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左右には串焼きの肉を売る出店、装飾品や食器を売る露店に薬屋に電化製品に似た魔道具を売る店。薄茶色の砂の地面を中央に客寄せや料理の音、僕はなぜかサーフィア王女と二人でその喧騒の中を歩いていた。


「えぇと……。」


そも第三位とは言え、一国の王女がこんな所をノコノコ歩いていて良いものなのか。しかし歩く人々はサーフィアさんの美しさに目を見張るものはあれど取り立てて大騒ぎする者はいない。


「私のことはサーフィアと呼んでくれたらいいわ、顔が広まっていないからこんな風に堂々と歩いていられるし、学校だって一学生で通っているもの。」


「はぁ……ではサーフィアさん、今から僕らは何処へ? 」


商店街を抜けた向こう側、喧騒は少し収まり生活のにおいがする。三角屋根とオレンジ色をした壁の一軒家がずらりと建ち並ぶ中、その一つの前でサーフィアさんが立ち止まる。


「記念すべき私達の初仕事よ、できることからコツコツするしかないでしょ? 」


ニヤリとしながらそう言った彼女は迷いなくその家の扉を二度叩く。少し時間が経った後、低く濁った声で返事が聞こえた。そこから出てきた男の髪は荒れ、無精髭は伸び顔からは吹き出物ができている。奥に見える薄暗い家の中からは不幸が漏れ出しているような、そんな気がした。


「……またあんたか。」


男はそれだけを言うとそのまま扉を閉めようとした。サーフィアさんは顔色一つ変えず扉の隙間に脚を挟みこじ開ける、とても行儀が悪い。


「もう一度お話だけでも、私達なら貴方の力になれます。」


「 ……別に何も求めちゃいないが? ガキのおせっかいに付き合ってられるかよ、帰ってくれ。」



男はイラつきを抑えようともせずに僕達に舌打ちを放ち、バンっと荒々しくサーフィアさんの脚をはらって扉を閉めて鍵を掛けた。


「……ちっ、こっちから出向いてるんだから中にくらい入れなさいよ……はぁ。」


先まで聖母のような優しい笑みを浮かべていたサーフィアさんは汚いゴミを見るかのような表情を浮かべて舌打ちを吐いた。

今度こそ閉じられた扉とその家を改めて見ると多くの家が並ぶ中、この家の庭だけが荒れ、ガラスは埃で汚れ夕方に差し掛かる頃なのに灯りが漏れていない。


来た道を逆に辿り僕はサーフィアさんの少し後ろを歩く。何もかも分からないまま戸惑いながら彼女を追い、彼女も足元の砂を蹴りながら無言で歩いていた。


「あの……さっきの人は? 」


突然連れ来られ追い出された僕は訳もわからず、そして無言の空気に耐えられず口を開いた。サーフィアさんは目線を少し上げ僕が横に来るのを少し待ち、口を開いた。


「あの人はカーラー・アルナドールさん、元は商店街の雑貨屋の主人だったみたいよ。」


「だった、というのは? 」


「今はあの通り荒れて荒んだ無職。……つい先月彼の奥さんと子供が突然消えたそうよ。」


「消えた? 」


「なんでも妻のオロナ・アルナドールと娘のアルマ・アルナドールが舞台を観に行ったきり帰ってこなかったそうよ。」


「それは……さすがに警察、いえ警備兵の仕事じゃないですか 、僕達の手に余りますよ。 」


「その警備兵様が役に立たないからあの人はああなんでしょ……別に私はあの人が不憫だとか正義とかでこんなことしてるわけじゃないわ。ただ私が見たくないだけ、嫌なら付き合わなくてもいいのよ。」




それきりサーフィアさんは黙ってしまった。少し苛立った彼女の表情が分かった。彼女は少し早歩きに学園まで戻り、今日は帰ると言い、僕が何かを言う前に背を向けてしまった。

なんとかしてあげたい気持ちが無いわけではない。ただ単に他人事なのだ。


こつこつと2人で帰り道を歩き、元いた学園の前でサーフィアさんは脚をとめた。



「別に、金持ちのお節介だと思ってもらっても結構。実際にその節がない事もない。でも無理に付き合う必要はないわ、今日はありがとう。」


サーフィアさんは僕の返事も聞かずに振り返えり、元来た道を去って行った。


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