四
純粋に理解できないといった様子で首をかしげる二人。
「いやだって、俺達と制服が違うじゃねーか」
「まぁ、でも女子の制服とも違うでしょ? 」
二人は数人で固まりヒソヒソ話をしては笑っている女の子達の方を見る。
「ではどういうことです? 」
「母さんが僕に似合うからって無理矢理作らせたんだよ」
「まぁ確かに。似合ってはいるけど、お前の母ちゃん何者だよ……」
「えぇ……確かに」
「ま、そんな訳で僕は男だ。僕はあんまり貴族とかそうゆうのは興味が無いけどね」
少し緊張と不安で声が上ずった。人と話すのはあまり得意な方ではない、昔はそうではなかった。少し緊張がほぐれ頃、ハウリングする音の後にマイクで拡張された女性の声が前方から聞こえ、入学式が始まった。
式自体はあっけなく終わった。前世と変わることない、偉そうな人が前に立ち、眠たくなるような長い話だった。
「それでは本日の式を終了します、新入生の皆さんは会場を出て左にある闘技場へお集まり下さい」
それと同時にわぁっと歓声が上がり、両隣のアラトとリョウも待ってましたと言わんばかりに音をたてて立ち上がる。
「何でそんなに楽しみなんだ? 」
「何でって、今から魔力測定なんだぜ? 」
「それは知ってるけど……まぁいいや」
「なんだよ、変なやつ。さっさと行こうぜ」
アラトの後ろに続いて入学式を行なったホールの扉から出て、そのまま赤い絨毯に沿って出た先にあるグランドにあたる闘技場に出る。
全体は砂と、同じ地面色の観客席。楕円形の地面とその周りには野球場のように斜め上に広がる観客席。
そのちょうど中心には人型を模した金属製の鎧が三つ、カカシのように立てられている。
ほんの少しだが、エーテルの流れの変化が肌で感じれた。誰かが三つのうち一つの人形に向かって小さな火の魔法を放った、放たれたハンドボールほどの火の球はよろよろと放物線状に落ちて人形の左半端手間ほどに落ちて地面に焦げ目をつけた。
あぁと、がっかりしたような惜しいようなため息が湧いた。その火球を放った僕等と同じ新入生の子は、今一度杖を握りしめて目を閉じた。数秒後、はぁっ‼︎ という掛け声と共に少年は杖を斜め下から振り上げ、先程と同程度の大きさの火球を杖の先から放ち、今度は緩やかな放物線を描いた後に三体の人形のうち一つに当たった。
今度こそ湧き、歓声がドッと地響きを起こし、同時に少年はその場にしゃがみ込んだ。
「貴族様はやっぱすげぇな、俺達と同じ歳でもうファイアボールなんて使えるのか」
アラトが両腕を頭の後ろで組み、面白くないように呟いた。
「そんなにすごい事なのか? 」
正直、これまであまり家の外に出たことが無かったので魔法の強弱の基準がいまいち分からなかった。
「そりゃあな? ファイアボールが使える事が三級魔導師の条件なんだから。」
「ちなみに、魔導師には三級、二級、一級、大賢者、というランクがあって。魔導師と名乗れるのはこの三級からで、その力を正式に対価と引き換えに使えるようになります。」
リョウが丁寧に付け足してくれた。つまりあの彼は既に自分の力で食っていく事ができるのだ。
拍手の中で、動けない彼は周りの賛美とは対照的に悔しそうな顔をしていた。
ファイアボールを放った彼の後は誰も鳴かず飛ばずの成果だった。人形の温度だけを上げる者、ファイアボールとはいかないが、地面の石飛礫を飛ばし人形に当てる者。僕の前に終わったアラトとリョウはどちらもまだほとんど魔法が使えなかった。
「じゃ、頑張れよ。貴族ならそれなりに魔法は使えるんだろ? 」
「あまり無理なさらずに、頑張ってください」
リョウとアラトが彼らなりの激励をしてくれる。素直に嬉しかった。そして誰かに認めてもらいたい、二番でも三番でも良い、ここが新しいスタートなら、僕はもう一度自分の誇りが欲しい。
「エディルトス・ディアマンちゃん……くん? ね。私は高等部の生徒会長のサーフィアと言います、そしてこの試験の監督はこちらのリーナ講師です。試験内容は彼方の三体の人形に使える最大の魔法を使って攻撃して下さい。手段は問いません、それではよろしくお願いします。」
どこかで見た事がある金髪美人さんだ、と思って思い出した。彼女、サーフィアさんは先程の入学式で生徒代表という肩書きで、僕達に言葉を贈っていた。そして試験監督の先生は入学式前、母さんに話しかけた講師だった。
三体の人形の方へ向きを直す。距離は50メートル程。右手の平を人形に向ける。杖は使わない、個人的にあまり杖の効果が分からないのと、科学の世界で育った僕が杖を振る事に抵抗があったからだ。
全力とまではいかずとも、かなりのエーテルを周囲から吸い取り、肌が軋むように感じる。手のひらの中心に熱を発生させ、エーテルを媒介に原子核を強引に分裂させる。対魔力がないと不可能だが小規模なら核分裂おも魔法は可能にする。
5秒程して出来上がるのは半径50センチ程の赤黒いどろりとした、まるで望遠鏡で見た太陽のようなグツグツの煮え立った赤の球体。質量はないのでそのまま振りかぶり、人形の少し斜め前に思い切りぶつける。
目の前が真っ白になり、数秒後に鼓膜を叩かれるような轟音が耳を突き刺す。ムワっとした熱風が正面から吹き付け、飛び出した土砂が降り掛かる。
煙が晴れた後三体の人形は消え、その地面はぶくぶくとなっていた。