09話 仲直り
リリュートを見送ると、セイン王子はエリー王女の濡れた頬を撫でる。
「また泣かしちゃったね」
セイン王子の辛そうな表情を見たエリー王女は首をふり、またセイン王子の胸に顔を埋めた。そんなエリー王女をセイン王子は優しく抱きしめる。
「……アラン。後で貴賓室に向かうからマーサさんを呼んで準備しておいてくれる?」
ぴくりと反応をしたアランに対して、セイン王子は安心するように笑顔を作った。
「あはは、そんな顔しなくても大丈夫だよ。俺がちゃんと送り届けるから」
アランは少し何かを考えている様子だったが同意を示す。
「わかった。早く戻れよ」
「うん、ありがと」
アランの背中を見送ると、静寂が訪れる。
未だ胸の中にいるエリー王女は、セイン王子を傷つけてしまったことに心を痛めていた。自分が嫌だと思っていたことを同じようにしていたのだ。謝るのは自分の方であったのに、どうしても素直になれなくて顔を上げられずにいた。
「エリー。ほら、見て」
しかし、セイン王子の優しい声が体の中で響くと、エリー王女はゆっくりと顔を上げた。その瞬間、息を飲む。
暗い夜空を彩るように無数の光の玉がゆっくりと舞う。
オレンジ色に輝くその光は、星空にかかる橋のように美しい。
先ほどまでの悩みが一緒に飛んでいったかのように、エリー王女はその空に見入った。
「綺麗……」
思わず呟いたエリー王女の瞳もまた、光が映り込んでキラキラと輝きを放つ。セイン王子はその瞳を見つめて満足そうにほほ笑んだ。
「よかった、気に入ってもらえて」
「はい、とても素敵です! あっ、これはセイン様の魔法ですか?」
セイン王子をよく見ると、手から光の玉を作り上げ空に飛ばしていた。
「うん、そう。思った以上に綺麗だね。こんな魔法の使い方もいいかもしれない。……ねぇエリー、そろそろ許してくれる?」
顔を覗きこまれたエリー王女は、首を振り、しっかりとセイン王子を見つめた。
「謝るのは私です。ごめんなさい……。セイン様に嫌な思いをさせてしまいました。私こそ許していただけますか?」
「んー、どうしようかなー。すごく嫉妬したしなー。って、嘘うそ。そんな顔しないで。じゃー、仲直りしよ?」
「はい、仲直りしたいです……」
覗きこんでいたセイン王子の瞳が細まり、「良かった」という呟きと共に少し冷たい唇が触れる。
一瞬にしてエリー王女の体が痺れた。
光り輝く大きなクリスマスツリーの前で二つの影が重なり、僅かな時を刻む。
直ぐに離れてしまったそれが名残惜しく、エリー王女は潤んだ瞳でセイン王子を見つめる。セイン王子もまた同じように見つめていた。
「あー……ここじゃ、ちょっと目立ち過ぎるから……あとでゆっくりね」
「……はい」
少し恥ずかしそうにしつつも、エリー王女は嬉しそうに笑う。そんな可愛いらしい表情を見たセイン王子は、我慢できずにもう一度軽く唇に触れた。
「セ、セイン様……」
「あはは、行こうか」
セイン王子が差し出した手をエリー王女はしっかりと握り締める。繋いだ手を確認すると、二人は目を合わせて笑みを交わした。
二人は真っ直ぐエリー王女専用の貴賓室へ行き、エリー王女はマーサから化粧直しをしてもらう。
「マーサもなんだか嬉しそうですね?」
「そうですね。きっとエリー様が嬉しそうだからです」
そう微笑むマーサはいつも以上に綺麗に見えた。そういうものなのかなとエリー王女は納得をし、横を向く。そこにはアランと楽しそうに話すセイン王子の姿がある。それを見たエリー王女は、心が弾むのを感じた。
「お~、いたいた~! この後ギルとアリスちゃんも呼んで七人でクリスマス会しよーぜ! こんな日はなかなかねーからよ。ってか、もう準備しちゃってるもんね~」
勢いよく部屋に入ってくるなり、アルバートが楽しそうに話してきた。
「だ~いじょうぶだって! ちゃんと今日中には開放してやっから! な? ちょっとだけ」
セイン王子の隣にドカっと座ると、セイン王子とアランを交互に見る。
「うーん。そうだね、ギルやアリスにも楽しんでもらいたいしね。でも、俺達は途中で抜けるよ」
「分かってるって! よし、じゃあ、俺らの部屋に集合な! じゃ、また後で!」
言うだけ言って、嵐のようにアルバートは立ち去った。
「あはは、アル先輩は面白いな~。さて、そろそろ戻ろうか」
「はい」
今度は、セイン王子の腕にエリー王女が手を添える。少し恥ずかしいような、嬉しいような……ドキドキと胸が高鳴る。そんな気持ちでホールに戻ると、二人の元にエーデル王女が近付いてきた。