3話 強敵と遊んでみた。
俺が転生してから初めての朝を迎えた。
部屋の南、西、北にそれぞれ1つずつ窓があり、南側の窓から日の出を拝むことができた。
異世界でに来て初めて見た日の出に感動していると、テラが起きて此方に寄って来て話しかけて来た。
「契さん契さん、何をしてるのですか?」
「異世界で初めて見る日の出を拝んでいるのさ。」
「私にとっては見慣れた光景でしかないのですが、契さんにとっては初めて見るものだから特別なんですね。」
そう、特別なもの。もとの世界の初日の出くらい特別なもの。
テラと会話していると、俺はテラに訊きたいことがあるのを思い出す。
「ところでテラ、テラっていう存在は周りからどう認識されているんだ?」
「私達妖精は、この世界の人達に認識されにくいんです。どのくらい認識されにくいかというと、例えば契さんはある日道ですれ違った人の顔を覚えていますか?」
「いいや。全く。」
「では昨日酒場に居た人の人数を正確に覚えていますか?」
「いいや。賑わっていたってことぐらいしか覚えてない。だってわざわざ数えるような事でもないだろ?」
「そうなんです。私達妖精はそういえばそんな人居たかな、くらいにしか認識されないのです。私達は"村人D"や"雑魚モンスターの取り巻きA"のようなモブと同じ扱いです。わざわざ認識する必要があるほど強い存在感はないのです。だから昨日、スコアが契さんの分だけしか貰えなかったり、コーダ兄妹が私に話しかけて来なかったり、酒場で水が1つしか来なかったり、宿代が1人分で済んだりしたんです。」
「そうなんだ。じゃあ、俺はこの世界の人じゃないから、テラがはっきり認識できる訳だ。」
「そうとも限りません。今は深く関わり合っていますので、はっきり認識できていますが、1度関係が切れてしまうと契さんも私を忘れ兼ねません。妖精は深く記憶に残れないんです。」
「なら俺がテラを忘れてしまわないように、ずっと傍に居ろよ。」
「えっ?」
「えっ?って、そのままの意味だけど?」
自分で言っておいて"臭すぎだろ"とかおもう。
思い出すと少し恥ずかしい。
でも、テラの顔が少し明るくなったように見える。これはこれで良かったのだろう。
「そ、そうだ。調味料の材料を買ってこないと。」
「そ、そうでしたね。昼から4人でクエストを受ける約束をしていますし、急ぎましょう。」
俺達は急いで支度をし、宿を出て市場に向かった。
◆
「なんかこの世界って物が安いよな。地球出身の俺に言わせると、激安と激高は信用できないんだが。」
「この国はニートに優しい国なんです。毎月最低限の金は貰えるので少し働けば直ぐに財布が潤うんです。だからそこまで値段を上げる必要性がないんです。」
「そりゃいいな!日本も採用しててくれればっ。畜生!」
「しかし、いい面もあれば、悪い面もあります。」
「どういうことだ?」
「これをすると、最終的に経済が回らなくなります。」
「?俺にはさっぱり分からん。」
「何か熱中する物がなければ、金が沢山貯まります。すると、働く必要がなくなります。金はあるわけですから。で、店をたたみます。そんなことが街中で起こります。」
「と、どうなるんだ?」
「売り手が居なくなります。金はあっても買うものがなければとうとう金が要らなくなります。つまり、皆が自給自足を始めだし、物々交換に逆戻りです。」
「なるほど。日本政府は採用しないわけだ。でもどうしてここ"ウマノ"とか言ったか?は採用したんだ?」
「さて、何故でしょう。」
テラは俺を小馬鹿にしたようにニヤニヤしている。
そんな会話をしながら市を廻っていたら、あっという間に材料が揃った。
「もう昼だし、材料を宿に置いてきて酒場に向かおう。」
「そうですね。ヴァルクさん達ももうそこに居る頃でしょう。」
◆
俺達は装備を整えた後、酒場でコーダ兄妹と合流し、クエストを受けていた。
"農作物を荒らしに来る山羊型の魔物の撃退・討伐 報酬80アーク"
報酬が異常に高いのに誰一人として受けようとしないこのクエストは、勘だが何かあるのだろう。が、とりあえず直ぐに金を補給できるので受けることにした。
◆
依頼主に接触し、現場に案内してもらった。
依頼主は小太りで顎に白髭を生やした、いかにも農家のおっちゃんって感じだった。名をタディと言った。
現場に生えている植物を見て一言。
「...変わった野菜を栽培しているんだね...」
「ここは地球ではないのです。地球の常識は捨てましょう。」
ポツリと呟いた俺の声にテラがそう返してきた。
茄子の茎にカブトムシが生えているような..その野菜は...なんと言うか...すごく...シュールだ...
「それで、山羊型の魔物ってのは何処に居るんですか?」
「ああ、それなら今来たあいつがそうだよ。」
といって、タディは林の方を指差す。
するとそこには、体長3mはある大きな山羊が居た。
...でけえよ!
此方に気付いたその巨大生物は、遠くからでも分かる程鼻息を荒くして突進してきた。
「ちょ、おいこええよ! っと、とりあえず『フィアーマ』!」
咄嗟に唱えた炎の攻撃魔法が山羊の顔面を直撃する。
頭が燃えている山羊は、苦しそうな声を上げながら暴れまわり、そのうち倒れて動かなくなった。
討伐完了! クエストクリア!
...とか思っていたが、うまく事が進まないのはどこの世界でも同じらしく、林から新たに6体の山羊が出てきた。
とりあえずフォーメーションを考えよう。
「俺とヴァルクは前衛に出て壁役を、ヴァルアは後ろから黒魔法で援護を、テラは白魔法で回復、それとフィールドモニターを頼む!」
俺は朝市で買った短剣を構え、山羊に飛び掛かる。ヴァルクもその後に続く。
◆
クエストを達成した俺達は、ギルド本部に戻っていた。
結局、全ての討伐が終わるまで1時間近く掛かった。
どうやらあの山羊は、"カプラエノーム"という、普通はレベル40になってから戦いを挑むようななかなかの強敵だったらしい。
その為か、パーティー全員のレベルが10近く上がっていた。
報酬の80アークを等分して1人20アーク。とても美味しい。
大きなクエストを終えた俺達は、仲良く4人でご飯を食べることにした。
2日目にもなると妖精を認識できるようになるみたいで、テラはヴァルク達に何回か話し掛けられていた。
仲間と一緒に食べる飯はうまい。うまいが早く醤油やマヨネーズ等の、地球の調味料が欲しい。
明日は休みにして、明後日の昼頃にまた合うことにした。
「あのカプラエノームって奴、強かったな。」
「契さんの攻撃で一撃でしたけどね。」
「戦闘初心者にはキツかったな。力はあっても経験がないから。」
次回 人(?)を救ってみた。