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05話 恋心

 エリー王女とアランがコソコソ言い合いをしていると、一人の男が声をかけてきた。


「エリー様、メリークリスマス。今宵お招き頂きましてありがとうございます。遅くなって申し訳ございません」


 みっともない姿を見られたと思い、はっと我に返り、エリー王女は背筋を伸ばす。笑みを作って振り返ると、そこにいたのは、優しく笑みを浮かべるセルドーラ公爵家の長男、リリュートだった。


「あぁ、メリークリスマス、リリュート。お待ちしておりました。お仕事ご苦労さまです。本日は足を運んでくださいましてありがとうございます」


 二人は過去に色々とあったが、今では良き友人である。仲の良いリリュートに会ったことで、エリー王女の心は少しだけ解れた。


「ねぇリリュート、お食事はまだですよね? 今日は素晴らしいチチドリが手に入ったそうなんです。是非召し上がってください」


 エリー王女は沈んだ気持ちを誤魔化すように、リリュートの腕を取り、豪華な食事が置いてある場所まで引っ張って行く。給仕人にあれこれと指示を出し、そのお皿をリリュートに手渡した。笑顔を見せるエリー王女のその顔はやはり愛らしく、リリュートの胸は高鳴った。


「あ、ありがとうございます。えっと……エリー様は今日も可愛いですね。赤のドレスもとてもお似合いです」


 照れながらも褒めてくれるリリュートに、エリー王女は少しだけ悲しそうに笑う。それは、セイン王子から褒めて貰えなかったことに気が付いたからだった。

 しかし、直ぐにいつものエリー王女に戻った。悲しみを隠し、笑顔を作る。特に男性には弱いところを見せてはいけない。そう約二年前に決めてから守り続けていたことだった。


「それで、今日はセイン様はどちらに? 本日はいらっしゃると聞いておりましたが、まだ到着されてないということでしょうか?」


 セイン王子とエリー王女が婚約をしたということは、公にはしていなかったが、一部の人間は知っていた。リリュートはその一人である。そのため、セイン王子がエリー王女の側にいるものだと思っていたリリュートは、そんな風に疑問をもったのだ。


「いえ、デール王国のエーデル様と一緒にいらっしゃいました。エーデル様は、こちらに知り合いがいらっしゃらないので、セイン様がお相手をして下さっております」

「そうでしたか……。本日来ていただいた他国の方々に挨拶もしたいのでご紹介していただけますか?」


 あたかも何でもないように説明するエリー王女に、リリュートはその時、何も疑問を感じなかった。しかし、エリー王女から二人を紹介された時に気が付いた。エリー王女が無理をしているということに……。


 エーデル王女は魅惑的な体を押し付けて、まるでセイン王子を誘惑しているように見えた。エリー王女のことを未だに想い続けていたリリュートにとって、この光景は不快であった。いくら仕方がないとはいえ、目の前でこのようなことをされてはエリー王女が傷付くに決まっている。


 エリー王女を想うあまり、セイン王子に対しても腹が立った。


「今宵は美しいエーデル様とゆっくりお過ごしになられるとのことですので、僭越ながらエリー様は私がお相手を努めさせていただきます」

「まぁ、それは素敵! リリュート様は我が国では見ぬほどとても品位がございますもの。とても羨ましくも思いますわ」


 エーデル王女は嬉しそうにセイン王子の腕に頭を寄せる。しかし、セイン王子はそれをさりげなく外した。


 セイン王子は、リリュートが敵意を持って言っていることに気が付いていた。彼はエリー王女と初めて会った時から好意を寄せていることも知っている。だから……


「そうですか……。では、宜しくお願い致します。しかし、エリー様は私の大切な方です。それは忘れないで頂きたい」

「ええ、勿論です。我が国の大切なエリー様を悲しませるような方でなければ。の話ですが。では、お邪魔いたしました。失礼します」


 リリュートは深くお辞儀をすると、戸惑っているエリー王女の腰を抱き、その場から立ち去った。


 セイン王子は何も言えなかった。そして、握り締めたその手に力を込めるだけで精一杯な自分が許せなかった。








挿絵(By みてみん)

セイン王子



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