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1話 転生してみた。

 陽谷(はるたに) (けい)はヒキニートである。故に外出など無縁な事だと思っていた。


 しかし今は別だ。

 どういう訳だか、俺は真昼に近くの公園のベンチに何の理由も無くただ座っている。

 金が無い訳では無い。家を追い出された訳でも無い。引きこもるのに飽きた訳でも無い。

 そもそも、ヒキコモリの俺は日の光が弱点だ。自分の弱点を進んで突く程Mでは無い。

 故に何故ここに居るのかが自分でも理解できない。

 俺の経験上、こういった理解不能な言動をした後には、必ず何かが起こる。


 その経験は合っていたらしく、俺は帰り道、交通事故に巻き込まれた。


 ◆


 目が覚めると、そこには見たことも無い様な美しい景色が広がっていた。

 雲ひとつない、澄みきった大空の青と、一面に広がる大草原の青が、それはもう美しくて。

 草原に吹く爽やかな風を感じ、思わず深呼吸したくなる。

 傍には大きな樹木があって、俺はそこに凭れ掛かるようにして座っていた。


 なるほどこれが俗に言う死後の世界、天国というやつだろう。

 立ち上がりながら辺りを見渡しつつ、美しさと未知に感動を覚えていると、頭の中に声が響く。


「ようこそ契さん。貴方は神々によって選ばれ、この世界でもう一度人生をやり直す権利が与えられました。」


 ……――――は?

「混乱されるのも無理はありませんが、これはいわゆる異世界転生ですよ? もっと喜んでもらってもいいんですよ?」

 えっと、は?

 ちょっと言っている意味が分からない。


 もう一度人生をやり直す、だ?

 おいおい冗談きっついぜ。


 異世界転生。確かにここは地球上では無さそうだ。

 ここまでの絶景が今まで発見されてこなかったのはあり得ない。

 正直面白そうだし楽しそうである。


 が、チュートリアルは強制スキップの上、体も前世のそのまま。

 格好も部屋着のジャージで、ファンタジー感ぶち壊しだし、冒険が始まりそうな世界なのに剣のひとつもない。

 神々って奴が選んで(・・・)異世界転生させてくれたっぽいけど、ならそれに見合った待遇ってのがあってもいいと思うんだが。


 ちょっとコイツに文句言ってやる。

「おいお前。」

「何でしょう?」

「待遇が悪すぎると思うんだが。チュートリアル強制スキップの上、初期装備無しとかおかしいだろ。というかお前誰だよ。姿を見せろよ。」

「失礼。申し遅れました。私は"テラ"と申します。契さんの担当の、ただの妖精です。」

 そう聞こえた後、俺の目の前に強力な光を放つ、透明な羽を持った美少女が現れる。

 次第に光は弱くなっていき、その姿がはっきり見えるようになった。


「か、可愛い...」

 思わずそんな事を呟いた。


「初めまして。テラと申します。契さんの身の回りの世話やサポートが私の主な役目です。」

 と、テラと名乗った少女は、着ているワンピースの裾を摘まんで丁寧に一礼する。


 俺はさっきまでイラついていたのを忘れ、こう思うようになっていた。

「(可愛いし声もいい。まさに天使!)」


「...なんか、さっきは悪かったな。色々と混乱しててさ。ところでテラさん、俺は一体この世界で何をすればいいの?」

 さっきまでの苛立ちはとうに消え、また、さらっと謝って、何のためにここに転生させられたのかを訊いておく。

「人類と魔族との戦争の終結です。」


 ……――――は?


「私、何か変な事言いましたか?」

 うん。言った。脳が理解を拒否していて聞き取れなかったけど言っていた。


「えっと、戦争を……どうするって?」

「終わらせるんです。」

「誰が?」

「貴方が。」

「どうやって?」

「知りません。」


 ……大変な重荷を背負わされてしまった。


 さっきテラを天使とか思った事を撤回しよう。

 アレは悪魔だ。天使の皮を被ったただの悪魔だ。


 ヒキニートに戦争を終わらせろとは、とても正気とは思えない。

 もしかしたら悪魔と呼ぶことすら生ぬるいかもしれない。


 ……開き直ることにした。


 とにかく、どうするか考えよう。ヒキニートがどうにかできる話とは思い難いが。


 しかし情報が少なすぎる。

 この世界の情報と、戦争の種の情報。これは最優先。

 敵国の情報と自軍の情報。これはその次。

 地形とかも知っていると役に立つと思う。

 でも武力以外で解決した方が後々楽だ。


 よし。その辺も含めてこのテラとか言う悪魔から情報を搾り取ってやろう。


「なあテラさんよ、大量に訊きたいことがあるんだが。」

「どのくらいですか?」

「多分おまえの知っていることほぼ全部。」

「でしたら、握手をした方が早いです。」


 ……はい?


「……まだ言ってませんでしたね。貴方は握手した人の記憶・ステータス・スキル・その他諸々をコピーしてそのまま自分の物に加算してしまう面白い体質に神様が変えたのです。自分にとって悪い情報は加算されませんのでご安心ください。」

「それ何てチート?」

 俺はそう突っ込まずにはいられなかった。


 テラは俺の言葉を無視して手を差し出す。

 俺は恐る恐る握って見る。


 下から風が吹いている様な感覚だ。凄く気持ちがいい。


 数秒後、俺は凄まじい吐き気に襲われる。

 俺のその様子を見たテラはこう言った。

「吐き気は10秒もすれば治ります。人1人分の情報が入ってくるんですから、これくらい起こって当然です。多分直ぐに慣れますよ。」

 ……先に言えよ。


 握手した結果この悪魔の情報を搾り取れたんだが、凡そ目標達成に役立ちそうなものは持ってなかった。

 俺がこの悪魔から受け取った情報は、

 ・俺が呼ばれてきた経緯

 ・この世界の基本的な情報

 ・こいつのスリーサイズ

 ざっとこんなもんだ。

 ん?スリーサイズだと?これは素晴らしい。


「そういえばさ、さっきから俺の背中に違和を感じるんだが?」

「多分、私の飛行スキルをコピーしたからだと思います。きっとその所為で背中に羽が生えたのでしょう。」

 さっすがファンタジー。飛行とは、何でもありな感じが素晴らしい。


「まじか。この羽ってしまえるの?」

「出来ますよ。自分で背中をなぞれば消えます。もう一度なぞれば生えます。」

 俺はそれを聞いて安心した。

 流石に羽の生えた人はよくも悪くも目立ちやすい。

 とりあえずしまっておこう。


「それじゃ、まずあの町にでも行こうか。」

 テラから受け取ったこの辺りの地形図から最寄りの町を見つけ、そう提案した。

「そうですね。」

「と、言う訳で、テラもその羽をしまおうか。」

「了解です。」


 こうして俺達は歩き出した。


 ◆


 町に着き、早速躓く。

「通行料?」


 現在無一文。


「おいお前。どうする?早速詰んだぞ。」

「どうしましょう。詰みましたね。」

 何でこんな緊急時に笑ってるんだこの悪魔は。

 さっきからテラはニヤニヤしながら背中を見るように後ろを振り返っている。


 そして俺は気が付いた。

 飛ぼう。上から通ろう。

 まさか出だしから犯罪紛いなことをすることになるとは。


 俺達は、人目の無い大きな木に隠れ、羽を生やした。


「ところで、どうやったら飛べるの?」

「左手を握るような形で横に出すと補助コントローラーが出てきます。……嘘です。」

 "パコーン"

「うぅ……」

 真剣になって聴いていた俺が馬鹿だった。


 小馬鹿にされた腹いせに、"何故かポケットにあった"スリッパでこの悪魔の頭を叩いた。

 とっても良い音がした。叩かれた当人は痛そうに頭を押さえているが。


「本当の飛び方は?」

「肩甲骨辺りに力を入れて飛ぶイメージをするんです。……本当ですからそんな目で此方を見ないでくださいお願いします。」

 つい無表情になってしまった。


「私、飛ぶの初めてなのであまりよくわからないんですがね。」

 俺はスリッパを構える。

「や、止めてください。きっと飛べますからスリッパを構えないでください。」


 気を取り直して俺達は街に向けて飛び立った。


 街は基本20m位の壁に囲まれていて、出入り口は方角に沿って4つ。

 この世界では、日は南から昇って北に沈むらしい。その為か、南側の門は何処の街でも豪華なんだとか。

 ……全部こいつから奪っ、貰った情報だ。


「さて、街に着いたところでまずギルドへ行くぞ。」

 人気の少ない路地裏に着陸してそう提案する。

「そうしましょう。」

 ギルドに加入しておいた方が後々便利だそうだ。それに現在無一文。お金を稼ぐ必要がある。


 ギルドに入ると、スコアと呼ばれる自分のステータスや、倒した敵の名前と数などが記入された、小さな厚い紙が貰える。その紙はリアルタイムで今の自分の情報を表してくれる。

 科学的にどんな仕組みなのか気になるが、それは機会があったら調べてみよう。


 おそらくこの街の中心にあるこの建物がギルドの本部だろう。 赤い屋根の、塔の様な大きな建物で4階建て。1階が酒場。2階にクエストカウンター。3、4階は宿屋となっているらしい。


 2階で適当な手続きを済ませた俺達は、スコアを受け取った。

 スコアに少しずつ文字が書かれていく。その様子はちょっと面白い。


 スコアにはこう書かれていた。

─────────────────────────────────────


 名前  : 陽谷 契

 性別  : 男

 レベル : 1

 クラス : 無所属

 年齢  : 21

 種族  : 人間


 ステータス

 体力  : 320  A-

 筋力  : 214  B+

 攻撃力 : 436  A

 防御力 : 360  A-

 魔力  : 859  S+

 魔力容量: 895  S+

 知力  : 640  S

 総合評価: A+


 スキル

 ポイント 20

 ・--- 飛翔   習得済

 ・19 白魔法  Lv6 (Max Lv8)

 ・06 黒魔法  Lv2 (Max Lv10)

 ・15 催眠術  Lv5 (Max Lv9)

 ・--- 状態異常耐性 習得済

 ・--- 千里眼  習得済

 ・25 暗視   Lv8 (Max Lv10)

 ・03 心理眼  Lv1 (Max Lv7)

 ・--- 再現   習得済


 討伐した魔物

 ------


───────────────────────────────────────


 基準が分からない為、どう見たらいいか分からない。

 テラも多分同じだ。スコアを見ながらキョトンとしている。


 俺はスコアの見方を受付嬢に訊いてみることにした。

「すいません。スコアの見方を教えてください。」

「はいはい。」


 俺は受付嬢と一緒にスコアを覗いた。

 その人はひどく驚いていた。

 どうかしたのだろうか。


「あの...どうしました?」

「あなたは何者ですか?」

「?」

「レベル1ですよね?」

「まあ、はい。」

「レベル1で総合評価A+なんですか?」

「みたいですね。そう書いてありますし。」


 俺の言葉に周りがざわつく。


「あいつレベル1なのにA+らしいぜ。」

「マジかよやべえな。俺なんかレベル1のときはB+でこれでも凄いって言われてたんだぞ?」


 なんて声も聞こえて来る。


 とにかく凄いみたいだ。


 ◆


 説明によると、評価はC~Fullまであって、

 C  0~50

 C+ 51~100

 B  101~200

 B+ 201~300

 A- 301~400

 A  401~500

 A+ 501~600

 S  601~700

 S+ 701~999

 Full 1000

 の様になっている。


 総合評価A+というのは、ステータスの数値を平均した時に、501~600の数値になる、という意味だ。


 スキルは、能力名の横にある数値だけポイントを消費することで習得、強化できる。

 ポイントは、レベルアップすることで増える。


 スキルを習得済にすると、ボーナスとして5ポイントが追加される。 

 また、スキルは、そのレベルに応じて強さが変わるようだ。


 魔法系のスキルだと、レベルが違うと魔法の威力と使える魔法の数が変わる。

 例えば白魔法

 Lv1で『レコペロ』(回復魔法)を使っても回復するのはせいぜい50だが、習得済の状態で『レコペロ』を使うと500近く回復できる。

 また、レベルを上げることで『ルーセ』(光属性の攻撃魔法)や、『ツト・レコペロ』(パーティー全体の回復魔法)等、他の魔法も使えるようになる。

 呪文や効果は、その能力のレベルを上げたときに自然と頭に入ってくるらしい。


 その他にも沢山教えてもらった俺達は、とりあえずパーティーを募集することにした。

「なあテラ、どんな奴が来ると思う?」

「わりとしっかりした人が来そうですね。でも、子供っぽい感じですね。」

「どうゆこと?」


次回 クエスト受けてみた。




まだ最初だから説明多めになってしまった……

それと処女作なのである程度のことはご容赦くださいな。

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― 新着の感想 ―
転生ではなく、転移ではないのか・・・?
[一言] HPとMP表示は無いのですね。 HPはゲームみたいに残り1でも普通に動けるとか異常ですからね。 魔力は威力の数値であって魔力残量とかではなく、 基本スキルを発動する感じなのかな。 ステータス…
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