二
まだほんの少しですが評価して頂いたりブクマありがとうございます。しばらくは一日一話を目指して頑張ります。
〔まず、人が魔法を使うためには三つの要素が必要である。
一つは、魔法なる現象を発現させる触媒となる〝エーテル〟と術者との親和性。これを後天的に発達させることは現状不可能に近い。
二つ目は、術者による魔法の制御能力。これは一つ目とは違い後天的に発達させてゆくしかない。
三つ目は、自らの魔法によって自身が崩壊しないための耐性能力。これが無ければいくらエーテルとの親和性が高けれど、強力な魔法を使うことは不可能である。またこれは先天的に決まるものの訓練にて発達させることは可能である。〕
〔〝エーテル〟とは、この世界の大気に含まれる気体の一つである。エーテルは単独ではその機能を果たすことはないが、何かしらの生物によって刺激されたとき、あらゆる物理現象を大幅に促進する触媒となる。〕
つまり、地球世界で指パッチンをしてもその摩擦熱によって火を起こすことはできないが、この世界では術者がエーテルを吸収し、それを触媒として摩擦熱を増やし炎を出すことができる。そこで必要となるのが魔法耐性、これが無いと炎を出すほどの指パッチンに指が耐えれないという訳だ。したがって自身の魔法耐性以上の魔法を基本的には使ってはいけない。
〔魔法の可能性は無限大であり実現出来ないことはないとまで言われている、それはエーテルがあらゆる〝物理現象〟にまで干渉するからである。しかし魔法を使うのには命令通りに事を起こすための理由を知る必要があり、これはまだまだ分かっていない事が多々ある〕
魔法とは物理現象を過剰に起こしたものであるので、その物理現象を知らなけば使えない。
例えば、道端の石ころに魔法で飛べ。と命令しても石ころが飛ぶ理由を知らなければ飛ばないわけだ、しかし石ころにむかって重力を0になれと命令すれば石ころは宙に浮く。
ふむ、ならば。
魔法指南者を閉じ、できるだけ父の書籍に背を向けてまだ短くちんまりとした右手を差し出す。
この本通りならば指パッチンをライター代わりにすることくらい今の僕にもできかもしれかい。息を吐いて、大きく吸う。
その瞬間、心地良い肌触りだった空気の温かみが消え、まるで砂漠にいるようなパリパリとした空気に変わった。
しかしその理由など分からない、気のせいかもしれない。緊張のせいだと気にせず、そのまま右手の中指と親指を擦りつける。
轟音と業火、一瞬にして目の前が真っ赤に変わり爆音が鼓膜を叩く、遅れて爆風が僕の体を包み、背後にある書籍棚へ叩きつけた。
そのまま棚へ仕舞われていた書籍は押し出され、二歳の僕の体へ雪崩のように降り注いだ。
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「…………エディ! エディ!? お願い! 目を覚まして! エディ! 」
母さんの声が遠くから聞こえる、ぼんやりと光が差し込みようやく意識が覚醒する。
「っ! エディ! よかった! ……本当によかった。ちゃんと見ていなくて本当にごめんなさい、痛かったでしょう? ごめんね? 」
目を開くと同時に母さんが僕に抱き付く。
「ぃたぁぃ! いたぁいいたぁぁい!! 」
「お、おいエメリア……エディが痛がっているぞ……たぶん」
「あっ! ご、ごめんなさいね。つい安心してしまって……でも、本当によかった。死んでしまうんじゃないかって」
「まぁま、ごめんなしぁい」
魔法を使ったことがなく、操作もままならない状態で興味本位で行うべきではなかった。首を傾けると、父の書斎の扉と廊下を挟んだ壁が円状にくり抜かれ、その先にある母さんが大事していたガーデンまで黒く穿っていた。
「エディが無事なだけで私達は十分なのよ、ねぇあなた」
「あっ……いや……そ、そうだな」
父さんの方はそうでもないようだ。きっと大事なものが沢山あったのだろう……。
「いや、いい。それよりもエディ。お前はこの本を読んだのか? 」
父さんが四分の一ほど焼けて、煤で黒くなった魔法指南者 初級編 を摘むように持ち上げた。
「……ぁい」
二歳の子供が字を読めるのは不自然ではあるが、隠したところで何かあるわけでもなく、素直に頷く。
「驚いた……。お前が四歳になったときの為としまっておいたのだが……それに、その魔力は何だ、何をしたんだ? 」
「あなたっ! 」
突然父様に迫られ、驚く間も無く母さんが父様に食いつく。
「な、なんだ」
「いつも言っているでしょう? お・ま・え では有りません! この子の名前はエディルトスです! 何度言ったらわかるのですが? それに今はそれどころではありませんよね? 見てください! ほら! こんな小さくて可愛らしい体に痣が! それもこれもキチンと書斎に鍵を掛けなかったあなたが、悪いです! この子に怒るのは御門違いです! 」
早口でピシャリと父さんに言いつけると、父さんに背を向け僕を抱き、父さんを一瞥しフンッ と鼻を鳴らし書斎を出た。
分かるかもしれないが、母さんは尋常ではない過保護である。自分で言うのはおかしな話だが、僕が母さんのそばに居れば母さんは仕事などそっちのけで一日中僕をあやし続けるだろう。
だが、まぁ。自分の母親といえここまで美しい女性に構われるのはヨダレが出るくらいには嬉しい。因みに僕はまだ二歳なので、ヨダレが出るのは生理現象だ。
「ごめんねぇ、エディちゃん。さぁ、あんな嫌な人は放っておいて……いえ、屋敷の修理をさせておきましょう。その間に私達は傷の手当てをして……そうね、久しぶりにお着替えでもしましょうか」
〝お着替え〟とは、僕が産まれてからこの家に生まれた忌むべき習慣である。
それはつまり、現代風に言えばそう。女装である。
確かに僕は今のところ一人っ子の男子だ。母さんが女の子欲しさにまだ小さな赤子の男の子に可愛らしい格好をさせたくなる気持ちも分からなくはない。しかしだ、これはいくらなんでもその範疇を超えている気がする。
ピンクのフリルのスカートにリボン。変な性癖に目覚めそうで、困る。