03話 痛み
声を掛けられたセイン王子は、エリー王女に気が付き嬉しそうに近づいてきた。しかし、セイン王子の横には知らない女性がいる。その女性はエリー王女に気がつくと、笑顔を湛えながら添えていた手をセイン王子の腕にきつく絡めた。
エリー王女の胸がドクンと跳ねる。
彼女の豊満な胸が押し付けられ、形が変わっている。その胸をエリー王女が凝視していると、セイン王子が慌てた。
「ちょ、エーデル様。もう少し離れてください」
「あら、どうしてですか? 私はこんなにもお慕いしておりますのに」
エーデル王女は熱っぽくセイン王子を見つめるが、セイン王子に言われるとすっと離れた。その瞳をエリー王女に向けると、挑発的な笑顔を湛える。
エーデル王女が身に纏う黒のドレスは、彼女の金色の髪を引き立てていた。とても自信に充ち溢れており、美しい顔立ち。
しかし、それよりも目が行ってしまうのは、V字に大きく開かれた胸の谷間。そして、下着ギリギリのラインまで入ったスリットから覗く足。生地に覆われることなく露になっている背中。
どこからどう見ても、その姿はとても色っぽく、見る者すべてを魅了していた。現に、ちらちらと覗き見している男性が多い。
「メリークリスマス、エリー。遅くなってしまってごめんね」
「メリークリスマス、セイン様。遠くからようこそいらっしゃいました。お待ちしておりました」
セイン王子が笑顔で挨拶をすると、エリー王女も微笑みを作って応えた。しかし、視界に入るエーデルが気になって仕方がない。こんなにも待ち望んでいた再会であるというのに……。
それに、エーデルからの強い視線が痛い。笑顔であるものの、探っているような威嚇しているような試しているような……。そんなものをエリー王女は肌で感じていた。心臓がドクドクと嫌な音を鳴らしている。
「紹介するね。こちらはジェルミア王子の妹君、エーデル王女だよ」
「お初にお目にかかります。エーデルと申します。兄とは大変仲良くして頂いたと聞いております。兄同様、私とも仲良くして頂けますか?」
エーデルは丁寧に挨拶をする。"兄とは大変仲良く"という部分がいやに強調的であったことを除けば、好意的な態度ではある。
「初めまして、エーデル様。勿論喜んで。同じ王女同士、仲良くして頂けると私も嬉しいです」
エリー王女も笑顔を作ってはいるが内心穏やかではない。エーデル王女はセイン王子に好意を持っている。それは、お慕いしているという言葉にはっきりと表れていた。そんなあからさまな態度であるエーデル王女と、セイン王子は何故一緒にいるのか。デール王国からここに来るまでずっと一緒だった? ううん、デール王国にいる間中ずっと……。
エリー王女は、動揺していることを悟られないように、体の前に組んだ手にそっと力を入れた。
ピリピリとした空気が流れていることを肌に感じ取ったセイン王子は、エリー王女の後ろに立っているアランに助けを求める様に見た。しかし、目が合ったアランは「どうした?」と言わんばかりに眉間にしわを寄せる。そんなアランに対して息を漏らすと、セイン王子はエリー王女に向き合った。
「あー、エリー? ちゃんと話たいことがあるから、あとで二人だけで話をしよう?」
「……はい、分かりました。お待ちしております。……では、セイン様、エーデル様。楽しんで下さい。失礼します」
作った笑顔をセイン王子に見せたが、エーデル王女の目を見ることは出来なかった。胸が苦しくてこの場からすぐにでも離れたかった。エリー王女はすっと後ろを見せ、歩きだす。
背後から視線は感じていた。わざとらしいかも知れないが、エリー王女は何も気にしていないと見せるかのように、他の人に笑顔を振りまき、挨拶をしながら歩いた。