04話 嫉妬
セイン王子はエリー王女が立ち去る後ろ姿を見つめた。
「セイン様、行きましょう。まずはお食事を――――」
「ごめん、ちょっとそこにいて下さい」
セイン王子はエーデル王女をその場に置き去り、小走りでエリー王女を追いかけた。
「エリー」
エリー王女の手首を掴もうとしたら、アランに阻止された。当たり前の対応だったが、少しイラっとして、アランを睨んだ。
「失礼しました、セイン様」
「いや……アラン……。ちょっとだけエリーと話していい?」
「……わかりました」
アランが距離を取ると、セイン王子は視線を合わせないエリー王女を見下ろす。
「何が言いたいのか分かってる。ごめん。だけど、俺が見ているのはエリーだけだから。それだけは分かってほしい……」
「……はい。セイン様のことは信じております。それでも、少し悲しくなりました……」
顔を上げたエリー王女の瞳はうるうると涙で揺れている。セイン王子は頬を撫で、悲しそうに笑う。エリー王女の気持ち考えれば当然だ。ただ、他国で知り合いのいないエーデル王女を一人にするわけにもいかなかった。
「うん。本当にごめん。……だけど――――」
「セイン様。エーデル様がお一人でお待ちです……。早く行って差し上げてください」
エリー王女は心にもないことを伝え、無理して笑顔を作る。セイン王子がエーデル王女の元へ行って欲しくないという気持ちは大きい。しかし、彼女を一人にすることが出来ないことも分かっていた。
「……それじゃー、俺行くけど……。エリー、夜は必ず二人で過ごそうね」
その言葉にこくんと頷くと、セイン王子はもう一度エリー王女の頬を撫で、その場を立ち去った。その姿をエリー王女は寂しそうに目で追いかける。すると、その先でエーデル王女がセイン王子の腕に、これ見よがしに絡みついた。また心臓が嫌な音を上げる。目を背けようとした瞬間、エーデル王女がちらりとエリー王女を見て、目が合うと笑顔を見せた。会釈をしてくるエーデル王女に対して、エリー王女は息が詰まり動けなくなる。
「如何されました?」
アランが側に戻ると、エリー王女の様子がおかしいことに気が付いた。前に組んだ手が震えている。
「エーデル様……」
「はい」
「セイン様のことが好きなのですね……」
「……そうなのですか」
アランの反応にエリー王女は眉をひそめ、アランを物珍しそうに見つめる。
「……まさか、知らなかったのですか? ぁ……いえ、アランなら納得です」
エリー王女のその言葉に、アランは納得いかない表情を見せた。しかし、知らなかったことは事実だ。アランは、小さく咳払いをした。
「……たとえ、エーデル様がそうだとしても、セイン様のお気持ちは変わらないかと」
「ですが、あんな風に……その……胸を押し付けられたりしたら……セイン様だって……」
不満そうにアランを睨むと、アランはエーデル王女を見てからエリー王女を見た。
「まあ、胸が小さくても気に病む事はないとは思いますが?」
「そ、そういうことを言っているのではありません! もぅ、どうしてそうなるのですか? アランはもう少し女心を学んでくださいっ」
エリー王女が頬を膨らまし、アランの胸を軽く叩く。アランはその手を止めることなく、少し考えた。
「では、何がそんなに不満なのですか? セイン様はずっとエリー様のことしか考えていませんが?」
アランにそう言われると、エリー王女は何も言えなくなった。それでも不満は解消されない。まだホール内にいたため、エリー王女はアランに小さな声で胸の内を伝える。
「あら、アランとエリー様はとても仲がよろしいのですね。セイン様とギルやアリスといい、国が豊かですとそうなのかしら」
エーデル王女のその声に、セイン王子は振り返った。エリー王女とアランが、顔を寄せ合って何かを言っている。アランが笑い、エリー王女が可愛く怒る。そんな二人の姿に胸の奥がチリリと焼けるように痛んだ。