2-11話 異変
今回ディオニルは王城にてお仕事中なので登場しません。
何が変か。
先ず静か過ぎる。
そして街の時間が止まっているように感じられる。
最後に人気が無さすぎる。
まさか...!
◆ 【数日前】
「ここか。」
グレイスへとやって来たのは、人に化けている光の祠にいた氷龍。名をルクスと言った。
彼は一体何をしに来たのだろうか。
「さて、我が兄は何処か。」
「やっと見つけたぞ、我が兄よ。」
「久しいな、我が弟よ。」
ルクスが兄と呼ぶのは、ノーマル氷龍。名をブリズドと言った。
ブリズドはルクスを見つけると、人の姿に化けていく。この姿の方が話すのが楽なのだ。
「早速だが、要件は如何なるものか。弟。」
ルクスがここへ来た理由。それは、
「訊きたいことがある。答えよ。」
「構わぬ。」
色が違うだけで同じ見た目の、同じ声で同じ口調の二頭が向かい合って話し合っている。じわる。
目を瞑ると、どちらが話しているのかさっぱりだ。
「して、何を問う。」
「兄の扱い手の名を何と云う。」
氷龍は戦闘用の兵器。それはつまり扱う者──飼い主──がいるわけで。
「弟、其を知って如何とする。」
「交渉だ。」
「というと。」
「兄が此処に居ることに因り街に悪影響が出ている。」
「其がどうした。」
とブリズドはそうなって当然だと答える。
「もう終わった。殺し合いは。長い間続いた争いは、両者の勝ちという形で幕を閉じた。故に、もう必要ないのだ。」
ルクスの言葉にブリズドは驚く。
「なんと。我が存在意義は失われたか。」
「...そうだ。」
ブリズドは膝を折る。
「.....我が飼い主はザルゴ=ラークスという者だ。しかし待機命令がまだ出ておる。」
「謎だな。」
「我は兵器であるが人に迷惑を掛けるのは不本意だ。どうにかしたい。命令には逆らえぬ故、我が動くことはできぬ。」
「ならば避難させてはどうか。」
「名案だ。」
◆
「争ったような跡はないので避難したと考えるのが妥当でしょうか。」
「でも、そらおかしな話やな。だってここん人らみんなよぉ肝が据わってん。それに───」
「氷龍が出てきた時点で避難してないのに、今さら避難を始めるのは変だよね。」
セリフを横取りした契にレネーからの抗議の声が聞こえるが、契はそれを宥めつつさらに続ける。
「不思議だなーと思ってたらさっき俺の聴覚に反応があってさ。氷龍が二頭いるんだよ。」
「「え?」」
契の口から飛び出た予想外な言葉に、一同は耳を疑う。
「ついでにいえば、それらがここに近づいて来てるよ。あと一分でここに着くかな。」
おっとりとした口調とは裏腹にさらっと余命宣告してみせた契。
なるほど心臓が止まった感覚ってこんな感じなんだ。
一同はオーケー落ち着こうと自己暗示を掛け、
「どどどどど、どうするんッスか?!」
「あああの氷龍がにに二頭も近づいて来てるですって?!」
「そそそれってよぉないやないの?!」
「この程度、大したことないよ。」
あたふたして一様に何をするべきかと問う一同を契は「この程度」と一蹴する。
「なんだ。汝等か。」
「よお。」
姿を現したのは、大小二頭の氷龍だった。
そう。ルクスとブリズドだ。
「なあ、街の奴らはどこ行ったんだ?」
と、未だ状況の処理が追いつかない一同を置いて話を進める。
「近くの村に避難している。」
こいつらの近くはあてにならないが、まあ避難しているなら大丈夫だろう。