07話 片想い
「そんなに心配されなくても大丈夫ですよ。夜は一緒に過ごすと約束をされたのでしょう?」
リリュートは、エリー王女を安心させるように優しく微笑む。二年前に彼女の支えになろうと決めたその日から、リリュートは友人として支えてきた。特にK地区にいた頃は、平民を装い何度も会いに行き、公務の方でも一緒に問題に向き合ってきた。それによって、エリー王女は少しずつ警戒心を解き、心を開くようになった。
好きになってもらわなくてもいい。エリー王女の側にいることができ、彼女を支えることが出来るのならばそれでいい。そう思い、リリュートは彼女の幸せだけを願った。
しかし、婚約が決まったことをアルバートから聞いた時は、思っていた以上に気持ちが沈んだ。あれほど一緒にいた自分より、会ったばかりの相手を選んだのだ。正直言えば、納得はしていなかった。それでもエリー王女が望んだ相手なら祝福をしなくてはならない。そう思っていたのだが……。
セイン王子に宣言したとおり、リリュートはエリー王女の側から離れなかった。時々、エリー王女がセイン王子を見つめ悲しそうな表情になるのを見ると、その度にリリュートの胸は痛んだ。エリー王女が新しい飲み物を給仕人から受け取ろうとすると、リリュートはその手を止める。
「エリー様。飲み過ぎかもしれません……。酔いを冷ましに、少し涼しいところへ行きましょう……」
エリー王女が普段はあまり飲まないお酒をいつもより多く飲んでいたため、心配したリリュートはそう提案した。エリー王女は両頬を押さえ、少し考える素振りを見せる。
「……そうかもしれませんね。では、一緒に庭園へ。クリスマス用に光を散りばめてあるので、それはとても美しいのですよ」
お酒の影響からかほんのりピンク色に染まる頬に、潤んだ瞳、愛らしい笑顔。そんなエリー王女からリリュートは視線を反らした。高鳴る胸を抑え込み、ゆっくり息を吐く。
「それは楽しみです。では温かい服を着て参りましょう」
そうしてリリュートは、友人としての笑顔をエリー王女に返した。
暖かな毛皮を着込み、庭園に向かう三人。アランは少し後ろから見守っていた。デール王国にいた時からこの日をずっと楽しみにしていたセイン王子を思うと、ついアランの眉間にしわが寄る。
庭園にも大きなクリスマスツリーが飾られており、魔法薬で灯された赤や黄色、青の光が散りばめられていた。
「確かにとても美しいですね。まるで、『ディセンシーの灯』の挿絵のようです」
「あ、リリュートもそう思いました? 私も初めて見たとき、そう思ったのです! ふふふ、リリュートならそう思って下さると思っておりました」
お互い読書好きで、よくこうやってあの本のこのシーンのようだと話すことが多かった。白い息を吐きながら嬉しそうに笑うエリー王女を見つめ、リリュートの手が自然とエリー王女の頬を撫でる。
「俺だったらあんな風に悲しませないのに……」
「え……」
ついそんな言葉をリリュートは吐いてしまった。すると、エリー王女は困惑した表情にさっと替わり、一歩身を引いた。
「あの……。ですが、セイン様はとてもお優しい方なのです。私はそれでも……セイン様が――――」
その言葉の続きを聞きたくなくて、リリュートは衝動的に抱きしめてしまった。そして、胸の中で息を飲む音が聞こえた気がした。
「その先は言わないで……」
「リリュート……お願い、離して下さい……」
エリー王女が胸の中でもがくと、突然リリュートの右手が掴まれ、あっと思ったのも束の間に、腕がくるりと捻られ背中に周る。
「これはどういうこと? リリュート……」