4話 人(?)を救ってみた。
「じゃあ、早速作っていくか。」
今日は冒険者業はお休みして調味料を作る。
別に作らなくてもレシピを渡せば済む話なのだが、うまくいくと決まったわけではないので、まずは自分達で作ってみることにした。
「しかしここって本当に色々安いよな。」
「そうですね。おかげで直ぐに色々揃えることができます。」
「でもまあ、いつまでもそうって訳にもいかないらしいけどね。」
「お? 契さんも気づいたんですね。」
「ああ。つまりこの国はインフレさせたい訳だろ?」
「お見事です。貴族と貧民との格差は社会問題になっていましたからね。やっと国が対策を講じたのです。」
「なるほどね。」
なんて話していたら、
「よし。マヨ完成。丁度昼頃だし、これ持って昼飯食いに行くか。」
「そうしましょう。お腹空いてきました。」
◆
なにやら酒場が騒がしい。
騒がしいのはいつもの事だが、今日のはなんとなく雰囲気が違う。ピリピリとした感じだろうか。
見ると入口付近に人だかりができている。
俺はそこに駆け寄り、近くの同業者に話を訊いた。
どうやらワーエルフが倒れているらしい。
ワーエルフと言えば、この国の差別対象の一種だ。
ワービーストの高い身体能力と、エルフの高い知力を持っているため危険視されている。だからピリピリとした雰囲気をしているのだろう。
俺は人をかき分け、そいつの姿を見た。
同い年くらいで、背丈は160cmとちょっと。狐のような尻尾が生えていて、尖った耳をしている。スラッとした美人だが、全身痣だらけで服はズタボロだ。
痣は最前列の冒険者がつけたものだろう。先程から蹴ったり撲ったりを繰り返してる。
それを見ていた俺は、気が付けば仲裁にはいっていた。
「おい。止めないか。」
その場の全員の視線が俺に向く。
それに少しビビりながらも続ける。
「幾ら相手が差別対象だからといって、そこまでしていい訳ではなかろう。」
「何だお前? こいつの仲間か?」
いかにもチンピラな冒険者が返す。
「そいつは俺の友達だ。俺に会いに来たんだ。」
さっきポイントを使って最大までレベルを上げたスキル『催眠術』を使いながら、今作ったでたらめを言ってみる。
俺に対する殺気がさっきよりも強くなった気がする。『心理眼』を使って見てみると、その違いは明らかだ。つまり催眠成功。
そのチンピラは俺を下に見るようにこう言った。
「お前、俺と勝負しろ。俺が勝ったらお前とこいつをボコボコにする。万が一、お前が勝ったらお前とこいつを見逃す。それでどうだ。」
俺に喧嘩を売るとはいい度胸だ。
「売られた喧嘩は買う主義だ。受けて立つ。」
俺とチンピラはこの建物の裏で対決することになった。
◆
ギルド本部の裏には、テニスコート3面分程の訓練場がある。そこがフィールドらしい。
対決のルールは簡単だ。どちらかが倒れたら負け。
荒くれた冒険者らしくて少し感動する。
「俺は対戦相手とは試合前に握手をする主義だ。」
とかテキトーな事言ってチンピラのステータスを貰う。これで完璧。
全ステータスがFullを超えた。その上、相手のスキルを自分のものにした。
明らかに俺の方が優位にある。
勝負開始
まず俺は、さっきあいつからコピーした『投擲』と『狙撃』を使って、そこら辺に落ちていた石ころをあいつに向けて投げた。
石は目標の眉間に命中。そのまま倒れて動かなくなった。
「...は?」
俺を含めたその場の全員が驚き、声を漏らす。
...今起きたことを整理しよう。
俺はまず石を投げた。すると石はあいつの眉間にビンゴ。あいつは気を失ってバタリと倒れた。
俺の勝ち?
俺の攻撃力はだいたい1200。あいつの防御力は450くらいで体力は560前後。ダメージは750くらい。
相手は死ぬ。
「やっべ、とりあえず『リスレジオン』!『レコペロ』!」
生き返りと回復呪文を掛けておいた。多分これで大丈夫だ。数十秒もすれば目を覚ますだろう。
...野次馬の目が痛い。化け物を見るように怯えた目をしている。
さて、どうしたものか。
◆
色々あって、今俺達3人は少し遅めの昼食をとっている。
あの後、チンピラが目を覚まして2人は和解。野次馬は、少しずつ立ち去っていった。
ワーエルフに回復呪文を掛け、事情を話した。
ワーエルフの娘は"メリス"と名乗り、ここに来た理由を話してくれた。
「オイラ、凄く腹減ってたッス。そんで、いい匂いがしたからここに来たら、いきなり撲ったり蹴ったりしてきて...そこからはあんまり。」
要は食いもん探してここに来たら、ボコボコにされた、と。
はは、散々だな。
「多分俺と一緒にいるときは何もされないだろうから安心しろ。俺は契だ。よろしくな。」
と言って右手を差し出す。
「よろしくッス。契さん。」
メリスは俺の手を握る。
「あの、契さんのスコアを見せてもらっていいッスか?」
「別にいいよ。」
俺のスコアが大変なことになっていた。
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名前 : 陽谷 契
性別 : 男
レベル : 13
クラス : 無所属
年齢 : 21
種族 : 人間
ステータス
体力 : 1724 Full
筋力 : 1584 Full
攻撃力 : 1816 Full
防御力 : 1577 Full
魔力 : 1693 Full
魔力容量: 1948 Full
知力 : 1955 Full
総合評価: Full
スキル
ポイント 362
・--- 飛翔 習得済
・--- 白魔法 習得済
・--- 黒魔法 習得済
・--- 催眠術 習得済
・--- 状態異常耐性 習得済
・--- 千里眼 習得済
・--- 暗視 習得済
・--- 心理眼 習得済
・--- 再現 習得済
・--- 剣技 習得済
・--- 狙撃 習得済
・--- 投擲 習得済
・--- 拳技 習得済
・--- 回避術向上 習得済
・--- 移動速度上昇 習得済
・--- 跳躍力上昇 習得済
討伐した魔物
・コアットロ 4
・カプラエノーム 3
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「げ、限界突破!?」
メリスが目を見開いてそう言った。
「限界突破ってどういうことだ?」
「唯の予言だとしか思ってなかったんスけど、本当に居たんッスね。」
「その予言ってあれか?」
さっき握手した時に入手した記憶だ。
───人類が危機に瀕したとき、限界突破した者が救世主として現れることだろう───
「それッス。」
「そういえ今魔族と戦争をしてて、此方がかなり押されてるんだっけか。」
「この街は戦いの中心部から一番遠い街ですから。まだ被害が出ていないだけです。」
「この娘の言う通りッス。」
「じゃあ、その救世主ってのが俺?」
「たぶんそうッス。」
「俺スゲー。」
そして俺は大事な用を思い出す。
「そういえばマヨネーズ。持ってるよな?」
「はい。」
大事な用とはつまりマヨネーズの試食だ。その為に蛙の唐揚げを頼んでおいたんだ。
蛙の唐揚げに今朝作ったマヨネーズを乗せてかぶりつく。
大変美味である。
「よし。マヨネーズは大成功だ。」
「契さん、契さん。そのクリーム色のものはなんスか?」
「これはマヨネーズって言って、俺の出身地の魔法の調味料さ。どんなものでも美味しくしてしまう魔法の。」
「凄いッスね。オイラもそれ使っていいッスか?」
「ああ。勿論。此方の人がどう反応するのか気になるしな。」
メリスも俺と同じようにして唐揚げにかぶりつく。
「うまいッス!! なんスかこれ!?」
メリスは目を輝かせた。
...というか発光してるんだけど...
「ちょ、おいお前、眼が発光してんぞ! どうなってんだ?!」
「ああ、これッスか? これは、エルフは気持ちが昂ると眼が輝くんスよ。その血を半分引いてるから、オイラの眼も輝いたんスよ。」
変な奴も居たものだ。
「お二人さんは、これからどうするんスか?」
「これからこのマヨネーズの作り方を酒場の店主にでも伝えようかと。」
「勿論、メリスさんもですけどね。」
「付いて行っていいんスか?」
その質問に、俺は、はあ、と息を吐き、
「お前俺に付いて来ないとまたさっきと同じめに合うぞ?」
と言った。
メリスは、なるほどそれもそうだ、と手を打った。
「マヨネーズ出来ましたね。」
「キュー〇〇には劣るけどな。」
「だとしてもこれは食文化の進歩と言っても過言ではないですよ。」
「そこまでか?」
次回 マヨを売ってみた。
エルフには妖精がはっきりと認識できる、という設定ですので、メリスはテラと会話ができます。