2-5話 光の祠
明け方、宿を出た契達は光の祠へと向かうのだが、
おや?一人足りないような...
「ディオニルはどこへ?」
確か宿を出たときまではいたはずだ。
「お姉ちゃんは体調が優れないということで魔城に帰りました。伝言もありますよ。」
【風邪でも引いたのやもしれぬ。四人で攻略しててくれんか?】
ディオニルそっくりな声で読み上げたテラに少し驚くが、同時にその伝言に違和を覚える。
「ちょっと心配だな。他人の考えは尊重する主義だが...仕方ない。『召喚:ディウィシオーネ』」
契がそれを唱えると同時、辺りに黒い影が現れる。
その影は一ヶ所に集まり、やがて契そっくりに姿を変える。
不思議な感覚だ。
二つの位置からの情報が同時に流れる。目や耳、鼻が倍に増えた気分だ。
ただこれはテレポート酔いよりも酷いかもしれない。
テレポートすると、瞬間的に位置情報が書き換えられる上に、気温や湿度、気圧などの気象情報も変化するのでテレポート元と先の変化が大きいほど酷く酔う。
だが、この召喚方法はそれが常にある。これはかなり辛い。
契は召喚した方をディオニルのところへ向かわせ、光の祠の攻略を始めた。
◆
祠に入ると同時、強力な光が四人を包む。
数秒後、光が消える。
「ん...?あ、あれ?」
「ど、どうなってるんです、か?」
そこにいたのは見た目はいつも通りの四人。だが、
「お、俺って、こんなに背低かったっけ...?」
「なんとなく体が軽くなりました。」
「どうしてオイラが目の前に...?」
「う、うちの胸、膨らんどったかの...?」
どうやら中身が入れ替わってしまったらしい。
そして、
「あの...お、オイラの胸触るの、やめてもらっていいッスか...?」
「あ、すまん。男にはないもんやから気になって。」
感覚は繋がっているようだ。
「誰が誰だが分かりづらいから、とりあえず自己紹介しようか。」
◇
同時、元魔城内。
「悪いのぉ。手間掛けさせて。」
「いや、別にいいさ。ちょっと気になったこともあるし。」
もう一人の契はディオニルの看病をしていた。
看病とはいっても、ちょっとした世話や話し相手程度のものだが。
「気になったこととはなんじゃ?」
「些細なことさ。予期せぬ来客がありそうだなーって。」
「まあ、好きにするとよい。」
「ところで『純白魔法』に体の不調を治す呪文があったと思うんじゃが。使ってくれんか? 今日はうまく魔法が発動せんのじゃ。」
「残念だがそれは俺も同じだ。テレポート以外の魔法がうまくいかないし、召喚もかなり維持が大変になってる。」
今日は新月。魔法には月が大いに関係していて、月に太陽光が当たっているほど威力が増す。満月の頃はどんな魔法も強くなる。また、新月の頃は殆どの魔法が使えなくなる。
「ん、誰か来た。」
「何者じゃ?」
契は耳を澄ませ、誰かの情報を読み取る。
「...約三十人。人間。敵。」
「...予期せぬ来客、か?」
契は無言で頷き肯定する。
◇
「体がうまく制御できない!」
光の祠攻略中の四人は苦戦を強いられていた。
「攻撃があと一歩届かないし肩が凝るし微妙に動きづらいし。そしてなにより────
「それ以上私の体にケチつけると流石の私も怒りますよ。」
契の愚痴を遮り、私だって────と続ける。
「背が高すぎる所為で色々なところに体ぶつけますしうまく歩けませんし。あと─────
「わかったよ。痛み分けってことで終わり。いいな?」
「ここのmob強くない?」
光の祠、敵が強いとは知ってはいたがやはり強い。
焰の祠の中ボス《ミリヤーディ》レベルのmobが次から次へ湧いてくる。
「体が違うこともあっていつもの数倍強く感じるッスね。」
テラと入れ替わった契は後衛で戦っている訳だが、今日は新月。
魔法を編むのが難しいので、有り余った魔力を使ってなんとかしている。
いつもの五倍もの魔力を込めて魔法の矢を放つ。だがその威力は通常の八割程しか出ない。
「あー面倒くせぇ!」
遂に面倒になって前衛に出ることにした。
「け、契さん、私の声で暴言はやめて欲しいのですが...」
テラの懇願を無視し、見た目に似合わない雄叫びを上げて敵に斬りかかる。
◇
契は三十人の戦士と対峙していた。
「なあ、ここに何しに来たのか、訊いてもいいか?」
「王座を空けてもらいに来たんですよ。」
答えたのは、聞き覚えのある声だった。
「何のつもりだか知んねぇけど、そう簡単に空けてやれねぇなぁ。ヴァルア。」
「お久し振りです。契さん。」
「まさかお前が来るとはなぁ。予想外だ。」
「なんにせよ、」
───敵なら容赦はしねぇぞ
次回 タイトル未定