表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

あなた

作者: 煩悩小坊主




「君…名前は何て言うの?」


冷たい雨の降る夜、私を見つけたあなたは

月の光を背に受けて、にっこりと笑っていました。






「おいで、髪の毛拭いてあげる」


あなたは、暖かい部屋の中で

大きなタオルを広げて待ってくれています。


私はというと、肩に届くか届かないかの無造作に切られた髪を

拭きもしないでここに立っているので

あなたがそういうのも分かります。

なので、あなたの所へとぼとぼと歩いていくのです。


「お湯熱くなかった?」


私の髪を拭きながら、相変わらずにこにこ、にこにこと笑いながら

あなたは聞きます。

私は首を縦に振るだけです。


「そっか、良かった。

 あ、ドライヤー持ってくるの忘れちゃった、ちょっと待ってて?」


そう言うと、私の顎にするっと指を這わせて

にこっと笑って、そして部屋を出ていきます。


「......」


静かになった部屋の中で、私の呼吸音が聞こえます。

あなたがどこかの扉を開けた音が聞こえます。

私の体を巡る、血の音が聞こえます。

私の、心臓の音が、聞こえます。



「...また、変な事考えてた?」


いつの間に戻ってきていたのか

リビングの入り口に立ってこちらを見ているあなたは、にこにこと笑っています。

私は、あなたを見つめます。


「大丈夫だよ。なんにも心配することないんだよ」


あなたはゆっくりと近づいてきて

私の頭を撫でます。

髪をすいて、目じりをなぞって、唇を触ります。


「怖いこと、なんにもないからね」


そうして、にっこりと笑って私を優しく抱きしめてくれます。

私は、そんなあなたの笑顔がいちばんこわいのです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ