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第四話

【図書部員集合!?】





「何から話そうか~? なにか聞きたいこと、ある?」

 僕がそう問うと黒縁眼鏡の少年、かなむは「はあ」と気の抜けた声を出し、呆けた顔で首を傾げた。

「何から聞いていいのか分かんないんだろ? そもそも状況を理解してないんだから」

 すかさずフォローした浦安有君は、見た目は不良っぽいが、その実非常にまじめで、常によく周りを観察し適切に行動できる少年だ。

「こういう時は、お前が順を追って分かりやすく説明するんだよ。教師だろ? 佐藤」

 と、こうやって、平気で心をえぐるようなことを言うのも彼の特徴だ。いや、有君が辛辣なのは僕に対してだけかもしれない。

「そんなこと言われてもさぁ~。正直、君の方が詳しいじゃないか~」

 そう言う僕を、有君は冷ややかに睨みつけてきた。

 ああ、有君、怖い。

「あ、あの」

 と、遠慮がちに、かなむは声を発した。僕や有君の注目が彼に向くと、一瞬怖気ついたようだったが、有君が「ん?」とその先を促すように優しく声をかけたので、かなむは勇気づけられたようだった。

「えっと、あの、俺、そもそもなんで、ここで寝てたんでしょう?」

 あれ?

「忘れてる? 君、鬼に…」

 と僕が言いかけると、かなむは記憶を呼び覚ましたようで、見る間に顔面蒼白になっていく。「お、おおおおお、鬼! そうだ! ああああ、あの、あの鬼は!?」

「なんだ、またパニックを起こしているのか?」

 と、ふてぶてしく高圧的な声がした。

 そら、玉様の登場だ。

 だいたいにして玉様は、タイミングが悪い。意図してないのかわざとなのかは知らないけれど。

 玉様は、あっけにとられるかなむを見下ろし、不敵な笑みを漏らした。

「案ずるな。あの鬼はお前が浄化したんだ。もういない」

「へ?」

 そらミロ!

 少年が困惑してるじゃないか。

「佐藤ちーん! 木葉ちゃんが来ぃ~たよ~!」

 おっ!

 この開封したての炭酸水のような、爽やかで弾けるような声!

 2年の都築木葉だ!

 パタパタパタと軽やかな足取りが近づいてくる!

 ガラリと障子が開けはなたれると、辺り一面に花が咲く。

 うん。もちろん比喩だけど。女子中学生の華やかさは、花にたとえるにふさわしいよね?

「お邪魔します」

 と、丁寧に頭を下げ静かに入室したのは、もう一輪の花。萌香ちゃんだ。

 いけないとは思うよ? あの、生徒を贔屓したりするのって。

 でもねぇ、やっぱり可愛いよね? 女の子って!




*************




 女子生徒二人が現れた途端、佐藤先生は表情を引き締め居住まいをただした。

「態度が極端なんだよお前は」

 俺がそう言うと、悪びれた風もなく「しょうがないよ、有君」と言ってしまうこいつは本当に教師なのだろうか?

 まったく教師らしくない佐藤先生は、ポカンとしているかなむに木葉を紹介する。

「あのね、彼女は木葉ちゃんと言って、卓球部と図書部を掛け持ちしている2年生だよ」

「よろしくね~! 新入り君!」

 木葉は、かなむにバッと駆け寄りためらいもなく手を取った。

 見る間にかなむは赤面する。

 いつか聞きたいと思ってたんだ、異性にそう軽々しい態度をとるのはわざとなのか、それとも無意識なのか。

 前者なら、いつかトラブルが起きるだろうからやめておけと言いたいし、後者なら誤解を招くからやめておけと言いたい。

 まあ、木葉なら「なんのこと~?」ととぼけて笑っておしまいだろうから、言わないんだけど。

「ほ、他にも部員がいたんですか?」

 かなむが遠慮がちにボソボソと尋ねた。

「うん。あともう一人いるんだけど、彼は野球部と掛け持ちする3年だから、ほとんど顔を見せないんだけどね~」

 と、佐藤先生はミスリードするような情報を流したが彼が図書部に顔を出さないのは野球部だからでも3年だからでもなく、佐藤先生と相性が良くないからだ。

「で、どこまで話したんだ凌太朗!」

 と、玉様がふんぞり返る。相変わらずどこまでもふてぶてしい方だ。

「玉様が邪魔するから、これから色々話するとこだったんだよ?」

 と、佐藤先生は情けない顔で、そう言った。





【鬼斬りの発生とは?】






 俺と佐藤先生は二人きりで外を歩く。ガヤが多いと話が進まないから二人きりにしてほしいと佐藤先生が言ったからだ。

「本当に具合は大丈夫かい? かなむ君」

 と佐藤先生が、せっかく心配してくれているのに俺は気の利いた言葉一つ返せないで、ただ頷いた。

「ここは鬼斬り神社と呼ばれる神社なんだ」

 と、佐藤先生は言った。

 そこは、まるで神社を結界するような鬱蒼とした鎮守の森に囲まれた、本当に小さな神社で、いつから建っていたのかとても古いように感じる。

「人目の付かないところにある神社なんて、いかにもいわくありげでしょう?」

 と、佐藤先生は言ったが、特に俺に語り掛けてる風でもなく、どちらかと言うと独り言の様だった。

 薄暗くなりつつある境内を照らさんと石灯籠に灯りが灯っているが、あまりにも便りのない光だ。

 佐藤先生は静かに歩を進めている。小さい神社に思えたが、奥が深いようだった。しかし、どこに行くつもりだろうか?

「あの、ここ、その先生の実家とか、ですか?」

 沈黙に耐えかねて、何とか言葉をひねり出す。佐藤先生は少しうれしそうな顔で俺を振り返り、言った。

「そう思うでしょ? でもね、ここはね僕の師匠でもある、有君のおじいさんが神主をしている神社なんだ。僕は君と同じで普通の家の子だよ」

 初耳だった。有君のおじいさんが神主だったなんて。

「ほら、この祠にご神体が奉納されていたんだ」

 いた?

「今はレプリカが入ってるんだけどね~」

 そう言いながら佐藤先生は苔むした小さな滝の前にある、建て替えられたばかりなのか意外ときれいな木製の祠の扉を開けた。

「これは通称鬼斬りの大太刀と呼ばれる物でね、正式名称を玉布里大太刀たまふりのおおたちと言うんだ」

 そこには、佐藤先生が言うように一振りの大太刀が大事そうに奉納されている。

「玉とは魂のことで、布里は振りだね、己の強い魂でもって大太刀を振り鬼を斬ると言う意味が込められていて。とても強い力を持つけど、使える者が限られているんだよ」

 それが、佐藤先生なんだろうか?

 有君が、あの時、あの鬼と戦っている時、佐藤先生のことを「鬼斬り」と呼んでいたし、きっとそうなんだろう。

「いつの頃だろうかな?」

 と、佐藤先生は語りだす。

「平安や奈良に都ができるより、大津に都ができるより昔、日本各地を様々な部族がそれぞれ納めていたような、古の時代からこの鬼斬りの太刀は存在すると言われていて、それを振るって鬼を、いやその頃は鬼とは呼ばれていなかったけど、とにかく良くない存在の人ならざる者を斬る英雄が、各地にいたんだって」

 聞いたことがない話だ。でも、こういう話は大好きだ。俺が内心ワクワクし始めたことなど知る由もない佐藤先生は、ただ、淡々と話を続ける。

「そしてこの近江一帯を守っていた英雄がこの玉布里大太刀を持っていた英雄でね、残念ながら名前は伝わっていないんだけど、その後もずっと鬼斬りの力を持つものにこの太刀は託され、受け継がれていったんだ」

 ここで、佐藤先生は俺に質問を投げかけた。

「鬼門って知ってる?」

 俺は勢いよく頷いた。

「丑寅の方角のことですよね? 鬼が出入りする方角とされていて昔から忌み嫌われています」

「そう。詳しいんだねぇ~。好きなの? 民俗学とか?」

 佐藤先生は笑っている。よっぽど俺が嬉しそうに語っていたのかもしれない。少し恥ずかしくなって俺は俯いた。

 そんな俺の様子などお構いなしに佐藤先生は話を続ける。

「鬼門は方角のことだからねそれこそあらゆる場所、建築物、どこにでも鬼門があるんだけど、日本の鬼門とも言われている京都を守るために、さらにその京都の鬼門にあたる北東の位置に比叡山が築かれたんだ」

 俺はうんうんと頷いた。佐藤先生はまたクスリと笑って続ける。

「それ以降、鬼の出現も極端に減り、鬼斬りの大太刀の出番はなくなったんだけど、当時はまだ鬼斬りの大太刀に対する信仰は根強くてね」

 佐藤先生は、鬼斬りの大太刀が祀られた祠をポンポンと叩いた。

「それで、室町中期頃。この玉布里大太刀を祀るためここに鬼斬り神社が建てられたんだ」

「はあ」

 凄い! 随分と歴史や謂れのある神社なんだ!

 でも、なのに、なんで

「なんで、これレプリカなんですか?」

「いい質問だよ~! かなむ君!」

 思いがけず、佐藤先生は嬉しそうに俺を褒めた。


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