12話 華麗にスルーしてみた(かった)。
さてどうやり過ごそうか。足音はもうすぐそこまで来ている。
「! 『瞬間移動』で逃げたらいいんじゃないッスか?」
「無理。ダンジョン内ではうまく使えない。」
俺は、改めて自分のスコアを見て思い付く。
「『念力』」
『念力』でこの通路の入口に壁を作ればワンチャン...!
しかし足音は止まらない。...ミスった!
「ウチの出番やな。」
言ったのはレネーだった。レネーは、
「『セディメント・ディル・テレーノ』」
と唱えた。
大きな地揺れが起き、床が崩れる。確か『セディメント・ディル・テレーノ』は、大地魔法の最終段階で習得できる呪文で、効果は "地盤沈下" だった。
何てことを。
範囲は自由自在だが、ダンジョン内だと天井が崩れかねねない。
「おいバカ、何故やった? 確かに足音は地震に驚いて帰ったけどさ、こっちにも危険があるだろう?」
こいつ...!
「まあでも、いなくなったならいいじゃないですか。」
「お前頭いいくせにわからないのか? 大抵の場合、ダンジョンに異変があった可能性があるとして、大規模な探索部隊を送り込んでくる。」
「「「「あ。」」」」
回避するときは、こっそりする、が鉄則だ。レネーのように大事にしてしまうと大変な事になる。大事になっていくほど、対処は難しくなる。
おそらくこの世界で地震はあまり起こらないので、一大事だろう。これを回避するのは至難の技だ。
「とにかく、部隊が来る前にここを脱出するぞ。」
だが、その方法には一つ問題がある。それは、
「レネーはどうするんじゃ?」
そう。レネーである。
「ウチは城に戻るわ。」
そうか、城に帰れば解決だ。そこまで考え着かなかった。
では、
「総員、出口へ走れ!」
◆
俺とテラとディオニルは飛んでたので然程疲れていないが、メリスとレネーが完全にダウンしている。
「『トゥニチティー』 これで大分楽になったろ。」
『トゥニチティー』は、白魔法の肉体疲労回復だ。どんなに体が疲れていてもすぐに治る。
「「ありがとう。」ッス。」
「ディオニル、レネーを送っていってあげたらどうだ? 『瞬間移動』で。」
「伝説の『瞬間移動』をウチに使ってくれるんか。そら助かるわ。」
「私もその方が良いと思います。城はここから近いですが、冒険者と会わないとは限りませんし。」
「まあ、急いだ方が良いらしいな。遠くから猛スピードで沢山の足音が近づいて来てる。」
足音から性別や装備が大体分かる。集団はおよそ40人、内三分の二が男で大半が攻撃職。支援職は少数。装備的にダンジョン探索が目的らしい。
「じゃ、そうしようかの。」
と言ってディオニルはレネーに触れながら呪文を唱えようとする。
ん?
「あ、ちょっと待って。気づいたことがある。ここは下手に分かれるよりもまとまって居た方が良い。」
「どうしてッスか?」
「合流法が見つからないから。それと、多分城に居た方が安全だから。」
携帯電話等の通信手段がないので連絡が取れない。だから合流は難しい。それに今街へ帰る必要もない。ならいっそ、城で過ごしても問題はない。
「では、そうしましょうか。」
「『テレポート』」
ディオニルの魔法で城にワープした。
◆
「あれ?」
確か俺達、城にワープした筈では...?
俺達は今、何故かいつもの街の入口に居る。幸い、門番はまだこちらに気づいていない様子。
「『テレポート』」
俺はそう叫び、門から遠く離れた場所にワープした。
「おいディオニル、ちょっといいか?」
「は、はい。」
さて、お説教タイムだ。
──数分後──
「分かった?」
「は、はい。」
ディオニルによると、座標を間違えたらしい。俺からすると考えられないが、自動車のアクセルとブレーキのペダルを踏み間違えるような感覚だろうか。
多分気づかれていないから良かったものの、一歩間違えれば大惨事だった。
「この後どうしますか?」
どうするにもレネーが居ては目立ってしまう。レネーをどうにか城へ送りたい。
「契さんも『瞬間移動』使えるッスよね?」
「使えるけど、正確な位置がわからないから使えない。」
俺が使えたら良かったんだが。
と、俺は一つ閃く。
「レネー、ちょっといいか? 『エヴォルバー』」
レネーがみるみるうちに人になっていく。実験成功!
『エヴォルバー』は『純白魔法』の終盤に習得できる呪文。効果は進化と退化。
魔物の骨格は知らなかったが、動物が魔力で進化したレネーなら使える。相同器官を人の形にすれば言い訳だ。
「一応問題解決。」
「科学と魔術が合わさると最強だと思う。」
「どうしてですか?」
「お互いの欠点を補い合えるから。」
「なるほどです。」
次回 動きだしてみた。
科学と魔術が交差するとき、物語は...ってそれ以上はいけない。