2-14話 懐かしの
いい遅れました。国王の名前はイクスクァルです。
連れてこられたその場所に、一切見覚えはなかった。…ただ一人を除いて。
「ここ、どこですか?」
「どこかの貴族の屋敷ッスかね?」
「大きなとこやね。」
そう。とても大きなところだ。しかし契は知っている。
ここの主人、ザルゴ・ラークスは所謂成金貴族だ。金にしか興味がない。
ここら一帯の領主であるが、政治は杜撰で悪名高い。
趣味は女遊びという、正に絵に描いたような屑だ。
また、それなりに発言力がある反人間派の領主で、ディオニルの意見に可成食って掛かていたようだ。
(これらの情報は全てディオニルのによるものである。)
「場所がわかったところで、一回戻るか。」
別に連れてこいとも言われていなかった契達は、一度城に戻ることにした。
「『テレポート』」
◆
「ザルゴじゃと?」
「ああ、そうだ。」
城に戻って来た契達は、調査の結果をディオニルとイクスクァルに伝えた。
ディオニルはザルゴという名前を聞いた瞬間不思議そうな顔をする。
それもそのはずだ。ザルゴは本当に金にしか興味がない。こんなことをするとは考えられないのだ。
となると、誰かが裏で手引きしている可能性が高い。
「どうするか。」
「そうじゃのぅ。一先ず監視しておくかの。」
ディオニル達がそう結論付けたとき、
「! ちょっといいか?」
何かに反応したように契が言った。
「? なんじゃ?」
「誰かが俺らを見張っているっぽい。南南東、外壁から三十メートル。…木の上…かな。」
「なんと、そこまでわかるのか。至急確認に向かえ。」
彼方から此方が見えるのなら、その逆もできるはずだと思った契は偵察者を見返す。すると、
「(お、これはこれは。久しいな。)というわけで、ちょっと行ってくるわ。『テレポート』」
◆
「久しぶりだな。ヴァルク。」
偵察者のそばにテレポートした契は、その偵察者の名前を呼ぶ。
「覚えていてくださったのですね。契さん。」
「単刀直入に訊くぞ。何の用だ。」
「僕が大真面目に答えるとお思いで?」
デスヨネーと契は苦笑い。
「まあいい。」
「姿を完全に見られてしまった以上、口封じをしなければならないのですが、相手が相手ですからねえ。」
困ったように告げたヴァルクに契は何か悪いなーと思いつつ、こんな提案をしてみた。
「わかった。俺はお前の正体はバラさないでおいてやる。その代わり、条件がある。」
「ほう?」
「次の二つから選べ。一つ、何をしに来たのか教える。二つ、俺と戦ぶ。どっちがいい?」
ヴァルクは「後者はきついですねえ」と呟き、冷や汗と苦笑いを零し、「ですが」と続ける。
「敢えて後者にしましょうかね。一度あなたと戦って見たかったのですよ。」
「オーケー。ルールは簡単。結果的に殺さなければいい。相手を降参させた方の勝ち。」
「理解しました。さあ始めましょう。」
だが契は城内が少し騒がしくなって来ていることに気付き
「…の前に場所を変えよう。」
◆
「さあ始めようぜ。」
先に動いたのはヴァルクだった。
先ずヴァルクは剣を構え地面を蹴って契に突撃。
する直前に左足で思い切り地面を蹴って右へ移動。
そこから横に契を斬ろうとする。
契は跳躍してそれを回避。
さらに上からの斬撃を与えようとするがヴァルクは後方に大きくジャンプして躱し体勢を立て直す。
が足場が泥濘っていてうまくいかない。
どうやら契が無詠唱で『大地魔法』を使っていたようだ。
「『詠唱省略』ですか。やりますね。」
「こりゃどうも。」
『詠唱省略』は文字通り呪文の詠唱をしなくて済むスキルだ。敵の不意を突けるので便利だ。勿論普通に詠唱することもできる。
数秒の間を置いてヴァルクは契に斬りかかる。が『テレポート』で回避された上に背後を取られてしまう。
契は剣の柄でヴァルクを突き吹っ飛ばす。
盛大に砂埃が舞う中、怯まずにヴァルクは契に突撃する。
が契の姿が無い。
どこへ行ったのか戸惑っていると、
──上かッ!──
ヴァルクの真上には大きな翼を広げた契が急降下していた。
ヴァルクにはそれを捉えるのが限界だった。
『純白魔法』と『念力』で目の前に強力な円錐形の結界を張り、さらに『黒魔法』の風属性の魔法で推進力を確保していたので落下速度は音速を優に超えていた。
そして契は剣を突きだし、そのまま、
剣を殴った。
剣はあり得ない勢いでヴァルクに向かっている。
契は結界を四角くし、風魔法を前方に持ってきて減速する。
同時にヴァルクの真上に結界を形成する。
剣はヴァルクに当たるすれすれで結界によって粉々に砕け散る。
「降参、です。やはり勝てませんね。」
ヴァルクはそう言い残し帰って行った。
「さて、俺も帰るか。」
契はテレポートして城に帰った。