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プロローグ。

「死ねぇぇッ!」

「ぶっ殺してやるッ!」

「こんの、死に損ないがぁぁッ!」

「クズ共が、死に晒せッ!」


 罵詈雑言が飛び交う広大な草原が焼け野原と化したこの戦場で魔術師のような漆黒のローブに身を包む女性が風の如く駆け抜ける。顔はフードを被っており見ることは出来ない。

 彼女が颯爽と戦場を駆け抜ける事に気がつく者は少ない、それはひたすら目の前にいる敵を屠ることに夢中になっているからだろう。



 幾度となく鳴り響く剣戟の音。

 敵を駆逐せんと魔法が爆ぜる破壊音。

 剣が身体を斬り裂き、貫く、生々しい音。

 剣戟や魔法をもろに受け、痛みに嘆き叫ぶ絶叫の声音。


 血に塗れた空気は最低最悪。休息の二文字などない。唯々憎き相手を殺す事に必死なのだ。



 戦争はとても理不尽だ。

 己の醜い正しさを証明するために、世界を混沌へと巻き込み、土地を枯れさせ、罪の無い人々の命までも蝕み、喰らう。


 曰く、戦場は醜い争いの結果、最終的に武力に訴えかける場所。

 曰く、戦場は憎しみが新たな憎しみを生み出す負の連鎖が起こる場所。

 曰く、戦場は血に飢えた狂人の墓石であり、無数の屍を作る場所。

 曰く、戦場は新時代の到来を宣言する場所。


 一体誰がそんな馬鹿馬鹿しい戯れ言を吐いただろう。



 戦場を駆ける女性は「人間が嫌いだ」と言った。


 自己の利益に従順で、己の欲望にしか眼に入らない。

 他人を貶し、自己の優越に浸る。他人を服従させ、管理する。

 自分が正しいと思い込み、自分が他人を導こうとする偽善。

 自分の賢さに溺れ、自分に酔いしれる。


 なんと我が儘、勝手で傲慢極まりない事か。



 彼女の心の奥の吐露もここで一旦終了のようだ。

 駆け抜けようとする進路に障害物が紛れ込んできたのだ。


「死ねッ!」

「同胞の報いを受けるが良いッ!」


 怒声と共に両者の得物が彼女の頭目掛けて振り下ろされる。しかし彼女は未来を予測したかのように軽やかなバックステップでその攻撃を避ける。

 出来うる限りの奇襲だった事は、彼女が先程までいた場所が大きく抉られている事から推測できる。それを回避されても2人の騎士は驚くそぶりさえ見せない。何故ならその隙が死に繋がることを理解しているからだ。



 ここで彼女の名前を教えよう。漆黒のローブを羽織る女性の名はシレーナ=ストレンジャー。

 この世界で知らない者はいない、世界最強の魔術師であり、英雄を配下に置く最恐の召喚士。



 現在、彼女の前に立ち塞がるのは敵国の精鋭である2人の騎士を筆頭とした総勢100人を超える大部隊。


 1人は鎧越しにでも分かる筋骨隆々とした体格に片刃の斧槍(ハルバード)を、もう1人は対照的な細々とした体格で、そんな身体に不相応なほどの両刃の大剣を装備していた。

 双方に共通点があるとすれば身につけている鎧だろう、蒼い輝きを放っていた。その他の騎士もお揃いの鎧を纏い、自分の腰に差してある鉄の剣を抜剣している。


「貴様がシレーナ卿だな……」

「我が国王より、貴様の抹殺命令が出ている。大人しく首を刎ねられろ」


 2人の騎士はそれだけ告げると、彼女に向かってそれぞれの得物を振り上げ、攻勢を仕掛ける。長年の付き合いの賜物か、そのコンビネーションは抜群で彼女に反撃の隙さえ与えない。


 片刃の斧槍(ハルバード)で彼女の首――喉仏を目掛けて鋭い突きを放つ。だが身体を僅かに動かすという最少の動きで避ける、がそれを見越したかのように両刃の大剣を避けた先に振り下ろした。あまりの勢いのあまり地面を抉り、粉塵が舞い視界が遮られる。


 それよりも肉を断つ感覚は剣からは伝わってこなかった事に違和感を覚えた細い騎士は素早く彼女を囲うように陣形を組み立てろと命令をする。

 そんな中、戦場に生温い風が吹く。誰もが気を逸らされる。


「『――【炎槍(フレイムランス)】』」

 その瞬間、無詠唱で放たれた約12本の炎槍は2人の鎧を紙の如く悠々と貫き、胸を穿った。


「ガッ!?」

「クッソがぁぁッ!」


「――まったく……気を逸らすとは……それに囲んだ程度で私が止められるとでも?」


 視界が悪い状況で彼女は自身の身体に強化の魔法を掛ける。そして腰に差してある純白の刺突細剣(レイピア)を抜くと音を超えて爆速で駆けていく。囲むように立つ騎士達の鎧の隙間――肘や膝を的確に貫く。


 元の位置に戻ってくると粉塵が舞い視界が遮られたこの場は既に視界が良好になっており、100人の騎士達は痛みに悶え、関節をやられたことで地に伏していた。


 彼女は落胆の意味を込めた深い溜め息を一つ吐くと詠唱を開始した。

「『我が願いを持って、顕現するは英雄の幻影(ファントム)。その名はロアノス(オリジン)。』」


 彼女の全身から瞬時に多量の魔力が放たれたかと思うと彼女の陽の影から幾重にも重ねられた魔法陣が展開される。それが消えた瞬間に一人の長身の人間が出現した。

 背には長い剣が納めてあるシンプルな鞘、身体に纏うのは紅く輝く全身を包む鎧。紅い兜に遮られ、顔は見えないが兜の僅かな隙間から彼の双眸は胸に風穴を開けられた2人の騎士を見据えている。

 筋骨隆々の騎士は胸を穿たれたのにも関わらず、口と胸から血を吐きながら喋り掛ける。


「ぐっ……き、貴様の目的は何だ……?」

「私の目的……それは世界を救うことさ。」


 そう言った直後、紅い鎧の身体がブレたかと思うと彼らは一人残らず血の海へと変わった。


「どうしてこうなっちゃったのかな……」

「これが世の定めなのだろう……だが私はいつでもどんな時でもあなたの味方だ。我が剣はあなたの為にある」

「……ありがと、でもこの状況でその言葉選びは流石の私でもないと思うわ」

「えぇ……僕だって恥ずかしかったんだけど……」

「ま、まぁいいわ……取り敢えず()()()()()()()()()()……」

「了解した!」


 2人は戦場を駆け回った。

 ロアノス(オリジン)と呼ばれた男は巧みに剣を操り、あるときは魔法を器用に使い回して敵を屠った。

 シレーナと呼ばれた女は広範囲を殲滅する大規模な魔法を使い、大勢の敵兵を屠った。


 そしてこの2人は今までの戦場での活躍と此度の戦闘の痕跡によりのちに、

 味方からは《未知なる英雄(アンノウン)》、敵からは《終焉をもたらす者(ワールドエンド)》と呼ばれることになる。




 これは後世まで語り告げられる大戦争の幕開け。


 そしてこれは戦場を駆け抜けるシレーナ、そして召喚獣であるロアノス。


 2人の英雄の物語。



『異世界冒険の旅』をリメイクした新作です。

活動報告の方も更新しますので詳しくはそちらをご覧下さい。

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