4 怖がりラッキー
【ラッキー(一歳)のつぶやき】
今日は面白い体験をした。ベランダの外で
「ちゅんちゅん!」
と鳴く声が聞こえたので何だろうとガラス越しに見てみると、スズメ!それも三羽!スズメはおいしいんだって?!猫の母さんがそう言ってたのをかすかに覚えている。
アタシはもう大人。スズメ一羽くらい、なんてことない。アタシは早速攻撃態勢をとった。少しずつバレないように近付いていく。そぉっと、そぉっと・・・。そして、さあ行くぞ!行くぞ!行くぞ!気合は十分なのに体が動かない。まったくカチコチ。あれ?と思ったら、スズメ達がサーっと一斉に飛び立った。キャー、コワイ!!アタシは叫びそうになった。怖くてカチコチのまま、アタシはひっくり返った。
スズメが飛ぶのを見て腰抜かす猫なんてカッコ悪いので誰も見てなくて良かったと思ったら、おばちゃんが後ろでケラケラ笑っている。アタシはおばちゃんをにらんでやった。おばちゃんのことだから、きっとママにこの一件をぺらぺらしゃべるだろう。アタシはこの家の笑い者だ。あーあ。
よくよく考えてみると、アタシがスズメを見ていたのはガラス越し。たとえ体が動いてスズメたちの方向へ突っ走ることができたとしても、ガラスに激突して終わったはずだ。下手をすれば、大事な嫁入り前の顔(え?アタシはお嫁さんになれないの?)に怪我をして、動物病院に行きになり、そこで獣医さんに笑われる羽目になったはず。どっちみち、笑い者なんだ。ふて寝。
それから一年。
【ラッキー(二歳)のつぶやき】
今日はお客さんがあるらしい。おばちゃんが忙しそうに家中をキレイにすべく頑張っている。
「ラッキー、毛を落とさないでよ」
なんて言われるけど、そんなの無理だよ。勝手に抜けるんだもん。
そのお客さんはウサギという動物を連れて来るみたい。なんだろ、ウサギって。
ウサギさんをひっかいたりしないように、今朝、全部爪を切られた。爪切りは嫌だな。
そのお客さんは「うさぎカフェ」というのを経営していて、そのウサギさんはそこの看板ウサギなんだそうだ。アタシは無職なのに、そのウサギさんはちゃんと働いているなんてえらい。
そんなえらいウサギさんが来るんだから、きちんと身づくろいをしなくちゃ。アタシが毛づくろいを始め、アゴの下をかくと、おばちゃんが言った。
「ラッキー。そこ、さっき掃除したところ。フケ、落とさないで」
仕方がないのでアタシは床をなめて掃除しといた。え!?余計、汚いって?!
やがて、おばちゃんのお友達とえらいウサギさんが到着した。ウサギさんの名前はみみちゃん。みみちゃんはケージの中にいて大人しくしていたが、ケージの扉を開けると、ぴょこんと出て来た。ぴょこんと出られてアタシはびっくりし、後ずさりした。
みみちゃん、というよりウサギってなんであんな形をしているのだろう・・・。
大きくて長い耳があり、Yの形をした鼻らしきものが常にひくひくしている。アタシの匂いを嗅いでいるのかしら。怖いなあ。アタシのこと「おいしそうだ」とか思ってたらどうしよう。
最大にびっくりしたのは目だ。目って普通、顔の前についているものじゃないの?みみちゃんの真っ黒な目は顔の横についていて、しかも飛び出ている!なんて変な顔をしているんだろう。
「まあ、この子がみみちゃんなの?可愛いわねえ」
とおばちゃんは言う。可愛い!?アタシに言わせりゃ、コワイイわ。
みみちゃんはアタシの方を見ている。何だろう。何か言いたいことでもあるのだろうか。
と思ったら、みみちゃんが、アタシの方に向かって走って来た。ひゃー、なんなの!?アタシは思いっきり後ずさりした。
みみちゃんは走り方も変だ。四本足を交互に動かすのではなく、跳ぶようにしてぴょんぴょん走る。いきなり近付いてくるから怖いんだ。
アタシはすっかり固まってしまった。みみちゃんはアタシと若干距離をとり、アタシの方へ体をにょーんと伸ばしてくる。アタシは怖さのあまり、猫パンチをしそうになったその時、おばちゃんが大声をあげた。
「ラッキー!」
そして、その後はまったくみじめなことに、アタシは危険人物として、ケージの中へ捕えられ、禁固刑に処されることとなった。
みみちゃんは、ご丁寧にケージと言う名の牢屋までアタシの面会に来てくれたが、アタシは怖くてなるべく隅っこで固まるようにした。
ああ、ウサギってなんて怖い動物なんだろう。かなりカルチャーショックを受けた一日だった。