんだ経験をした。ゴキブリホイホイという名の虫とり用の道具に、足がぺったり付いてしまったのだ。

 ゴキブリホイホイがそんな粘着剤が付いているなんて知らなかったから、ちょっとそれで遊んでいたら、誤って足にくっついちゃった。外そうとしてもがいてたら、ますます深みにはまってしまった。

 最終的に、ママが解決してくれたけど、またアタシは家族の笑い者になってしまった。あーあ。


 こんな感じでアタシは、昼寝をしたり、遊んだり、鈍くさいことをしたり、怒られたり、笑われたりしながら、毎日を過ごし、四年の月日が過ぎた。



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