9話 お食事会に呼ばれてみた。
「わ...私が...この私が...負けた...」
面白い程落ち込んでいるな。あれからもう1~2時間経つのに。
ところで俺はというと、あの後王様から貴族の立食パーティーへの招待を受けた。本命はこっちだそうだ。楽しそうだから行ってみようと思う。パーティーは今日の夕方から、城の大ホールにて行われるとのこと。
今俺達は、そこに行く用の服を買いに行っている。あの騎士(名を"フォルティ"と言った)は服を見てもらう為に付いてきてもらった。なにせこういったある種の儀式のようなものは全員初めてだからな。
資金は既に得ている。俺がテレポートしてクオラから100アークを貰ってきた。それプラス500アークを資金として王様から頂いた。
「しかし流石王都だよな。人が多くて商店街に活気がある。」
凄い人の量だ。日本は東京の原宿、竹下通りくらい混んでいるのではないだろうか。
「活気がありすぎてほぼ動けないッスね。」
「元引きニートにこの人の数はキツいや。頭が痛くなってきた。」
「大丈夫ですか?」
「まあ、なんとか。で、店はどこだろうか。」
「えっ?知ってるんじゃないんッスか?」
まさか。初めて来た土地のことなんて知ってる筈がなかろうに。
「店はそこの丁字路を右に曲がってすぐだ。」
流石はここの騎士様だ。土地勘はあるらしい。
「ありがとな。よし、じゃああれで行くか。」
あれを使うには目的地のおおよその座標を知っている必要がある。
五人全員手を繋ぎ、俺はこう唱えた。
『テレポート』
◆
結構大きな店だ。外観は華やかで、商品に相応しい感じがする。
「スゲー! 本物の貴族の服だ!」
アニメでみたあの服が目の前にある。触れられる。その興奮といったらもう...
「契さん、私達が着るのはあっちの服だそうですよ。」
「そうか。」
少し残念に思えたが、よく考えると俺には似合わない。
"あっち"で俺が目にしたもの。それは、
「...これは完全にスーツだな。」
「ですね。」
何で異世界に来てまでスーツを着なければならないのだろうか。礼服は全世界共通なのだろうか。しかし懐かしく感じるのが少しばかり悔しい。
「...着るか。」
「凄く似合いますね。」
「それは嫌味か?」
「捉え方に任せます。」
スーツ姿の俺は果てしなくありきたりだ。多分、日本のどこにいても然程違和感ないだろう。
「メリスも似合っとるの。」
確かに。スラッとした人はスーツが似合う。勿論この人も。
「フォルティさんもお綺麗ですね。」
「そ、そうか?」
と言って頬を赤らめる。
◆
フォルティとは別れ俺達四人は今、城の大ホールに居る。もうすぐパーティーが始まる頃だ。
「つかさ、ここのスーツ高くね? 一着100~150アークとか。」
「もともとこれは、貴族の護衛の騎士の正装ですから。素材も良いものを使っている筈です。高くて当然でしょう。」
「っと、人が集まり始めたの。」
「そろそろ始まる頃ですしね。」
急に会場の隅のほうが明るくなる。パーティーが始まったらしい。偉そうな人が何か挨拶的なことを話しているようだが、それに興味はない。空腹の俺の目には食べ物しか映らない。
流石は王宮の料理だ。非常に美味しい。が、胃にくる。
「契さんは食べ方が綺麗ですね。」
「まあな。一時期こういうテーブルマナーに興味があったから。」
「そうでしたか。」
日本だと、知ってはいても披露する機会はなかなかないからちょうどいい。
「こういう平和な感じ、いいですね。」
テラの何気ないその言葉をきっかけのように、会場の全ての明かりが消える。
何かの演出だろうか。周りをみてみると、そんな感じではなさそうだ。
突然ドアがバンと開き、武装した集団が現れる。
「面白くなってきたな。ちょっくら遊んでこよう。」
俺はその集団に歩み寄る。
「テラのあの一言はフラグだったのかな?」
「さて、どうでしょうか。」
「ま、折角遊びに来てくれたし、ちょっくら遊んでやるか。」
次回 楽しそうな人達と遊んでみた。
契、君に"休暇"の二文字はない。