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いつものことですが、嘘をつきました。

ごめんなさい。

父さんの書斎が焼けたあの日から四年が経った。


母親譲りの銀色に薄い青の入った輝くセミロングの髪に水色の瞳、どこからどう見ても女の子にしか見えない。それが今の僕だ。


「……今日もお美しいですね、エディルトス様」

ふぅ。と感嘆を溢したのは僕の専属となったメイドのティナ。良く言えばそうだが実際は見張り役に近い。多忙な両親も家を破壊する子供を放って置くことができなかったので、当時屋敷に仕用人として雇ったばかりのティナを僕のお目付役にした。


「おはよ。そう言われて悪い気分じゃあないんだけどさ、やっぱりかっこいいって言われたいんだけど。ほら、僕だって男だしさ」


あの今にも折れそうな心はいつのまにか、暖かい愛情と恵まれた自分に掻き消されていた。


「……その格好で言われてもあまり説得力がないのですが」



視線を落とし、自分の姿を見る。紺と白のセーラー服に下は短パン。そこから伸びるのは真っ白なふくらはぎと脚。

六歳になった僕は今日から、ここアシュケロス王国の首都ミズーリにある、聖ゲオルギア魔法学園へ入学することとなっている。


「……これってさ、本当に学園の制服なんだよね? 」


本来セーラー服とは水夫の衣装であることは知っているが、僕の脚に合わせたかなような短パンも相まってコスプレのように製作者の趣味が伺えるような出来上がりだ。

「えぇ、そうですね……一応」

「一応? 」

「いえ、エメリア様が学園側へ問い合わせてオーダーメイドの制服を作らせたとか。上機嫌で教えて頂きました」


完全に製作者の趣味だった。

母さんの職業は魔導師というよりも魔導学者である。魔法をより効率よく、誰にでも扱うことができるよう開発された魔導具。その開発の第一人者となったのが僕の母さんであるエメリア・ディアマン。


我が子の制服を弄るくらいは簡単にできる立場にいるらしい。


「……それはそうと」

「ん? 」

「昨日の課題、魔法伝導性についての基礎とマジックサークリングはは行いましたか? 」

「……いや、昨日はちょっと体調が悪かったから」


マジックサークリングとは、空気中のエーテルを吸い込み、体を循環させて吐き出す。これをこつこつと繰り返すことで魔法操作を磨き、さらに魔法耐性まで身につく。もちろん毎日、繰り返し、何度も何度も繰り返さなければならない。


ティナは少し失望したかのようにため息を吐いた。


「エディルトス様は確かに、類い稀ない魔導の才を持っていることでしょう。本日入学式後にある魔導測定でも良い結果が見れることでしょう。しかし、その才をどう扱えるかは御自身の努力によります……」

「わかった! 分かったから! 今日はちゃんとやるよ……ごめんなさい」


努力を続けなければならない。分かってはいてもそれが難しい。自分が悪いのが分かっていながら図星を突かれるのは苦しい。

「怒ってはいませんよ、私達の期待が大きいことは分かっていますので」

ティナは朝食の用意ができたと告げ、部屋を出て行ってしまった。


入学式に持って行く数本の羽ペンとインク、そして30センチ程の訓練用ロッドを制カバンの横に刺し。ティナの後に続いて食堂のテーブルにつく。



楕円状のテーブルの上座には家主である父さんのアウラ・ディアマン、その両隣りには母さんのエメリア・ディアマンと僕。

残りの席には誰も座らず、その周りに仕用人が三名ずつ立っている。


「おはよう。エメリア、エディ」

疲れ知らずの笑顔を僕に向ける父さん。それに笑顔で応じる母さん。

まだ同居している親戚のようなぎこちない関係しか築けない僕も、同じように笑顔を作って父さんと母さんを満足させる。


「エディ、今日は入学式だな。お前は他の子とは少し違うかもしれないが、遠慮はするな。期待している」

「ありがとうございます、父さん。期待に沿えるよう頑張ります」


頷く父さんと無理をするなと言う母さん。少しだけその期待が恐ろしい。


「さぁさぁ、固い話は終わりにして早く朝食にしましょう。せっかく皆が作ってくれたのだから、冷めてしまうと勿体無いですよ」


いつも母さんの言葉は乾いた空気を吹き飛ばしてくれる。多分僕は今、幸せだ。






幼児退行中とはいえ、流石に母さんと手を繋いで学園に行くには恥ずかしい。母さんは非常に悲しそうな顔でこちらを見るがここは譲れない。


聖ゲオルギア魔法学園は陛下の城から広がる城下にある。首都ミズーリにあるこの学園は王国最高位の学園であると同時に、卒業生として優勝な魔導師を多数輩出している。


入学式ということもあり、学門の前には学門の魔導師であろう関係者達が並んで立っている。


「……エメリア・ディアマン様、ですか? 」

その中の1人の女性が母さんを見て見開く。


「あら、そうですよ? 何処かでお会いしましたでしょうか? 」

「い、いえ! 私は魔法物理学科講師のレーナ・エンデスと申します。エメリア様とアウラ様は私達の強い憧れでありまして……お恥ずかしい姿を見せてしまい申し訳ありません」


「私達などただの魔導師と魔法学者にすぎませんよ。それよりも、今日からこの子がお世話になるわ。気にかけててくれると嬉しいわ」


母さんはそう言いながら僕を持ち上げ、頬ずりする。


「エメリア様のご息女様でしょうか? 」

「えぇ! とってもかわいいでしょ? 」


僕が否定する間も無く母さんによって肯定される。


「はいっ! はい! ……エメリアのに似てとても美しいお嬢様です! 」

「いや、だから……」


「ふふっ、ありがとうね。ではそろそろ入学式の会場を教えて頂けるかしら」


女講師の指示通りに学門の奥のタイル貼りにできた円形の噴水を横切り、聖堂を抜けた先に広いホールに入る。


「ここからは一人で行くよ、母さんは上で待ってて」

既にちらほらと生徒が着席している。最下段にある丸いステージから扇状に広がる放物線を描く長机。その上段は保護者席、中段か僕達新入生の座る席。


名残惜しそうな母さんと別れて席を探す。式の開始までそれなりに余裕があり、まだまだ席には余裕がある。

最前列は問題外として、保護者席の前も落ち着かない。しばらく考えた後、新入生席の後方4列目。一番目立ちそうにない席を選ぶ。


我先にと最前席へと走る元気の良い新入生を頬杖をついて、これから同級生となる子供達を眺めて時間を潰す。


「よっ、お前は前に行かなくてもいいのか? 」


赤茶色のツンツンヘアーに同じ色の瞳、150センチ程だろうか、僕よりも一回り背の高いいかにも悪ガキといった風貌の少年が遠慮もせずに僕の隣にドカッと座って腰を下ろす。


「アラト、初対面の方への口のきき方を考えて下さいよ」

「いいだろリョウ。ここでは貴族だとか位は関係ないし、どうせこれから一緒に学ぶ仲だ、仲良くしようぜ」


リョウと呼ばれた少年の身長は僕よりも少し大きくアラトよりかは小さいくらい。少し燻んだ色の茶髪と黒色の瞳、前髪を下ろしているせいかごく普通の日本人のように見える。


「君達は? 」

「あぁすまねぇ、俺はアラトでこっちがリョウ。貴族じゃないんで家名はない、それに前列は貴族のぼんぼんばっかりで肩身が狭くてな」

「初めまして、リョウと言います。僕達二人は庶民出なもので、失礼があるかもしれませんがよろしくお願いします」


僕らの歳にしてはしっかりしている。いや、しっかりし過ぎている気もするが礼儀正しいのは嫌な気分ではない。こちらも同じように応じる。


「初めまして。僕はエディルトス・ディアマンと言います、一応貴族の出ですが名誉貴族なのであまり意識しないで下さい」


そう言った瞬間に、アラトの頭がガクンと落ちる。


「……なんだ、話しかけれそうなかわいい子がいると思ったらやっぱり貴族じゃねぇか……」

「失礼ですよアラト。すいません、やはり僕達が貴族の方々と肩を並べるのは恐れ多くて」



「いや、そんなこと僕は気にしないけどさ。僕は男だよ? 」

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