11話 地下迷宮に行ってみた。
「見つけにくい場所にありますね。」
俺達は今、この辺りで三番目に難しいダンジョンに来ている。何故"三番目"なのかと言うと、パーティーの中で強いのが俺とディオニルだけだからだ。俺はいいとして、ディオニルは1500くらい、メリスは600前後、テラも同じくらい。俺だけなら一番難しい所でもいいのだが、今はもう仲間がいる。ここは仲間に合わせるべきだと考えたのだ。
「見つけにくいうえに遠いッスね。」
「仕方ないだろ?みんなで攻略できそうなのがここしかないんだから。」
普通、敵モンスターはまずパーティーの中で最もステータスの低い人を本能的に察知して襲う。それにビビってレベルの低いダンジョンに潜ると、死ぬことはないが貰える経験値量は少ない。一方、レベルの高いダンジョンは、死ぬ確率は高いが経験値は多い。そこでこのパーティーにとっては中レベルのここに来たわけだ。
でまたここが街から遠いんだわ。
『テレポート』は目視できる範囲か目的地のおおよその座標を知っていないと使えない。
飛べないメリスを背負って『飛翔』すると体力に関係なく疲れる。
という訳で歩きで来た。
歩いてヘトヘトになる分には回復魔法が有効だ。
「よし、潜る前に全員集合!」
そして俺は回復呪文を唱える。
「準備完了。此より、ダンジョンの探索兼レベル上げ及びクラス解放を行う。何かあれば声を掛けること。我々はパーティーでありチームである。故に単独行動は禁止だ。以上、行動開始!」
◆
現在地はダンジョンの入口付近。ダンジョン内は意外と明るい。
しばらく何もなく、ただ歩いていると
「たっ!」
隣の白い人が消える。
「大丈夫か?」
「うわっ、ここって結構汚いんスね。」
「おお、服が真っ黒じゃな。」
テラは、それは見事に顔から転んだ。その拍子に服が真っ黒になってしまった。
「どうしましょう...気に入っていたのに...」
「...帰ったら洗濯な。」
──
「ん?」
「どうされました?」
「鳴き声...右から...700mくらい先...」
「どれだけ耳いいんスか? オイラでも聞き取れない音を聞くなんて...」
実は俺は物凄く耳がいい。1km先で一円玉が財布から落ちる音すら聞き逃さない。今まで、最大で2.5km先のおばさま達の世間話を聞いたことがある。
「まだ気付かれてない。どうする?」
「気付かれていないなら、放っておきましょう。無理に戦う必要はありませんし。」
「だな。」
「で、ついでにもうひとつ報告。どうでもいいけど入口の方から俺達のもの以外の足音が聞こえる。」
「なら少し急ぎましょうか。早くしないとお宝が盗られてしまいます。」
「お、おう。」
必死そうに訴えてくる。俺の背が高いからか自然と上目遣いになっていて、見てて心地いい。
◆
ダンジョンの更に奥。ちょっとした小部屋を見つけた。
「綺麗な場所だな。」
ダンジョンの中とは思えない程の美しさ。秘境と言っても過言ではない。
中央には透き通った綺麗な水が涌いていて、壁にある小さなエメラルドグリーンの光を水が反射し、部屋中がキラキラ輝いている。
「ですね。」
「おお、あんなところに宝箱が!」
「何処ですか?!」
見つけたのはディオニルだ。しかしよく見つけたものだ。宝箱は壁の上の方にあり、普通に見つけることは困難だ。
気が付けば既にさっきコケて服を汚した人が居なくなっている。
「テラの現金なところは変わらんの。」
テラは昔から"お金"や"お宝"という言葉に目敏く、その単語を聞くとその事しか頭になくなることはテラ本人やディオニルの記憶から知っている。
この事を利用して、ディオニルはテラと何かあると現金をちらつかせて解決していた。今度検証してみよう。
「お、帰って来た。」
満足気に宝石を手にした白い服の人が帰って来た。
◆
そのまた更に奥。さっきの鳴き声の主に出くわした。
...ん?
「レネーじゃね?」
レネーは、ディオニルの友達のようなものだ。
...
魔物には大きく二種類存在する。
ひとつは大気中にある魔力によって自然発生したもの。魔物の約八割がこれだ。
もうひとつは野獣が魔力の影響を受けて進化したもの。魔物の約二割がこれで、その多くはディオニルの配下にある。また、自然発生した魔物よりも強い。
レネーは後者で、ディオニルとはちょっとした仲だった。
「! レネーじゃと?」
「たぶん。」
「こんなところに居ったのか。それより何故レネーを知っておるのじゃ?」
「別になんでもいいだろ。」
レネーがディオニル目掛けて走ってくる。黒虎が走る姿は迫力を感じる。
「大丈夫だよメリス。レネーはディオニルの仲間は襲わない。」
俺は、顔を真っ青にして逃げようとしているメリスを捕まえて落ち着かせようと試みる。
「ディーはん、久しぶり。」
レネーはディオニルのことをディーさんと呼ぶ。そっちの方が呼びやすくていいなと思うが、レネー以外にディーと呼ばれると怒る。
「久しぶりじゃの、レネー。」
「どうしてディーはんがここに?」
「いろいろあっての。」
...
「感動の再開のところ悪いんだが、俺等以外の足音がこっちに向かって来ているんだ。」
「この状況を見られるとちょっとマズいッスね。」
さて、どうしたものか。
「契さん、物凄く耳がいいんですね。」
「まあな。お陰で学生時代に全クラスの授業を同時に受けている気分だったよ。」
「便利ですね。」
次回 華麗にスルーしてみた(かった)。