第一話 田辺竜太 異世界の孤島に立つ
俺の名前は田辺竜太。
どこにでもいるごく普通の大学生!!
だったのだが。
- おっすおっす。僕、神様っす。 -
は、はぁ。神様デスカ。
- おっと、その目は信じてない目っすね。神パワーで分かるんすよ? -
え、いや、突然こんな真っ白な部屋に連れてこられたら、何かすごいのは分かるんですけど。
- お、中々話の分かる人っす! さすが選ばれただけのことはあるっす! -
選ばれた?俺が?
- そうっす。君は異世界行きの切符を手に入れたっす! -
ま、まじかー。
- まじまじ。 -
電車で寝ていたら、こんな感じで突然の神とのトークが始まりました。
しかしどうやら俺は異世界へいけるらしい、やったぜ!
- 実は今、ちょっとピンチな世界があるっすよ。魔物的なモンスターが人間パクパクーな困った世界が。 -
つまり、俺はそこへ勇者として行けばいいんですね! ビバ!! 異世界!!
- あ、それは違うっす。 -
は?
- いろんな神が分割統治していて、無理な介入が出来ないっす。だから勇者なんて送れないっすよ。 -
ならどうすればいいんですか?
- 向こうで自由に生きて欲しいっす。 -
はぁ。そうですか。なんだか拍子抜けだな。
- こっちは派手に動けないっす。申し訳ないけどちょっとの加護で送り出すことになるっす。 -
え、チートはないの? まじかー。
- そこはまじじゃないっす。現地人からしたら十分にチートっす。 -
まじかー。
- まじまじ。それに向こうはかなりこっちの世界から人を送ってるっす -
え?そうなの?
- そうなんすよ。だから向こうでも日本で見たようなものがチラホラあるっすよ -
へぇ。
- 例えばこんなとか、あんなとか、他にも諸々っと -
ほへー。
***
そんな感じの神トークをまとめてみると、なんでも向こうの世界には魔法があり、魔道具もあり、しかも文明は過疎の村でさえ明治時代くらいにはあるそうで、生活にはそれほど違和感を覚えないとの事。
大都市には、テレビはないけどラジオならあるそうだ。
割と進んでるな。
それと、非常に興味を惹かれたのが人の成長を数字で表したレベルシステム。
レベルアップで基礎能力アップ、スキルポイントでスキル取得。
修行してもスキルは得られるけど、ポイント使えばボタンポチる感覚でサクサク覚えるらしい。
能力向上系のスキルも豊富で、とにかく自由に未来の自分を描いていいそうだ。
そのスキルの取得方法は、教会でお金を払ってやってもらうのが一般的らしい。
俺は神サービスによって、自力でスキルを取れるらしいが、教会でやるほうがスキルの詳細が分かるので、より確実だそうだ。
なお、教会って金取るのかーとボヤいたら、神官達にも生活があるっす、あと孤児院とかもあるっす、とか言われた。
それを聞いて、孤児院にかわいい女の子がいたら持ち帰ってもいいかと考えていたら、養えるならいいっすよと言われた。
まじかー。
そうそう、神様から特別に加護をもらえる事にもなったんだけど、向こうの世界における「この手の才能がある者」程度にしか加護を付けれないのだとか。剣の腕だったら、有名な剣士になれるかもしれない才能、とからしい。
すごく曖昧だし向こうできちんと修行しなきゃその有名な剣士レベルの腕にはなれんそうだ。才能があっても、それを活かせるだけの努力は必要との事。
その代わり希望する加護があればつけてくれるそうだ。
でも強い加護をつけるほどマイナス分で調整しなきゃならんらしい。
例えば5tの握力を手に入れたら、頭髪がバーコードになるとか。
向こうでは髪の色や量は結構大事で、バーコードだとどんだけ強くても、もてないそうだ。
さすがにそれは受け入れられなかった。
ブサメンでバーコードとか、異世界行ってまで背負うべき業じゃないと思うんだわ。
***
と、言う訳で、ステータスを見れる系、鑑定みたいなの、あと丈夫な身体でお願いします。後は現地で鍛えて手に入れますんで。
- もっと魔法バンバン血肉をブッシャー系じゃなくていいっすか? -
だって神様、全然情報くれないじゃないですか。向こうでどれだけ強ければいいかーとか。
- そういうのはダメっす。向こうで生活して、自分で確かめて欲しいっす。 -
でしょ。だったら俺が欲しいのは、丈夫な身体と現地での情報収集力なんですよ。
- 君かなり頭いいっすね。そういう事情なら神も納得っす。 -
でしょでしょ。
- ただ神からは、マイナス加護にならない範囲での加護となると、各種ステータスを見れる『ステータス』しか授けられないっす。すまんっす。 -
まじかー。
- まじまじ。でも現地で他のを取れるだけのたっぷりなポイントを進呈するっす。し・か・も、禿げないヤツっす。 -
おお、そっちの方が助かるかも。向こうに行ってから強くなればいいパターンか。
- しかも『ステータス』はスキル取得もできるっす。でもリセットは教会でするっすよ。 -
おおおおお!? なんか一気にチートっぽくなってきた! でも、さっきも思ったけど、リセットって何なの? どれをリセットしてくれるの?
- スキルポイントを戻す代わりにレベルが減るっす。100年くらい使われてないっす。 -
あ、ああ。一応そう言う意味のリセットなのね。
- でも年齢はリセットされなくて経験だけがリセットっす。だから利用者がいないっす。 -
なるほどー。確かに今までの経験全てを捨てるのは、よほどじゃないと無理だなー。
- そうっすね。そして、色々納得してもらったようなのでそろそろ送るっす。 -
え、ああ。うん。残った疑問は自力で解決しろってことね。
- そうっす。頼むっすよ。出来るなら色々と引っ掻き回してくれると嬉しいっす。 -
おーいえー。
- それと君は魔法無し世界から来てるんで、おまけで禿げない呪い耐性を付けとくっす。 -
呪いなんてあるのか。
- 呪いなんて魔法がマイナスになってるだけっす。魔法耐性を外付けするだけっす。 -
そりゃ助かるなー。禿げないのも嬉しいわ。
- でも普通の魔法には効果ないっす。あくまで呪いだけっす。神パワーっす。 -
そこは普通の魔法耐性でよかったのでは?
- それをすると禿げるっす。またはバーコードっす。 -
うん、今のままでいいよ!
- 理解して貰えたようでなによりっす。では行くっす! -
もわもわーん。
***
着きました、異世界。こんにちは、異世界。
現在地、浜辺。
人里からちょっと離れた場所に送ると言っていたけど、それがここか。
周りを見渡せば、砂浜とその先に森、そしてデデンと鎮座している石碑っぽいのが見える。石碑の根本には水が湧いているのも現在位置から確認できた。
まるで神様が生活拠点にするといいっす、とか言って用意してくれたような気がするので、ひとまずそこへ行ってみた。
すると、石碑には読めない文字が書かれていた。
「普通さ、異世界行くんならさ、現地語の習得とか自動なんじゃないの?」
これ、どうすんだよ。ひょっとして言葉も通じない系か?
だが、ここは幸いにも人里から少し離れているようだし、今のうちに対策を練っておこう。
言葉が通じなくていきなり襲い掛かられたら厄介だからな。
とりあえずステータスを開く。
タナベ=リュータ Lv1 MP10
筋力 10
敏捷 10
魔力 10
生命 10
器用 10
信仰 10
なんというフルフラット。Lv1ならこんなもんなのか?
周りに人がいないから良く分からんなー。
とにかく最初の確認は終了。
「次はスキルの取得だ!」
・・・。
「どうやるんだよ・・・」
スキルツリー的なのがあるかと思いきや、そんなものはなかった。
「まじかー。まじかよー。まじですかよー」
まじ三段活用をするも、神様からのお返事はない。
あいつ、最初は生活魔法と鑑定系のスキルを覚えるといいっすよ、とか言っておきながら肝心なスキル取得方法を教えてくれてねーのな。
あー、もう、なんか。情報不足過ぎてイラッイラしてきた!
「スキルツリー! スキルツリー! スキルツリー見せろ!」
『 スキルツリー 』
思いっきり念じたら出てきたわ。いや、声に出てたかもしれないけど。
そしてその目の前に浮かんだスキルツリーのウィンドウを見てみると、一番右端に『ステータス』の文字が見えているだけで、残りは暗転した状態で何のスキルか見ることが出来ない。
いや、よく見たら右上に『経験値増』とか見えるわー。
これ経験値10のところが経験値15とかになるアレでしょ。妙な所でチート発見。
神様の無言のサービスに感謝である。
よし、これはさっきと同じノリで次も行くか。
「鑑定! 鑑定! 鑑定系スキルどれだよ!」
うん、出てきた。叫ぶのも大事みたいだ。あるいは気合みたいなのが必須らしい。
???-???-???
ともかく思いっきり叫んで念じたら読めない灰色文字が出てきた。しかも三つ。
一つだけなら分かるんだけど、なんでか三つもあるから適当に選ぶのも憚られる。
やっぱり言葉がこっち用だからか、読めない。そもそも俺の脳が目の前のミミズを文字として認識していない気がする。
スキルツリーの中でも、ステータスと経験値増だけは日本語だが、これは神様から直接もらったからなんだろうな。
くそ! 最初は言語からだったか!
ならばスキルツリーよ、今度は言語系のスキルを出してもらおうか!!
「言語! げん、・・・いや、そうだ!! やっぱり生活魔法からだ!」
???
言語のスキルが出るように念じようとしてやめたのは、普通に考えて言語なんて無数にあると思ったから。
○○王国語、××帝国語、精霊言語とか、絶対ある。間違いない。
だから複数ありそうな言語の習得は後回しにしてみたが、これは大当たりだったかもしれない。生活魔法は一つだけだ。
まず確定事項を一つずつ潰すのが大事なのよねー。
「てな訳で、『生活魔法』をマックスで! よろぴく!!」
生活魔法 Lv10/10 NEW
お、おおおお!初魔法!来たよこれ!
こっちでは全員持ってる超一般的な魔法だそうだけど、それでも嬉しすぎる!
「だって魔法だぞ! ま、ほ、う!!」
と言う訳で、このスキルはどんななのさ。
スキルツリーの『生活魔法』枠を見てみる。
じーっと見る。
しかし、何も出てこない。説明がない。詳細が出てこない。使い方も、分からない。
「まじかー。」
これが一体どんな魔法なのかわからねー。
スキルツリーと同じで、念じれば使えるんだろうけど、まず何と念じればいいのかさっぱり分からない。
だって、『生活魔法』って、何さ。どんなもんが『生活魔法』なの?
つまり、取得したはいいものの、魔法が使えネー訳よ。
おいおい神様よ。あんたの言う通りにしたら俺は迷える子羊にジョブチェンジしちまったぜ。
どうすんべよ。
足から力が抜け、思わず尻餅をついた。
そして呆然と目の前にある石碑を見上げると、その変化に気付いた。
「文字、読めるんですけど」
『 - ようこそ アースガルズへ - 』
まじかー。
そりゃ言語なんて生活に密接に関わってるけど、こんなチートありかよ。
でも神様の言う通りにしたら、足元が段々固まってきた感がある。神様に圧倒的感謝である。
と言う訳で、文字が読めるならお次は鑑定系だ!
出てこい、スキルツリーの中の鑑定系!!
調査-鑑定-解説
鑑定系はこの3つなのか。読めなかった部分が読めるようになったけど、結局良く分からない。
調査って何?
『解説』ってスキルの解説か?
良く分からない。
でも、『解説』って、これ取っておかないとダメなやつだよなー。と言うか、『解説』取ってから他を考えよう。
ただ、さっきみたいにいきなり『生活魔法Lv10』みたいなのはやめよう。一つずつ行くべきだと、俺の直感が告げている訳よ。
てなわけで『解説』をLv1だけ取得したいんで、よろしく!
調査 Lv1/10 NEW
鑑定 Lv1/10 NEW
解説 Lv1/10 NEW
「は? ええええ!? なんか全部Lv1になったんだけど、どゆこっちゃ?」
疑問に思ったので、とりあえず『解説』をじっと見る、すると
解説-解説する。鑑定の上位スキル。500p
「追加情報ゲットだぜ! 何かやっとそれらしくなってきた!!」
そして『解説』は『鑑定』の上位スキルだったのか。
しかも今使ったのは『調査』スキルらしい。スキルツリー内の『調査』の部分が若干光って使用中である事を表している。
しかしそれ以上に気になるのがスキルの説明文の右端にある謎の数字。多分消費したスキルポイントらしきもの。
さっきも『生活魔法』を全力で取得したし、今回の『解説』さんも500pとか持って行ってる。
これがどの程度の量なのか分からないが、残数を確認しとかないといけない気がしてきた。
ステータスを見る。しかしどこにもそれらしい数字がない。
そこで、ステータスを『調査』したら、出てきましたスキルポイント。
スキルp 500/2000
うん、いきなり500pも消費したから今後の生活はどうなるんだと思ったけど、元々桁が違った。
神様いわく、生まれたては10pしかないそうだから、俺のポイント量はLv1としては破格、まさにチート。これでデメリットがほぼ無しなんだから異世界転移、最高だわな。
しかしこんななんでもないスキルでこの消費量とはな。
Lv上げまくってポイントを大量消費して強くなるのがこの世界のスタンダードなんだろうか。実はLvの上限が99,999とかだったりして。子供でもLv100は当たり前、とか。
となると気になってくるのが先ほど覚えた魔法、誰もが覚えていると言う『生活魔法』の消費スキルp。『調査』するように念じて、詳細を見てみた。
生活魔法-生活に必要そうな魔法の詰め合わせ。1p-991p-1p-1p-1p-1p-1p-1p-1p-1p/1000p
数字の並びはどうやら左から順に、そのLvの取得に必要なポイント量らしい、が
「は、はああああ!? Lv2は991pって、バグかよ!」
意味分からんよ!
神は何も教えてくれないし!!どうなってんの!?
「ここはいっちょ、『解説』頼む! 上位スキルであるお前が頼りだ!」
そう念じると、俺の意識は落ちたのだった。
お読みいただきありがとうございます。