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虹の橋を渡るまで  作者: 上野暢子
3/7

3 それぞれの成長

【幸(小六)の日記】

 今日はラッキーのギプスを取る日だ。じゅう医さんのところでギプスを取ってもらった。バラバラになっていた右脚の骨もちゃんとくっついたみたいだ。最初にとったレントゲン写真と今日撮ったレントゲン写真を見比べて、じゅう医さんは色々説明してくれたけど、さっぱり分からなかった。でも、治ったんならいいや。

 左あしも心配だったけど、だんだん感覚がもどってきているみたい。

 あしが自由になってラッキーもよろこんでいるだろう。びっくりしたのは、ラッキーの前足がすごく太いことだ。後ろ足が使えない代わりに前足を使っているので、その分、筋肉がついているんだそうだ。後ろ足も使えるようになるかな?

 あともう一つびっくりしたのは、診察台の上のラッキーがすごく大きくなっていることだ。最初の診察の倍ぐらい大きくなっている。体重も順調に増えている。

 

【ラッキー(生後四カ月)のつぶやき】

 今日はアタシの足を固めているギプスなるものを取ってもらう日だ。ギプスから解放されるとすっきりした。これでもっともっと走り回れるぞ!部屋の中をいろいろ探検してやろう!


【幸(小六)の日記】

  ラッキーは毎日あばれまわっている。主に、前足でばたばた走り、ときどきひょいっと後ろ足も使う。でもすぐ、後ろ足は投げ出して前足で走る。うちに来た時よりもずっと大きくなったけど、それでも、小さいのをいいことに、色んなすき間に入りたがる。例えば、洗濯機の裏とか、ピアノの裏、机と壁のすき間とか。ピアノの後ろに入った時は、思いっきりピアノをジャーンと鳴らしてやったら、びっくりした顔をして走って逃げだした。母さんと私は大笑い。もう二度とピアノの後ろには入らないかと思ったのに、こりずに今でも時々入っている。そして、ほこりまみれになって出てくる。

 この前の診察では、「後ろ足に筋肉がついているね。使えてるんだね」とじゅう医さんに言われた。後ろ足も少しずつ太くなってきている。

 

二カ月後、十月のある日・・・・

【ラッキー(生後六カ月)のつぶやき】

 何だか変な気分なんですよ。体がくねくねするのです。じっとしていられないんですよ。わお~~ん、わお~~んと鳴きたくなるのです。わお~~ん!どうしたらいいの?アタシ、どうなっちゃったの?アタシがわお~~んと鳴いたら、外の野良猫がわお~~んと返してきた。ああ、もうたまりませ~ん。誰か何とかして~!


【幸(小六)の日記】

 母さんによると、どうやらラッキーは発情期になったみたいだ。変な鳴き声で鳴いたり、体をくねくねしながら床をはったりしている。一日中なのでうるさくてたまらない。

 母さんが動物病院に電話して、ラッキーを動物病院に連れて行った。じゅう医さんもやはり、発情期だと言った。ラッキーが健康に育っている証拠だと。大体、生後六カ月ぐらいでみんな発情期になるそうだ。

ラッキーは避妊手術をして一日入院して明日退院と言われた。

 

【ラッキー(生後六カ月)のつぶやき】

 手術が終わってみると、あれま!あの耐えがたいもぞもぞ感とか変な気分はどこへ行ったのやら。

 ママが「ラッキーは発情期だ」って言ってたけど、発情期ってどういう意味?猫にも辞書が必要だよ。

 今、外の猫がわお~んって鳴いたけど、アタシもあんな鳴き方をしていたのかな?


二カ月後、十二月。

【ラッキー(生後八カ月)のつぶやき】

 このごろ随分寒くなって来た。寒いのが苦手なアタシにはツライ季節だ。おばちゃんが、ペット用の電気マットを買って来た。そしてフリースにくるんでくれた。それがアタシの定位置になった。どういう仕組みなのか知らないけど、座るとぽかぽか温かい。アタシはこの家で一人っ子で良かった。たくさんきょうだいがいると、このぽかぽかも取り合いになる。

 この間、クリスマスという変な行事があった。「クリスマスだから」と言って、ママがむりやりアタシの首にベルのついた赤いリボンを結びつけた。そして「可愛い、可愛い!」と興奮して、写真を撮った。アタシは全部変な顔をしてやった。お祝いの行事だからってなんでアタシまで巻き込まなきゃいけないの。リボンは首が締まりそうでうっとうしいので引きちぎってやった。

 夜になると、ママとおばちゃんはケーキというものを食べ始めた。おいしそう。アタシもちょっと食べてみたくなったので、隙をねらってうろうろしていたが、警備が厳重すぎて、味見はできなかった。二人がケーキを食べている時、アタシはぽかぽかの上でふて寝した。


それから約三カ月。

【幸(小六)の日記】

 今日は卒業式。私はピンクのチェックのワンピースとグレーのブレザーを着て出席した。六年も過ごしたこの学校とさよならするのはちょっぴりさみしい。でも、来月からは中学だ。どんな毎日が待っているんだろう。わくわくする。先生にあいさつをして写真を撮って「遊びに来ます」と言った。写真を撮るときに思った。一年生のときは高いと思っていた先生の背と私がほとんど変わらないこと。私、大きくなったんだな。

 家に帰るとラッキーが退院して待っていた。猫じゃらしで遊ぶ。猫じゃらしを見るとラッキーはとたんに顔つきが真剣になる。そして、猫じゃらしの毛のところを必死にみつめて前足で追いかける。時々、猫じゃらしをつかませてやらないと、すぐあきる。


【ラッキー(生後十一カ月)のつぶやき】

  今日、ママはなぜかおめかしをして学校へ行った。可愛い服を着て行った。

卒業式があるんだって。ソツギョウシキって何?アタシにもそのうち卒業式が来るのかな?アタシも可愛い服を着るのかな?

 卒業式から帰って来たママは、一輪のお花と紅白まんじゅうというものを持って帰って来た。紅白まんじゅうって何?食べ物?なんで紅白なんだろ。アタシも食べていいのかな。テーブルに置いてある紅白まんじゅうが気になって、椅子に上ってちょっとその箱を触ったら、ママにばれて

「ラッキー!!さわっちゃダメ!」

と怒られた。

 お花はおばちゃんが一輪挿しに刺したのをじっと見ていた。そして、誰も見ていない時に棚の上に上がって、きれいだなーと見ていた。ちょっとかじりたい欲求が湧いて来て、茎を軽くかじってみた。

 しばらくすると、ママが棚のところで大声をあげた。

「ちょっと母さん、ラッキーにまたやられた!」

「何を?」

とおばちゃん。

「ラッキーが、私のお花の茎をかじってダメにした」

アタシは寝たふりをした。


そして、四月。

【幸(中一)の日記】

 今日は二つ良いことがあった。一つ目は中学生になったこと。新しいセーラー服を着ると、ちょっと大人になった気分になる。入学式では、初めて中学の校舎に入った。ハッキリ言って汚かったのでちょっとがっかりしたけど、古いから仕方ない。

 もう一つは、ラッキーが一歳になったこと。去年の六月に連れて来た時、二カ月だったからちょうど今頃が誕生日のはず。ラッキーに「お誕生日おめでとう」と言ったら、不思議そうな顔をしていた。母がラッキーに誕生日だからとおやつのマグロを買って来たけど、ラッキーは興味がないのか全然食べなかった。

 母によると、猫の一歳は人間では二十歳なんだって。ラッキーはまだあんなに甘えん坊なのにもう私より大人なんだ。なんだか信じられない。


【ラッキー(一歳)のつぶやき】

 今日、ママから不思議な言葉を言われた。「お誕生日おめでとう」どういう意味?もしかして今日はアタシの特別な日なんだろうか?アタシ、もしかして子猫を卒業したんだろうか。嬉しい!もしそうなら卒業式をしなくちゃ。ママが卒業式の時に着たみたいな可愛い服はないけど、おいしいごはんをたっぷり食べて、たくさん遊ぼう!と思い、お皿のところに行くと、これまた不思議なにょろんとした生っぽいものが乗っていた。おそらく、おばちゃんがのせたんだと思うけど、なんかきしょく悪いよ。ごめんね、おばちゃん、せっかくだけどアタシ、遠慮しとくからおばちゃんが食べてね。

 嬉しさは半減しちゃったけど、お腹いっぱい食べて、家中を駆け回った。

「ラッキー、誕生日が嬉しいのかな?」

ってママが言った。だから、誕生日って何?


【幸(中一)の日記】

 中学は小学校より遠くて、ちょっと早起きしないといけなくなった。朝、毎日ラジオ体操をして眠気を覚ましている。ラジオ体操をしていると、ラッキーがまた不思議そうな顔をしている。

 いいことを思いついた!ラッキーが大好きな猫じゃらしを片手に持って、ラジオ体操をしてみた。すると、右に体を向けると右へ、左へ向けると左へ、ラッキーは猫じゃらし目がけてバタバタと走って行く。体を大きく回転させる運動の時、ラッキーはぴょーんと跳び上がる。その様子はすごく面白い。私も目ざましになるし、ラッキーには運動になる。


【ラッキーのつぶやき】

 ママが新しい遊びをしてくれた。名付けて「ラジオ体操猫じゃらし」ってそのままだけど、これが走る量も多いし、跳ぶところもあって、運動不足になりがちな家猫のアタシにはぴったりなんだ。

 ママは中学に入って朝もちょっと早くなったし、美術部に入ったらしく、週四日帰りが今までより遅くなる。でもママは私と遊ぶことを忘れないので、学校から帰るとアタシと遊んでくれる。

 こんな調子だから、ママが勉強している姿を見たことがない。中学の勉強は難しいと聞いているけど大丈夫だろうか。なんだかアタシがママで、ママがアタシの子供みたいにアタシはママを心配している。ママ、勉強しなくていいの?


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