13話 動き出してみた。
「こら凄いわ。」
レネーは、それはそれは美しかった。
黒の長髪で虎耳付き。個人的にケモミミやシッポは好きなのでそのままにしてある。凄く美人だ。
でも...
レネーって、♂なんだよな。
凄く残念だ。顔はもろに好きなタイプなのに。♂は対象外。
「どうだ? 人になった感想は。」
「動きやすいわぁ。おーきに。」
本人に不満がないようで良かった。
「この姿なら別に街に居ても違和感ないだろ?」
「もともとの形を変える、の選択とは、流石契さんッス。」
「問題が一段落ついたところで、家に帰るか。」
「ところで契さん、ちゃんとレベルは上がりましたか?」
「バッチリ。16になってクラスに目覚めた。」
この世界では、ダンジョン探索をするとその進度によって経験値がもらえる。
といってももらえるのは少量で、普通に魔物を討伐した方が効率がいい。だがディオニルの前では魔物は斬れない。一応ディオニルは魔族の王だから、斬ろうとすると超涙目で止めに来る。
それを面白がって何回かわざとやっていたのは内緒。
「クラスは、っと。」
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レベル : 16
クラス : 魔導剣士
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「"魔導剣士" だって。」
魔導剣士。そのクラスは限られた人しかなれず、現在の魔導剣士の総人数は50にも満たないという貴重な存在。癒術師クラスと魔術師クラス、剣士クラスの3つが合わさったクラスであり、その3つの特性を兼ね備えている。近距離戦から後方支援までできる万能型だ。
「「!?」」
◆
あの後何か色々言われたが覚えていない。
ところで今は宿屋のいつもの部屋に居る。
レネーとディオニルとメリスは出掛けていて、部屋にはテラと二人きりだ。
「そういえば、講和はできそうですか?」
「うまくいけばな。王様は魔族を支配したいらしい。魔族はそう言うのはどうでも良くて、攻めに来なければいいって。」
「なんとなく、王の私欲で戦争を起こしてる気がします。」
「そうなんだよな。でもその王の考えに同意してる人が多いのも事実なんだよ。」
「奴隷のため...でしょうか。」
「だろうな。なにかと便利だし。現に捕まった魔族は例外なく奴隷市場行きだ。しかし何でそんなに奴隷を集める必要があるんだ?」
「前に王都へ行った時に聞いた噂ですが、なにやら大きな施設を造るみたいです。噂ですが。」
「なるほどね。」
「ところで、さっきから契さんは何を作っているのですか?」
「これ?」
帰り際に布と針と糸を買ってきた。それで俺はあるものを作っている。
「そろそろできるから。ちょっと待ってて。」
俺が作っているもの、それは
「おし、できた。」
「何ですかそれは。」
「───某有名ファンタジーゲームの伝統的な───白魔導師のローブ。テラ用の。」
「あ、ありがとうございます。」
テラは顔を赤く染める。
「ダンジョンで転んで服が真っ黒のままだったろ? 窓の外見てっから着替えな。」
早速、テラはそれに着替えた。
「凄い、ぴったりです! で、でもいつの間にサイズを計ったんですか?」
「出会ってすぐに握手しただろ? その時に記憶と一緒に。」
「そんなこともできたんですね。」
改めてテラを見る。我ながら素晴らしい完成度だ。凄く可愛い。
そこにタイミングよく3人が帰って来る。
「あれ、テラさんは?」
メリスのその言葉に、テラは大層ご立腹だった。
◆
俺達は今、酒場で夕食をとっている。そして俺の隣には一つの樽がある。醤油である。
どうやらここの世界の麹を使うと発酵や熟成が大幅に早くなるようだ。1~2週間程度でゼロから醤油が作れたのは流石に可笑しいと思ったが、できてしまったのでいいかなと。(普通なら半年以上掛かる)
異常に早くできた割にはいい味だ。風味が強く、独特の甘さがあり、非常に美味しい。後でクオラにあげよう。
「契さん、そのビンの中の赤黒い液体は何ッスか?」
「これは "醤油" といってな。俺の故郷の調味料の一つさ。」
「飲んでみてm────」
「それはやめとけ。そのまま飲むのはやめとけ。」
危なかった。放っといたら致死量を飲む勢いだった。
「どうしてッスか?」
「これは今みたいにがぶ飲みすると死ぬ。大体1Lくらいで。」
「なっ、危なかった...」
「普通ならコップ一杯も飲めないけどな。万が一飲んじまったら発熱、頭痛、口渇、嘔吐、その他諸々のデバフがついた後に腎臓が破壊されたり肺に水が溜まったりして結構苦しみながら死ぬ。」
おや、メリスの顔が青くなっていく。
「それって、所謂 "毒物" の類いッスよね?!」
「あれ? 聞こえなかった? [普通ならコップ一杯も飲めない]って。」
「つまりは使い方を間違えなければいいわけじゃな。」
「その通り。」
あと一歩分かっていないメリスのために付け加えて説明する。
「醤油は基本的に下味を付ける調味料さ。──」
「したあじ?」
「料理になる前の材料そのものに味を付けること。──だから味が濃くないとだめなんだ。」
「はあ。」
「料理に味を付ける為に使うことは滅多にないから、飲む程消費はしない。つまり、普通なら致死量を飲める筈がない。」
「なるほどッス。」
───
あれから少し時間を進めて、俺達は飯を食い終わり、クオラに醤油を届けた。
街へ遊びに行こうと酒場を出ようとした。──が、
「陽谷契は居るか?」
聞いたことのある声だ。
「また、あの人ですね。」
「まあ、丁度王とも話をしたかったし。」
「ナイスタイミング、ですか?」
「おう。」
次回 (まだタイトルは決めてません)
次回どうしよう...