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第11話(第1部完結)

 白騎士は驚いていた。

 自分のターゲットの連中が、自分の事を勝手に「白騎士」と呼ぶからではない。


 失礼な。


 と白騎士は思っていた。

自分の名前は「爆epj-麟ヲ0231-p...」。


 ...おかしい、自分の名前が、正式コード名が思い出せない。

超時空間跳躍をした時の衝撃で「バグ」ったらしい。


 身体の機能も完全ではない。

 だが、そんな事は関係ない。


自分の、「爆epj-麟ヲ0231-p...」の使命は、ターゲットとなる物どもを

抹殺する事なのだ。それが我の「爆epj-麟ヲ0231-p...」。


 ええい、自分の名前がわからん!

 この際「白騎士」でも良い!

 それが我が「白騎士」の使命なのだ。


 白騎士が驚いた理由。


 それは本来の予定に入っていなかった邪魔者がいるからだ。


 それも、二人も!

 いや、一人と一匹、か?


 テネブラグレンスカヤから来た黒騎士と呼ばれる奴は、

いわば予想内であったが、この、スカッシュとか言う犬のような物体が、

ここまで自分を邪魔するとは思わなかった。

 しかも、黒騎士と、この犬のようなスカッシュは見事な連係プレイを

見せて、俺に攻撃しやがる。


 なんて奴だ?

 どこでそれを憶えた?

 お前ら、事前に打ち合わせして、演習かなにかしてたんじゃないのか?


 六本足の四つん這い体型になった白騎士は、体内のエネルギーを

チャージして、顔面から「大砲」の発射体制に入った。

自分のターゲットである、理沙と綾乃と言う小娘二人くらい、

吹き飛ばせる範囲を持つ。


「白騎士」の「頭脳内」のコマンド表示が「大砲」のカウントダウンに入った。


 次の瞬間であった。


 スカッシュが白騎士に飛びかかり、白騎士の身体あちこちを

噛みはじめた。普通の犬の牙では到底太刀打ちできないはずだが、

スカッシュは違っていた。


 なぜなら、「普通の犬」ではないからだ。スカッシュが、

なぜこんな身体なのか、もちろん自分自身も知り由もなかった。

全ての理由を知っているのは、飼い主の田吾郎兵衛だ。

 だが、今はそんな事を聞いている余裕はない。


 スカッシュは、ひたすら白騎士の身体のあちこちを噛み続けた。

白騎士の身体のあちらこちらから、「配線」のような物が露出し、

エネルギーが発火して漏れ出している。


 スカッシュが吠える。


「ワワン!」


 黒騎士レフ・オラフは、その言葉が合図のように高々と宙に舞い、

二本の剣を振りおろし、攻撃に打って出た。


  一本目の剣は、頭部の大砲である、その砲口を鈍い音とともに

打ち砕き、二本目の剣を、スカッシュによって噛まれ、露出した

白騎士の体内へと突き刺した。


 次の瞬間!


 白騎士は「目の前」が真っ白になるのを見た。

それは自分が、エネルギー負荷で暴走して、爆発する瞬間であった。


 わずか数秒の出来事であったが、白騎士にはそれが長く感じられた。

白騎士の目の前が「真っ白」になったかと思うと、

次の瞬間、無音・無感の暗闇の世界が広がりはじめた。


-----------------------------


 田吾郎兵衛は驚いていた。


 それは、綾乃と理沙がいるはずの応接室から閃光が走り、

爆発とともに、巨大な炎が吹き出したからではない。


 もうもうと燃えさかる山奥のコテージ。


 自分たちが住んでいた山奥のコテージが、赤々と燃え上がる。

吹き上げる火炎が夜空の雲を照らし、あたりの木々に反射する。


 田吾郎兵衛が驚いたのは、燃えさかるコテージの炎をバックに四人が

何事もなく、堂々と歩いてきたからだ。


 いや、違う。

 四人じゃない、

 三人と一匹だ。


 まるでこれは、アクション映画かなにかのラストシーンのようだ。


 黒騎士レフ・オラフが、疾走のごとくコテージの応接室に

駆け込んだので、過激な戦闘が展開されたと予想されたが、実に見事であった。


 黒騎士レフ・オラフは、何事もなかったように、

どちらかと言うと肩をいからせて、こちらに歩いてきた。

いや、戦いに疲れて、息を切らしているだけなのかも知れない。

だが、そんな事はどうでもいい。


 この様子からすると、敵が放ったデストロイヤーの

「白騎士」を倒したのに間違いない。自分が精魂込めて、育ててきた理沙と

綾乃を殺しに来た、敵の刺客を打ち倒してくれたのだろう。


 なんと頼もしい奴。

 さすがはわが故郷、テネブラグレンスカヤから来た戦士だけある。


 だが自分の住んでいた、故郷テネブラグレンスカヤはもう存在しない。

田吾郎兵衛が、エルグ・ノールが住んでいた故郷、テネブラグレンスカヤは

もう、存在しないのだ。


 もちろん、自分自身をここへ、この世界へと派遣したミレンコフ

大司教も、存在しない。


 エルグ・ノールの目的は、大司教の計画通り、暗殺されたマザーで

指導者のリサ・F・マコロフ・ヴェーテル様をここで再生・復活させる事で

あった。だが、今、自分の存在していた「世界」が無くなってしまった。


 帰るべき「故郷」が滅びてしまった。

 これから、どうすれば、良いのか?

 自分たちは、これからどうすれば良いのか?


 ここへ「白騎士」なるデストロイヤーを送り込んできた「敵」は、

これで攻撃の手を緩めるとは思えない。


 それに、ああ、そうだ。

 理沙と綾乃に、真実を話さなくては行けない。

さすがに、もうウソを押し通す事はできない。


 リサ・F・マコロフ・ヴェーテルの人格を再形成するため、

彼女が育った環境と、歴史を再現しなければならなかった。

そのためにも、リサが、いや、理沙が十七になった時、

妹の綾乃を殺さなければ、ならなかった。


 そもそも、理沙も綾乃も、大司教の計画を遂行するため、

遠い昔、この世界に来た時、対象となる子供をさらってきた。

いやがる子供の記憶を「改良」して、今の「理沙」と「綾乃」を、

いわば作り上げてきたのだ。


 人格遺伝子を二人に移植した設備や、スカッシュを改造した機材は、

みな自分の、田吾郎兵衛の部屋に隠されていた。


 だが、それも、今となってはコテージとともに燃え上がり、

全ては火の粉となっている。まるで、失ってしまった、自分の故郷

「テネブラグレンスカヤ」のように。


 二人に、なんと説明しよう?

 理沙は、綾乃はわかってくれるだろうか?

 俺を許してくれるだろうか?


 まあ、いい。

 あせるのは止めよう。

 慌てるのは、やめよう。

 もう、このような状況になってしまった。

 計画を練ったミレンコフ大司教もいない。


 わかるまで説明しよう。

 理沙と綾乃に、ていねいに説明しよう。

 なぜなら、時間は、充分にあるからだ。


-----------------------------


 綾乃は驚いていた。


 自分たちがいた応接室が、爆音とともに爆発・炎上したからではない。

もちろん、猛烈な爆風と灼熱の熱風は、廊下を走る綾乃と理沙を

数十メートルはるか先まで派手に吹き飛ばしてくれたが。


 綾乃が驚いた理由。

 それはスカッシュであった。

 もうもうと立ちこめる煙をよけながら、炎で燃えさかる自分たちが

住んでいたコテージを、綾乃と理沙はなんとか脱出した。

普通ならば、いつもならば、片時も理沙のそばを離れようとしない

スカッシュであったが、今回は違った。


 身体のあちこちをやけどしながらも、悠然と歩を進める黒騎士

レフ・オラフのすぐ横を、自信ありげに、満足そうに、

スカッシュが歩いているからだ。


 これではまるで、黒騎士レフ・オラフがスカッシュのご主人様のようだ。


 姉の理沙はそれを気に留める事もなく、

妹の綾乃の手を握り、足を前へ進めていた。

 綾乃は不満であった。

 スカッシュは、自分になついてくれない。


 そもそも、「犬」のスカッシュのはずなのに、

なんて言う身体をしているのか。


 自分が知っている範囲内では、それは「犬」ではない、

他の生き物のようにも見えた。たしかに、謎の呪文を、

謎の予言詩みたいな物を綾乃は読んだ。


 それが本当なのか、ただの「作文」なのかは、今はどうでも良かった。


 とにかく、綾乃は、スカッシュが自分になつかず、

黒騎士レフ・オラフと歩いているのが不満であった。


 だが、まてよ、と綾乃は思った。

 意外と、黒騎士レフ・オラフは、思ったより、かっこいいかな?と思った。


「人間大砲」に変身する前の「白騎士」も自分好みでかっこいいと

思ったが、この黒騎士レフ・オラフも、意外と自分の好みなのかも

しれない、と思った。


 繊細で流線美に包まれていた「白騎士」は、まさに美形であった。

それに比べ、黒騎士レフ・オラフは、意外とゴツゴツしていて、

無骨で無神経な風体に見えた。


 だが、そうでもないかも知れない。

 彼も、意外とすてきかも知れない。


 綾乃は、そう思いはじめていた。


-----------------------------


<未来>


 理沙は驚かなかった。

 理沙はもう、いちいち驚いてはいなかった。

 確かに、自分の目の前で起きている展開は、

とてもじゃないが尋常ではない。


 自分の家が燃えている。

 自分が住んできた、山奥のコテージが燃えている。

 まるで、自分の記憶が消されているようだ。

 自分の過去の履歴が消えていくようだ。


 綾乃が「解読」した、田吾郎兵衛が大切にしていた

「石板」の文字が事実だとすると、自分と綾乃のこれからの運命や、

過去の出来事に何か重大な関係があるに違いない。


 それが「作り話」や「小説」のたぐいでない事は、

今の自分の目の前で起きている事態を見れば、火を見るより明らかだ。


 火を出して、燃え上がっているのは、理沙たちの住んでいたコテージの方だ。


 理沙は、特別な存在なのかも知れない。

 自分では、それがまだ、本当の事なのか信じる事ができなかった。


 だが、自分を守るために戦ってくれた黒騎士レフ・オラフの存在や、

「愛犬」であったスカッシュが、まるでサイボーグか何かのような姿をして、

元気に生きている事を考えると、おそらく「石板」の「予言」は、

たぶん「真実」に近いのだろう。


 どの道、田吾郎兵衛に事の顛末を聞く事になるのは間違いない。

どんな「真実」が明かされるか、心の準備はできている。


 今さら、いちいち驚いてはいられない。


 たとえそれが、本人が望むにしても、望まないにしても、

避ける事のできない「現実」なのかも知れないからだ。


 たぶん、おそらく、自分は「リサ・F・マコロフ・ヴェーテル」とか言う

「人物」の生まれ変わりなのだろう。


 どんな人だったのだろう。

 どんな宿命だったのだろう?

 どんな生き方をしたのだろう?


 自分とそっくりだったのかな?

 自分とは違う感じなのかな?


 それも確認したいと、理沙は思っていた。


 どちらにしても、はっきりしている事は、

自分は、もう普通の生活に戻る事はできない。


 なぜなら「私は悲劇の主人公」なのだから。


                  第1部<完>

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