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06話 接し方

 それからリリュートは、宣言通りエリー王女を付きっ切りでエスコートしていた。本来であれば、その場所にはセイン王子がいるはずだったのだ。表面上は平気なふりをしていたが、セイン王子の心中は穏やかではなかった。


 隣にいるエーデル王女は、セイン王子が無理して笑顔を振り撒いていることは分かっていた。そもそも、こんなはずではなかったのだ。


 エリー王女と友達になりたい。


 これがエーデル王女の本来の目的だった。しかし、友達の作り方など知らない。人と接することが少なかったエーデル王女は、会話をする相手と言えば、兄であるジェルミア国王のみ。それ以外の者からは一方的に罵られるだけ。人との付き合い方など知らないのだ。


 エーデル王女は、仲良くなりたいことを伝えたし、エリー王女と一緒にいる人を褒めただけ。悪気はなかったが、何かが間違っていたらしい。友達にもなれず、セイン王子とエリー王女の二人の間にギスギスしたものまで生まれてしまった。


 解決策も見つからず、気持ちはくすぶるばかり。いや、解決策ならあるのだ。セイン王子をエリー王女の元へ行かせるだけ。


 しかし、エーデル王女は一人で過ごす勇気はなかった。セイン王子の側はとても居心地がよく、つい甘えてしまっていた。


「これだから、エリー様に嫌われてしまったのだわ……」


 一人ごちたが、その声は美しい音楽によってかき消され、セイン王子の耳には届かなかった。そんな中、エーデル王女は、ホール内の隅の方で小さく身を潜めている人物を見つけた。まるで、誰にも見られたくないかのようにひっそりと立っている。


 時々、その人物をみて、眉を寄せひそひそと話す貴族もいた。エーデル王女はその人物が気になって、時々目で追っていた。何度みてもその姿は変わらない。それはかつての自分によく似ていた。目に触れられなければ、罵られることもない。あれが一番楽で安全だということをエーデル王女は知っていた。


「エーデル様、何か気になることでも?」


 セイン王子がエーデル王女の様子に気がつき、彼女の視線を辿る。


「あの方は……クラウド様……」


 クラウド王子はディーン王子の弟。ディーン王子との血の繋がりが強いクラウド王子は、この国では肩身が狭く、突き刺さる視線はとても耐えられぬほどの痛みを与えていた。ぬくぬくと育ってきた、十五才の彼には辛すぎる状況だった。


 セイン王子は、エーデル王女と二人で彼のもとに挨拶に向かった。


「メリークリスマス、クラウド様」

「え? あ……あなたはセイン様……。メ、メリークリスマス……」


 クラウド王子はセイン王子と視線を合わせると直ぐに目を逸らす。また、少しふくよかなお腹の前で、手をモジモジと弄っていた。


「紹介しますね。彼女はデール王国のエーデル王女です」

「お初にお目にかかります。エーデルでございます」

「あ、初めまして……シロルディアの……クラウドと申します……」


 これが本当に王子なのかと疑ってしまうほどおどおどとした態度に、エーデル王女は呆れた。いずれ一国の王となられる方だというのに! 自分と同じだと思っていたが、全く違っていた。何もせずとも王となるのだ。胸の内からムカムカと何かが沸き上がる。


「情けない……」

「え?」


 エーデル王女の呟きに、クラウド王子は顔を上げる。


「クラウド様。失礼ながら申し上げます。もう少し背筋を伸ばして下さい。あなた様はいずれ国王となられるお方。堂々としていればよいのです」


 つい、後先考えずに言ってしまった。エーデル王女は、そうは思ったが止められなかった。


「それに、私はディーン王子に感謝しております」

「え?」


 クラウド王子は細い目を少しだけ見開き、エーデル王女を見た。


「あら、本当ですのよ。お陰で兄が王となれたのですから。アトラスにとって、良くない行いではありましたが、我が国にとっては好機をもたらしてくれました」


 クラウド王子は驚き、顔を歪めた。


「ああ、エーデル様……。そのように言ってくださいましてありがとうございます。曲がりなりにも血の繋がった兄です。その言葉で、兄の生きた意味を見出だすことが出来ました……」


 うっすらと涙を浮かべたクラウド王子。彼の兄への想いに、エーデル王女も込み上げるものを感じた。


「……セイン様、一つお願いがございます」


 クラウド王子を見ていたら、エーデル王女は妙案を思い付いた。







挿絵(By みてみん)




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